第7話 再会……?
教会が用意した大型船は教会所有のものではなく、そもそもチカチルが堂々と正面から乗れるものではなかった。
その大型船は深夜に秘密裏に出港し、社会の権力者たちをとある南の島まで送り届ける――これまた秘密裏に運ぶための船なのだ。
深夜。ひとけのない港から、音もなく船が出港した。
約二日かけて、目的となる南の島……『闇カジノ』へ辿り着く。
密航していたチカチルは、屋根裏という狭いスペースに隠れていたので体をバキバキにさせながら……。堪え忍ぶ時間だった。
やっと目的地に辿り着いた時、チカチルはやる気に満ち溢れていた。
長いことじっとしていたから暴れたい……とにかく動き回りたかったのだ。
急く気持ちを抑えながら、周囲に人の気配がないことを確認してから船を出て、島へ降りる。
すぐ目の前、生い茂る樹海の先に見えるのは、闇の中に映える白い光だった。
木々が目隠しになっていて外からは見えないが、上からは丸見えだろう……まるで地上の太陽だった。
木の上を渡り歩き、太い枝を足場にして立ち止まる。
カジノの全貌が見えた。
音は漏れていない。圧倒的な存在感と光のせいか、聞こえていないはずの音が漏れ聞こえてくるようだった。
これが、カジノ……。田舎で生まれ、田舎で育ったチカチルにとって、カジノとは一生縁がない場所だと思っていたが……。
そもそも、チカチルが入っていいのだろうか?(未成年ではないのでルール上の問題はなさそうだけど)
どちらにせよ調査なので正面から入るわけにはいかないが……さてどうしよう。
魔王の子である『魔人』が運営している前提で調査をしにきたので、勇者の権力を振りかざして入るわけにはいかない……なので必然、不法侵入するしかなくて……。
そこで、チカチルはカジノの建物、ドーム状になっている屋根の部分まで壁を駆け上がっていく人影を発見した。動物かと思えば、違う……あれは人だ。
チカチルと同じく調査をしにきた勇者……?
いや、重複して任務が渡されることがあるのだろうか。
それとも勇者ではなく、独自に調査をしている勇者ではない誰か、とか……?
「………………もしかして」
チカチルが人影を追いかけた。
ドーム状の屋根の上で、彼女は不意の再会を果たすことになる――――
〇
闇カジノ。
ドーム状になっている建物の屋根部分に立つ人影があった。
黒いスーツを身に纏った赤髪の青年だ。
彼は懐から取り出した動物の骨らしきものに転写されている魔法を使用する。
奥歯ほどの大きさの骨を耳にはめた。
「マィルメイル……ああ、予定通りに島に着いたぞ」
彼は独り言ではなく誰かと話しているようだ。
耳にはめた骨は、魔法によって遠方との通信を可能にしている。
蛇の国では電子端末という形で、魔法を必要とせず同じ効果が得られるらしいが、彼が使っているのは古くからある手段だ。今もまだ一般的に広く使われている。
「ボートに加速魔法をくっつけて……操縦に難があるが、慣れれば快適だったな。ボートは使い捨てにはなっちまうが」
大型船を動かすには心許ない魔法でも、ひとりを乗せたボートであれば充分に足りる魔法だった。
数分間の最大出力を何度も使ったことで魔法陣は劣化で消えてしまったが、帰りのことはまたその時に考えればいい。
耳にはめた骨に指を当て、先方の声を聞く青年が眉をひそめた。
「……なんだよ」
相手の要領を得ない話し方に不機嫌さを隠さない。
言いにくいことなのか、先方の語彙力では説明できないことなのか……。
後者だろうと分かっている青年は声を荒げて急かすことはしなかった。
それをすればもっと遅くなることは目に見えている。
聞こえる声の主とは長い付き合いである。
「……分かったよ。それで? そいつはいつ頃、」
その時、彼は気配を事前に察知できなかった。
彼が気配に気づけたのは、背後の人影が声を出したからだった。
……もしも、迫る『彼女』が殺す気だったなら、既に青年は刺されていた――――
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