四蹴 DAYS

 授業が死ぬほど退屈だった。とうに理解していることを何度も出題されるというのは地獄のようだ。鳥山三世の地獄だ。いや、原一世だが。

「おーい、京平! 部活行こうぜ」

 またしても青野が召喚された。

「おう、行くか」

 西小FC。小学生のサッカー技術などたかが知れていて、京平レベルの身体能力でも無双できそうな気がする。


「今日の原キャプ、動き凄いな!」

「ああ、さすがキャプテン……」

 後輩の小田島と杵渕が珍しく京平を褒める。この二人は五年生の中では抜きん出てサッカー技術が高く、六年生の京平や羽生も小馬鹿にしている節がある。まあまだ小学生なのだから礼儀礼節などしっかりしている方が不自然といえる。

「にしてもあの子なんだ? あんな子いたか、杵淵?」

「さあ? シノブさんだっけ? 上手いよな、ドリブル」

 小田島と杵淵はシノブのドリブル技術に唖然とする。それはそうだ。原寛貴が生み出した最強キャラなのだから。リアルのガキ共など蹂躙してくれなければ困る。

「すげえな青野の従妹。シノブちゃんだっけ?」

「ああ、アイツ昔からドリブルばっかやってたんだよ」

 羽生と青野はシノブを評価する。京平も凄かったようだが、シノブのインパクトに負けている、というのが今日の全体的な評価だろう。


 帰ってきた。いやあ、疲れた。ちなみに家に、ではない。いや、家なのだが、君達の思っている家とは違う。原宅だ。いや、原宅なのだが、君達が思っている原宅ではない。

「おかえりなさい、京平」

「ああ、ただいまシノブ」

 夢から覚めると、当たり前のようにシノブがそこにいた。長かったタイムリープ、のような夢は終わったのだ。

「何だっけ、色々あったな。青野とか羽生とか小田島とか杵淵とか。あと、ええと、授業が退屈だったな」

「ふふ、大冒険だったみたいだね、京平」

 長かった。長い夢だった。しかし、不思議な充足感がある。虚しさよりも安心が勝つ。こここそが京平の居場所だ。ここからまた京平のDAYSが始まるのだ。

「生方さん」

「シノブだよ!」

「シノブ、俺、また暇な時にでも」

「うん、サッカーしようね」

 サッカーというスポーツは、皆を興奮させる。皆を熱狂させる。そういう不思議な魔力があるのだ。だからこそ、サッカーをやりたいと思うのだ。

「青野と羽生。元気かなあ」

「きっと元気だよ。だって」

 シノブは一拍置いて、

「西小FCの魂は不滅だからね」

「西小FCの……魂か……」

 西小FC。ただの小学生時代の部活動だが、確かに京平達はそこで切磋琢磨した過去を持つ。過去は変わらないからこそ尊いのだ。タイムリープ物の場合、最悪の過去を塗り替えようとするものだが、京平の場合は塗り替える必要はない。最高の仲間と過ごした最高の時間なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サッカー転生 原寛貴 @mrndx033

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ