第12話 狩るバニー②


「勇者様」

「あ。よろしくお願いします、バニーさん」


「はい、こちらこそ。それで勇者様はまずなにを――」

「じゃあ……まずわたしのことはチカチルって呼んでください。わたしの方が年下ですもん!」


 たぶん……だよね? と確認すると、バニーガールは二十代前半であり、十九歳のチカチルよりは年上だった。


「いえ、勇者様はお客様ですし、さすがに名前では……」

「呼んでください。様も付けずに!」

「ですが……」


「むう」と、頬を膨らませるチカチルに戸惑うバニーガールだった。

 支配人に「失礼がないように」と言われているため、希望には応えるべきなのだが……。


 バニーガールの身になれば、客の希望とは言え、「様なし」「呼び捨て」にするハードルはかなり高いことをチカチルは自覚しながらも、お構いなしだった。


 譲れない部分は譲らない。

 そっちのルールなど知ったことか! と言いたげにチカチルが顔を近づける。


「様はいらないし、わたしはチカチルですから!」

「は、はぃ……?」


「チ・カ・チ・ルッ!!」


 大声で距離を詰めるチカチル。

 その圧に押されて、足を引いたバニーガール。


 さっきまでの力強い目力はなく、バニーガールはさっと目を逸らした。

 チカチルはその反応にむすっとした表情に加え、ガッカリしたように肩を落とした。

 ……それから聞こえるようにぼそっと呟く。


「なんだよもう……せっかくやる気があるバニーさんを選んだのに……」

「っ!? あなた……私の合図を、知って……?」


「わたしがバニーさんを選んだんじゃないの。バニーさんが、わたしを選んだの。だったら仕事関係なく、わたしをパートナーとして認めてよ!!」


 周囲へ視線を回すバニーガール。

 やはり人目を気にしてチカチルとフランクに話すことに抵抗があるようだ。

 だが……途中で気にすること自体をバカバカしく思ったのか、大人の女性が童心を思い出したように、「あはっ」と笑った。


 常に入れていた肩の力を抜いた。

 ふ、と、荷が下りたのが彼女の表情で分かる。


「……分かったわ。よろしくね、チカちゃん」


「こちらこそ。じゃあバニーさん、どのゲームがおすすめなの?」



 気になるゲームは……、と思って視野を広げれば、気づけば『あの人』がいなくなっていた。

 勝手に行動して……っ、と文句は言えなかった。


 調査をするなら別行動の方がいいし、一緒に行動をして怪しまれても面倒だ。

 それに……、あの人にもあの人なりのやり方があるのだろう。


 小柄で幼いバニーガールを選んだことにも理由があるはずだ。……あればいいけど。


「(小さな子が好き、ってことじゃなければいいけど……)」


「チカちゃん? ……それにしても、勇者様でもちゃんと遊ぶのね。てっきり…………まあいいけど。運要素が強いルーレットあたりがおすすめね。チカちゃんにトランプやマージャンをやらせても勝てそうには思えないし」


「それはそうだけど……。わたしのことバカだと思ってる?」


 単純なルールのゲームであればチカチルでも拮抗して戦えると思うが、読み合いや騙し合いには向かないだろう。

 運が良いことを利用した一発逆転なら望みがある。

 逆に、堅実に勝っていく戦いはできない……なのでゲームも限られてくる。


「うちのディーラーに勝てるわけないでしょ。そこらじゅうで魔法が使われているんだから。イカサマなんてし放題だもの。指摘すればノーゲームだけど……見破れる人はなかなかいないわね。どのタイミングで魔法を使い、どこに魔法陣があるのか。そこまで指摘しないとイカサマとはならないのよ。……ばれなければイカサマではなく、挑戦者にとっての不都合で片づけられてしまうからね」


 カジノ側からすれば好都合となる。……上手いことできている。


「じゃあ――まずはルーレットをやってみよっかな…………いい?」


「もちろん。軍資金があるでしょう? ぱーっと使いましょう」


 渡された大金は特殊なコインに変換されている。

 このカジノでしか使えない硬貨だ。


「大金が、コインに……これをまた大金に戻せるんだよね?」


 良いことを思いついたっ、とでも言わんばかりのチカチルの悪い笑みだったが、


「サービスコインは換金できないからね? だから使い切った方がお得なの。サービスコインと、勝って得たお金のコインは別物だから……誤魔化して換金し、持ち帰ろうとか考えても無駄だからね……分かってると思うけど」


「う、うん……当然!」


 見破られていた。

 ……チカチルだから、ではなく、初心者はみな同じことを考えるのかもしれない。


 バニーガールのじと目が、しばらくチカチルに突き刺さっていた。

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