第21話 勇者vs魔人③
回転する盤にボールが投入された。
数字ひとつだけを宣言しているので、色は関係ない。
ぐるぐると回っているボール……を、じっと見つめるチカチル。
彼女は、魔人のイカサマを探す素振りも、自分がイカサマを仕掛ける仕草もなかった。
あまつさえ目も瞑り、あとは天に任せるのみ、とでも言いたげにボールの行方を目で追わなかった。……諦めた? わけではないはずだ。
彼女の表情からは、既に結果が分かっているような安堵があったから…………。
「? ……なにが見えて……?」
「目を瞑ってるんだからなにも見えないよー?」
と、軽口を挟みながら。
その後、時間経過でボールの勢いが弱まり、とある数字の穴へ入った。
…………。
ボールが入った穴は――――チカチルが指定した、たったひとつの数字である。
「な…………にッッ!?」
「はい、わたしの勝ちね」
勝敗はもう揺るがない。
チカチルが指定した数字の穴へ、ボールが綺麗に収まっている。
だが、まだ納得がいかない魔人が両手を盤へ叩きつけた。
「いや、待て……――ふざけるなッ! なにを……っ、ボールは魔法で操作されてるはずで――」
「イカサマでしょ? 上手いと思うよ。元凶の魔法陣は盤かボール、もしかしたら盤の下のテーブルとか、あなたの手袋とか……身近なところに転写されがちよね。探す方も身の回りばかりを見ちゃうし……。でも実際の『タネ』は身近なところにはないんだよね? 魔法陣はこの島の、『底』に転写されてるはず」
にこっ、とチカチルが笑って。
魔人の頬が、ひく、と引きつっていた。
カジノが圧倒的に優位に立っている理由が…………島の底の転写魔法陣だ。
「いや……だがッ、それが分かったところで島の底に転写されている魔法陣をどう削るんだ!? おまえが!? 人間が潜って削れるほど浅い場所にはないはずだ!!」
「水圧のこと? いやそれは魔法でなんとかなるけどね……魔法は万能なんだから。でもまあ、今回は違うよ。わたしはなにもしてないの」
運に
不安を消して委ねるというのも、これはこれで難しい。
チカチルがちらりと勇者さまを見る。
「オレでもねえぞ」
「あれ!? じゃあ誰が……?」
チカチルも、てっきり勇者さまが魔法陣を破壊してくれているのだと思っていたが……違うようだった。
魔人が気づかないような痕跡も残さない魔法陣の破壊。壊れていたらそうだと分かるものだが、それを気づかせない壊し方にも技術がいる。
転写した本人以外がそんな高度な真似、できるわけがない――――。
となれば。
痕跡も残さず魔法陣を破壊できる手練れは、ひとりしかいないだろう。
魔法陣を転写した張本人。ついさっきまでカジノにいたはずなのだ。
「あ。もしかして、エルフさんが……」
「野良、エルフか……っ!!」
「お願いしたわけじゃないけど……勝手にやってくれたのかな……。でもなんで……? ふしぎなこともあるもんだー」
白々しい態度に見えてしまっているが、本当にチカチルの指示ではない。
エルフが状況を見て、独断で行動をしてくれたのだろう。――どうして? が残るが、エルフの要求をあの場で飲まなかったことがこの場で活きてくる。
エルフになにも求めなかったチカチル。
彼女の意図は特になかったが……エルフは色々と考えたのだ。
「今は求めない」ことで、エルフは「今後、重要になる場面で手助けしてほしい」と解釈したのかもしれない。
初々しい勇者の手の平の上で転がされていた、とまでは言えないが――チカチルに都合良く展開していると言うにも、行き当たりばったり過ぎる。
そう見えるからこそ、彼女の天性の戦略性が発揮されたことになった。
今回の勝負にがっちりとハマった必勝法だったのだ――。
「魔法陣がなければイカサマもなく、正々堂々の真剣勝負になるよね。……そこまで持っていけたなら、わたしは負けない。運は良い方なんだからっ」
勇者になって備わった幸運。
チカチルの場合は元から幸運には恵まれていた方だ。
それがより強化されたと思えば、指定した「たったひとつ」の穴にボールが入るくらい当然の話だ。
「はい、わたしの勝ち。……分かってるよね?」
「…………ああ、分かってるよ」
「最後まで責任、取ってよね」
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