018 社会ヲ仇ナス常識

 終焉ジ・エンドと名乗る元No.1ヒーローが暴いた、神々のゲームの出元。それにより、ヒーロ社会にヒビが入るという世界を揺るがす大事件が発生。


 これを世間はゴッド事件と呼ぶ。


 大悪党ビッグヴィランをも越えるであろう生物の誕生に各国の政府のみならず、国民も怯えを隠せないで居る。


 そして、事態はこれに留まることは無かった。終焉ジ・エンドを観たチンピラや裏社会の人らは、共喰いという一線を越える。


 しかし、終焉ジ・エンドのように能力の孤独に耐える成功例は未だ確認されることはなく、失敗したものは皆、暗黒物質ダークマターに飲み込まれて醜い鬼化デーモンという化してしまう。


 ノーマンによる命の寄生が始まりにすぎないという事実が、人々の心の奥底に鍵かけていた恐怖を解けてしまったのだ。


 無論、政府がこれを無視できる訳もなく、自粛宣言が下され、外出が禁じられるという前代未聞の出来事である。


 飲食店のような接客系の会社はほとんどがこれをもって倒産することとなる。


 事件から半年の時を経て、世界は大きく変わる。


 リモートに力を入れ、全自動化が実現の芽を見せる。同時にAIの開発も爆発的に進捗した。


 不謹慎な事件で、人口の2割が命を落とした又は人ではなくなったが、引き換えに人類は大きく進化した。


 この事件が起きていなければ人類がこの領域に到達するのにもう30年はかかると言われるまでとなっている。


 終焉ジ・エンドはヒーロー協会や『オベリスク』の闇を表に晒しただけではなく、人類を技術を30年短縮させた偉大なる人物として、派閥が生じている。


 そうして、真のヒーローとして不特定多数に支持されることとなる。


 勿論、彼の頭の中に、そのような計画は1つとして過ぎることは無かった。


 「流石ですねぇ、終焉(ジ・エンド)様……」


 「一体どのような姿をしているのかな?かな?」


 「吸血鬼だったらいいなぁ。」


 「かな?かな?01ゼロワン様と一緒に死んでないといいね!」


 噂の真のヒーローをひと目することを夢見る2人の女性。1人は青白い肌に八重歯が明らかに鋭い吸血鬼で、癖の強いもう1人は胸に栄養が行き渡りすぎていて背が驚く程に小さい。


 「『オシリス』の皆は元気かな?かな?」


 「 どうだろうねぇ、とりあえず今はこれを片付けよぉ。」


 「かな!かな!」


 『オシリス』……『オベリスク』を打ち倒すべく立ち上がった、謎多き組織として知られている。


 ゴッド事件の直後に現れたため、ヴィラン終焉ジ・エンドと関係のある組織として、ヒーローらに追われている。


 これを勿論、彼は知らない。


 彼女2人は、ヒーロー協会のアジトの1つのとある大聖堂の屋上から侵入し、 気づかれぬまま会話の盗聴を試みる。


 「どうするんだ、これ。」


 「どうするも何も、使の回収をしないと一環の終わりだや。」


 偉そうな人らが5人、円卓を囲んでおり、人席が空席である。


 「スカーレットは何処で油を売っているんだ!?」


 「そう取り乱すでないわい。みっともない。彼女はルールの追加を独断で変更した。合わせる顔がないのだろう。」


 「彼女が使セラフィムだからって、甘えすぎだや老いぼれ。」


 「ギャハハ、一冠に喧嘩を売るとは、根性あんな、三冠よ。」


 スカーレットとは、終焉ジ・エンドを追い詰めた真紅の髪の女性である。


 「なんじゃ若僧、まとめて潰しちゃるわ。」


 「おぉおぉ、怖い怖ーい。」


 1人だけ、顔を1ミリも動くことなく無言で過ごす。


 「まぁよい、四冠が退屈そうにしておる。本題に戻ろう。」


 「ねぇ、あの四冠って人、誰かな?かな?」


 「知らないなぁ、そもそもぉヒーロー協会のトップを総称してぇ四天冠と呼ばれてるからぁ、5人も居るのはおかしいぃ。」


 2人は囁くような小声で会話をする。


 「03ゼロスリーも知らないなら、05ゼロファイブも知らないかな!かな!」


 「そうねぇ、知らないと思うよぉ。」


 吸血鬼は03ゼロスリー、癖が強いのは恐らく04ゼロフォーで、他に05ゼロファイブが居る模様。


 「だいたいよ1冠、こいつ新入りの癖に何も話さないって、メンツがたたねぇわ。」


 「あまり興奮するでない。今までの四天冠というフォーメーションを崩してまで5人目を導入し、更にはスカーレットより上位の位置に入れたにはそれなりの訳がある……君でさえも、四冠に勝てないやもしれぬぞ。あるいわ……」


 「ッチ……そこまで言うなら大人しくしてやんよ。」


 若僧は机に脚をのせ、姿勢を寛いだ。


 「 よろしい。さて、使は恐らく終焉ジ・エンドが蠱毒によって得ている……そしてスカーレットを除けば天使ば2人。その2人の居場所は特定済みとなると、問題児の前者だが……意見はあるか?」


 「スカーレットは分からんがや、終焉ジ・エンドの行動から見るに『オベリスク』に固執していら、それを利用すれば寄ってくるとちゃうがや?」


 「『オシリス』が出向いたらどうするんだい、おっさん。」


 「No.2ヒーローを配置すれば問題ないだら。」


 「おぉおぉ、突然湧いて出たの持ち主のルーキーか?」


 「奴はルーキーやが、No.1ヒーローに最も近く、暇をしている。その上、能力もあの終焉ジ・エンドと対軸……いいものが見れるだや。」


 「天敵……という訳かの。」


 「それにしても面白い話だわ、人間でいう悪がヴィランなら、それは俺らなのにな。」


 「四天冠……いや五天冠に加わったとき、同意したじゃろ。」


 「そりゃあそうよ、空の外のアイツらを見てまだヒーローごっこしたいと思う奴など、自殺願望物語だけや……」


 ヒーロー社会の裏を掌で踊らしている存在が何者であれ、人類を仇なす存在であり、真髄に深く叩き込まれた常識である。


 これを害すものは悪とされ、崇むものは正義と分けられる。常識による常識のすり込みは、洗脳のそれと同義である。


 それらをものとせず一歩も下がらず重たい腰で前進する終焉ジ・エンドは、ここにいる人らの計画を仇なす存在となる。

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