019 正義ハ悪ヨリ生マルル
五天冠、いや1人を除いた4人達が延々と討論しているとき、謎の多い、文字通り無口の四冠がやや右斜めに視線を上げる。
「ひぃ……」
「今、目が合ったかな、かな?」
「そんな訳ぇ。私らぁ、貴方の〈カモフラージュ〉で姿とぉ気配を消してるものぉ。」
「ほんとかな、かな……」
その男性かも女性かも分からない、長い髪を後ろで結んでもなお床に付く勢いのピエロの仮面を被っている人物は、また視線を下に向ける。
「よかったぁ……」
討論は進み、1時間弱が経過したとき、針は動く。
「では、そういうことで。分かっているとは思うが、他言無用じゃ。」
そう言い残し、一冠は突如として消えた。転送系の能力だろう。
「「「はっ!」」」
「……」
それに続き、他の3冠達も転送系の能力により飛ばされる。
恐らく仲間にそういう類の持ち主を囲っていることだろう。転送系は極めて稀少な能力である。
「私らもぉ、ズラかるよぉ。」
「かな!かな!」
「そこのお嬢2人、待て。」
すると、1人残った無口の人物が初めて声を放ったのだ。
明らかに『オシリス』の2人を指したかけ声で、2人は硬直した。
「貴様ら、何者だ。」
この大聖堂には暗黒物質が大量に浮遊しているとされる。つまり、何かしらの動きがあったとき、瞬時に感知されるということ。それは能力も同じこと。
その状態でこれらをスルーすることが出来た彼女の〈カモフラージュ〉は凄まじいものだが、それらの暗黒物質を全て避けて自分の感知能力を巡らせておいたという、この謎の人物は一線を画す。
神業と言えよう。
「独りだし、やれるぅ!やるっきゃないぃ!」
「かな!かな!!」
2人して彼に襲いかかる。
「聞く耳持たぬか……」
「「……!?」」
突然、彼女達は動きが止まり、転げ落ちる。
「なに……これ……」
「動け……ないかな……かな。」
「〈
「とんでもない器用さ……かな、かな……」
「白髪にぃ、黒い爪……氷の能力、間違いないぃ……終焉(ジ・エンド)様……」
しかしその瞳に一切、光はなかった。
「フン、嬉しいな。
「何者かな、かな……」
「貴方の野心を旨にぃ日々闘う組織、『オシリス』そのものですぅ。」
終焉(ジ・エンド)はその仮面を外し、彼女達を縛る技を解除した。
「ぷはぁ、やっと自然体で居れる!」
「「え?」」
「え?」
「「は?」」
「え?」
「「えぇぇぇぇぇええ!!!」」
「んだよ、うるさいな!!」
トーマは2人の頭を平手打ちし、それにより静まる。
「あの崇高なるぅ、気高き真のヒーロー、終焉(ジ・エンド)様がぁ、ガキ……ハァハァ……これはアリ!」
「「何がだよ……」」
「あぃ、ごめんなさいぃ……」
この微笑ましい会話の流れを経ても、トーマは彼女達を見ているようで見ていないような底なしの深い眼をしていた。
そこに、物差しでははかれぬ感情など、読み取る余地も非ず。
2人はただただ冷や汗をかきながら唾を呑んだ。
「まぁいっか。あんたら、転送系使えるやつ居る?」
互いに互いを見つめあった後、トーマに視線をやって2人は首を横に振った。
「そっかぁ。どうしようね。」
「困ったのかな?かな?」
「うーん、困ったよね。」
「ホログラムではぁ無くてぇ?」
「ホログラム……?」
「だよぉ。さっき居た人達もぉ、ホログラムですよぉ?」
「え、テレポート的なのじゃないの?」
「じゃないかな!かな!」
「え?」
「「え?」」
「……え?」
「「え?」」
「えぇ……?」
「やかましいわよぉ!」
「あぃ、すみませんでした……ホログラムなの?」
「「うん。」」
「どうすんの?」
「どうしようかな、かな。」
そうして、トーマは再び仮面を身につけて彼女らに背を向け、大聖堂の奥へと姿を晦ました。
「なるほどぉ、終焉(ジ・エンド)様はぁ、困ってなんか居ないわぁ。」
「違うのかな!?かな!?」
「きっとぉ、私たちにより優れた能力を身につけろぉ!と言っているのよぉ。」
「かな?かな?つまり、あたしらが未熟だとあの一瞬で察し、答えを教えず計算式だけを教えてくれた……ということかな、かな。」
「偉大なるぅ終焉(ジ……エンド)さまのことですわぁ、そうに違いないわぁ。」
「すぐそこに居たのに……とっても遠い存在……かな、かな。」
当たり前だが、トーマは本当に困っていたのである。
あの子達が
なんか慕ってくれてるみたいだし、なぜか。
「またこのシスター達の前を横切るんかぁ、恥ずかしいな。」
にしても、なんだったんだあいつら。化け物のオンパレードかよ。その裏には更にあの宇宙人ら……
古い人が言ってたっけ?
「悪は正義より……正義は悪が……」
「正義はいつだって、悪より生まれる。」
あ、そうそう。誰だっけなぁ。まぁ、ますます気に食わないね、この世界……ん!?
「なんだ。」
気が付かなかった。誰だこいつ、温度は違和感ない程に調整して質が下がっているにしても、〈絶対零度(アブソルート・ゼロ)〉は常時発動している。
僕の半径10メートルは他の能力を無力化できる程に
それを僕に気づかれることないまま、今、隣に立っている……こいつは誰だ。
「親父の言葉だよ。俺はショーマ。日本から来た、No.2ヒーローの……」
「興味ない。」
「冷酷ぅ……」
あの老害が言っていたルーキーのことか。
「雑魚に与える時間なし。」
「ここ……少し空気冷たくないですか?5番目の四天冠さん。」
僕の氷帝の対軸、炎帝を扱うんだっけな。多分、僕と同じく粒子にまで対象取れるんだろうね。それで僕の〈絶対零度(アブソルート・ゼロ)〉を相殺した感じ?
やもんで気づかなった訳か。勉強になったな。逆にブラックホールを観察するみたく、穴が空いたみたいな所を逆算すれば気づける……か。感謝しないとね。
「そうだな、風邪には気をつけるといい。この頃は物騒だ。」
「物騒……ね。助言、気をつけるよ!」
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