二蹴 青野くんちの大作戦
「で、君誰?」
「あ、サカ神シノブと言います」
「ああ、西のオフサイドの?」
「何です、その変な異名。馬鹿にしてるんですか?」
「いや、原寛貴の……」
「ハラヒ?」
しまった。この時代にはまだ原宮ハラヒはいない。いや、そういう問題ではない。西のオフサイドや原寛貴という名前に反応はないのに、彼女はサカ神シノブと名乗る。ここに何らかのからくりサーカスがある気がしてならない。いや、この作品の場合はからくりサッカーだろうか。などと下らない思考を断ち切り、
「君、サッカーの神様なの?」
「え? まあ、ドリブルは得意ですが……」
サカ神シノブはドリブルの名手で、乗っている時はキーパーすらも抜き去りそのままゴールするという、成神蹴治みたいなキャラクターだ。つまりこの無駄に長い走馬灯みたいな夢は、原寛貴の妄想を忠実に再現していることになる。思えば小六で陰毛が生えていたり、女子なのにサッカー部にいたりなど都合が良すぎる。原はシノブの胸に手を伸ばす。
「手を伸ばせば届くんだ‼」
「きゃ♡」
「いい加減始めようぜ、ドリブラー‼」
「私に言ってるの⁉ 何を始めるの⁉ サッカー⁉ セックス⁉」
この子は小六のくせになかなか性の理解があるようだ。まあ、原が妄想の末に生み出したキャラクターなのだから、その肉体存在魂精神全身全霊が、原寛貴の都合の良いように消してリライトされていると思っていいだろう。努力と美少女を等価交換したのだ。何という真理の扉だろうか。まさに尻の扉ではないか。開くと何が出てくるのだろうか。運命ちゃんだろうか。
「おい、京平。練習終わったしもう帰ろうぜ」
「俺は道違うから先帰るよ」
「おう、またな羽生。俺らも帰ろうぜ京平」
「ああ、そうだな」
道が違う羽生は先に帰り、原は青野と帰ろうとするが、シノブは一体どこに帰るのだろうか。というか、このまま帰ったら夢が終わるいつものパターンではないか。もっと色々セクハラプレイすべきではないだろうか。どうせ夢なのだから。時間は絶対に前にしか進まない。タイムマシンかタイムマシーン3号かタケミチくんか慎平くんでも呼んでこない限り、決して遡ることなど出来ないのだ。もし出来たら、原京平こそがタケミチ1号、慎平2号に続く
「タイムマシーン3号となる」
「何言ってんだ、京平」
原のぼやきに青野は呆れる。こいつのこういうドライな反応も懐かしいな。馬鹿にしている訳ではなく、本当に心配してくれているのだ。友達として。いやあ、この時代は友達に恵まれていたなあ。
「私も帰る」
「どこに?」
「青野くんち」
「青野くんちの大作戦⁉」
俺じゃないのかよ‼ と猛烈に思う原だが、どうせ夢だし思ったより楽しめた。もうここら辺で切り上げてもいいかもしれない。そもそも原京平はセックスなどを好む変態ではない。ペッティングで満足する紳士なのだから。そうでなければ、ズリネタがタイトルに入っているような漫画は描かないだろう。
「じゃ、青野。シノブを頼むな」
「頼むってか、この子従妹だぜ?」
青野に従妹。いたのか? いや、いたとしても特におかしくないが、シノブが従妹というのは何か無理矢理な設定に思える。走りながら書いてるな、この作者。従妹ということは、青野とこの子を結婚させたりなどの展開も可能ということか。いや、それだとむしろ青野がラノベ主人公のようではないか。青野くんの大作戦ではないか。青ブタではないか。むしろサッカー部だからアオアシではないか。岩みたいな頑強な身体だからブルーロックではないか。いや、こいつなら本当にスポーツ選手になっていたかもしれない。こいつとは中学卒業以来特に交流はなかったが。
「なあ、青野」
「何だ、京平?」
「ちょっと太った?」
「うるせい、知るか」
軽口を叩きながら、原と青野とシノブは帰路に就く。この尊くも儚い夢を噛み締めながら。
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