011 ダンジョン

 神の光を経て数日が経った頃。朝日が照らす海面に浮かぶ1つの島で……


 「どこ行ったのよ、あのバカトーマ。」


 「んん……」


 寝相が悪く、唸る02ゼロツー


 「大丈夫よ、きっと死んでなんかないわ。」


 どうやら02ゼロツーは能力を発動してしまったのだ。終焉ジ・エンドが居なくなったことであまりの悲しみに能力を暴走させてしまっている。


 そして、能力を発動している間は、覚醒の接吻でしか目覚めることはできない。それも、彼女の中では終焉(ジ・エンド)を王子に限定しているため、彼にしか解くことはできない。


 加え、現実改変が可能で、とても厄介な能力だ。あらゆる現実が書き換えられる前に手を打たなければ成らない。


 彼女の命を奪うことになったとしても……


 「……撤退だ!!これ以上は無謀だ!」


 ヒーローらが3人。パーティを組んでこの島に挑んでいた。


 しかし、序の口で心折れる。


 「ジャンパー、脱出ゲートを頼む!」


 「今回も駄目か……おっけーい。」


 開かれたゲートに3人は入り込み、突如としてその空間から姿を消した。


 テレポーテーション、便利な能力である。


 「どうだぃ、新しい発見はあったかぃ?」


 片目だけ丸メガネをつけてるいる老婆。髪はオールバックかの如く固めてあげており、何一つ文句ないスーツの身だしなみ。地位が高いことは誰の目からも明らか。


 そのパーティのリーダーらしい人物が、首を横に振る。


 「そうかぃ……ドラゴンといいコロッサスといい、一体どんな生態系なんぞや。」


 「でも姐さん、この4度の挑戦で1つ、判ったことがあります。」


 「ほぉ、言ってみな。」


 「俺達も命は惜しいのでドラゴンやコロッサスには近づきもしませんが、前回倒したはずの吸血鬼、ハーピィのような怪物達が、どういう理屈かまた出現するのです。」


 「蘇っている……と?」


 「そうとしか考えられません。ネクロマンサー的な何か、又はどっかしらの怪物の造形能力かあるいは……」


 否、現実改変能力である。


 「コントのでしかなかった世にも奇妙な生物らがうじゃうじゃおるだけでも混んがるのに……個体それぞれが能力を備わっている……」


 「僕ら3人では到底……」


 「トップ10ヒーロー2人でも1パーセントも攻略出来ず……か。」


 どうやらジャンパーという名のヒーローは、トップ10ヒーローの2人を島に連れていく立ち位置で、実際に戦っていたのは他の2人のよう。


 そして、01ゼロワン達が篭っていて、ヒーローらに侵略されているこの島は他でもない、あのムー大陸である。


 終焉ジ・エンドが天を割ったことにより、水圧に押され海底に捕まっていたその大陸は浮上し、海面にその姿を現したのであった。


 太平洋に位置し、ハワイ等を囲っている巨大な大陸として都市伝説語りされているムー大陸。


 浮上したそれは、南極のすぐ側で、日本の2分の1の面積と狭いことから、ムー大陸だと思考を過ぎることはなかった。


 「一体何が起こっているんだぃ……」


 この島を世界は命名した。


 「……あのダンジョンで……」


 このダンジョンでは、02ゼロツーの能力、の範囲技、〈夢崩界域トロイメア・ゾーン〉でおとぎ話の中で登場する生物がほぼ全て出現している。


 これにより物騒な島となっている。かのコロッサスも、リアルサイズで出現していることでより脅威が増している。


 良くも悪くも、お陰でヒーローら安易に近づくことができず、01ゼロワンも守られている。


 場所はうつり……


 位置はサンタカタリナ、ブラジル。


 快晴の空の下、ギャング争いを疑わずには居られない、全指切断されている首無しの死体が目立つ。


 そしてそれを食している野良犬2匹と、素通りする市民ら。


 通報する人間は居ない。


 現場のすぐ近く、フードを被った男性が路地裏で座って新聞を手に持ってニヤついている。


 それにはこうかかれている。


 「ダンジョン攻略、No.8、No.5ヒーローが失敗。」


 こんな暑い所で、その空間だけが冷気がただ漏れている。


 レンガの壁には結露までできている。


 「暑ぃな……溶けちゃうよ。」


 男性から発せられたのは、青年の少し高い声だった。


 「おいおい、ここで何をしているんだ、鹿野郎。」


 すると、ガタイがやたらとでかい男が2人、彼に近寄ってくる。


 「一言目がそれとは、物騒だね。お酒が不味くなるよ。」


 彼は缶ビールを飲んでいた。


 「知るか。ここはペドロ英雄事務所の縄張りや。見知らぬ顔は招かないタチや。」


 派手な衣装からして目立ちたがりヒーロー。


 「にしてもここ寒くねぇか?」


 「言われてみればそうやな…鹿野郎、お前の能力……か」


 「ん、どうした?……!?」


 男が横を向くと、同僚の首が転げ落ちていることに腰を抜かす。その首からは血が噴水の如く出ている。


 ヒーローはこの血を満面に浴び、赤黒いフェイスメイクを完成させている。


 「うぁぁぁぁあ!!」


 「鹿野郎は気に食わないね。」


 「な、何をした……!?」


 「水系の能力か……運のない魚野郎だね。」


 「確かにそうだよ、それがなんなんだよ!」


 「いや、ほら。能力の副作用で、彼を纏う小さな水滴を利用しただけだよ。ところであんた、死んでるよ。」


 「……え?」


 青年は視線を男の足元に運んだ。


 「腰から下が……ない……」


 どうやら青年は、死んだ隣の男の血を使って彼の腰を切断させた模様。


 「タダで済むと……思う……なよ……」


 男は息をひきとる。


 「あっれぇ、思った以上に死ぬの早かった……まぁ、いっか。」


 数日後、ブラジル国内を流れるニュースではこの事件を取り上げ、殺されたヒーローら2人が裏金を利用して悪巧みをしていたことが暴露。


 これにより、ペドロ英雄事務所からは、次々と裏社会に関係する闇話が広まり、弁解を余儀なくされた。


 ブラジル国民らはこれに感銘の声を上げ、"エロイ・センレイ"、ポルトガル語で"無法のヒーロー"として陰ながら称えられることとなる。


 「いやいや、知らないねん!なんでこうなるん……名前も18禁なのしんどいし……」

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