012 無限ループニ在ルハ法則
「『オベリスク』は世界の主。」
壁や電柱に貼り付けられた紙に、宗教の勧誘の勢いで大きく書かれたキャッチコピー。
ブラジルから数日歩き、着地はアルゼンチン。この貼り紙はそこら中にある。
どこかで聞いたことがあるなぁ。なんだっけな、確か闇ヒーローが口にしていたような……
まぁ、ろくでもないことだろうし忘れるか。
それにしても僕は怒っているんだ。
世界を絶滅させる。これが僕の求める最終章だ。
でも最近気づいたことがある。
破壊を試みたとき、何故か人の為になってるんだよね。
闇ヒーローをとりあえず突発にしばきたくなったからしばいたら、エルフを奴隷として売り捌いていて、助けた形になってしまった。
とりあえずエルフの知能を借りて拠点を探していたら、長い眠りについていた少女を目覚めさせて助けてしまった。
しかも、僕の持てる最大威力を試すべく、全てを破壊しようとしたら何故かムー大陸が浮上した。
これによって世間は大盛り上がり。色んな都市伝説が飛び交い、報道も儲かり、ヒーロー関係の人らも需要が更に高まった。
そしてこれだ。
彼は新聞を手の甲で叩いた。
ウザかったチンピラヒーローを殺したら、まさかのそっち系のやばい人らで、色々な国民を助けてしまっている。
オマケに変な呼び名もついた。
ほんと、飛んだとばっちりだよ……終焉(ジ・エンド)のヴィラン名、ここでも広めた方がいいよね絶対。
そう、彼は終焉(ジ・エンド)のトーマである。
最期の大技、〈
しかし、飛躍したその〈超再生〉は、1ミリ単位からの再生をも可能にしていた。
簡単に説明するならば、砂糖1粒から全身を再生できてしまう程になっているのだ。
流石の〈超再生〉でも、チリからの再生となると数時間……いや、数日はかかる模様。
その過程で、チリ状態のまま風に運ばれブラジルに着陸したという。
でもなぁ、自分で訂正の断りを入れたらダサいよな。どっかのシュキバラと同じだよもうそれは……
否、暴走しているだけである。
「『オベリスク』は世界の主。」
ほらぁ、またこの貼り紙だよ。しつこいのは嫌われるよ。
すると、トーマは異変に気づく。
あの犬、さっきも見たな。同じ紺色で耳が切られていて、片脚を引きずらして前を横切る……
やっぱり……4回目だ。逆には今の今までよくスルーしたな僕。
こんな偶然はない。場所も確かに、あの今にも崩れ落ちそうなオークのベンチも同じ。
走ってみるか。
トーマは走り出した。
数分後…
「やっぱり同じかぁ。」
ループだ。
きっと誰かしらの能力。幻を見せられているのか、そもそも空間ごと変えているのか。
どっちにしても、考えている暇はないね。
相手にはこっちが丸見えだろうし、前者の類の能力なら、既に捕らえられている可能性が高い。
だったら2つのことを同時進行で行う。それにはあれを試すか…
「〈
できた!練習したかいがあったね。
氷帝で自分と瓜二つの分身を創造してみせた。
〈
元より、〈超再生〉は能力を覚醒させた者のみが扱える最上級技。
能力の覚醒とは、その効力を自身に施すまでに至ること。
しかしそれは自然の摂理、神が創りたもうた命を侮辱する行為に値するからと批難されている。
一方〈
そんなものが禁術とされているには他でもない、分身には人格が宿るからである。
分身には本体の人格が宿るが、
分身が自身を本体だと錯覚をし、
そして何より、分身が感じ取る情報は文字通り全て、一方通行で本体へ共有される。
そのため、本体は同時に、分身の数だけの視界や思考、感覚等を得る。
酔うなんて言葉で表すことの出来ない程の経験。単純に感覚がバグるのである。
それに留まらず、感覚とはとても繊細で、分身が消滅すると
すなわち、死を経験するということ……解除するだけでも命懸けの代物である。
「んじゃ、走るよ2号。」
「僕に指図するな、
遠のいてゆくその声をだんだん大きくしながら分身は叫ぶ。
「いつまで走ればいいんだ?」
「さぁな!…地獄で待ってるよ!」
「うぉぉぉぉお!!!」
彼らが走り出して1分間、空間が歪みはじめる。
同時に行う2つのこと。1つは逆方面に走り出す。2つめは複数の人格を共有すること。
仮にこの現象が対象者の範囲を要するであろう空間に影響を及ぼす能力なら、いくら強い者だろうと、広範囲なものには限度がやってくる。その限度は1つめの動作で破ることが可能。
対象者のみに影響を及ぼす幻覚系の能力なら、複数の人格までをも対象にとることはできない。例え可能だとして、互いが距離を離し続ける限り、前者同様に範囲の限度が関わってくる。
実に素晴らしい対処方法である。
おぉ、視界が気持ち悪い……分身がこのループを抜け出したみたいだね。
となると……僕にだけかけられた感じか。我ながらあっぱれだ!
さてと……分身が自由に動ける今、あとは任せればいっか!分身は
あぁでも、〈
彼は幾度と通り過ぎる犬を観賞するのか、路上に胡座をかいた。
実にノン天気なトーマであった。
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