010 神ノ光

 「でも僕を殺してるのは認めない。」


 「普通ナラ……コレダケデ、ヒト壊レル。オマエ、強イ。」


 「僕はもう既に壊れてるんだよ、コロッサスさんよ。」


 「オマエノ心……ミツカラナイ。」


 「あぁ。」


 思えば不思議な話だ。


 こんな拷問、精神的に平常で居られることは愚か、会話することもままならないはず。


 今もこうしている間に、こいつは僕の四肢を何度も何度も何度も何度も幾千度も……ちぎってはくっつけている。


 痛み……?


 一瞬だが……感じる。いや、感じていた。死ぬ程の、起きて居られない程の痛みが一瞬、全細胞を内から刺激していた。


 今はどうだ。


 断たれている感覚はある。でももう、痛みは自然と無い。〈超再生〉が自動になっているから、痛みが走る前に細胞が凍らされているからか……?


 自分の腹が、腸が、骨が見える。まるで付け替え人形として使われている感じだ。


 良い気はしない。


 でも……何故だろう。感覚が研ぎ澄まされてゆく。そんな気がする。


 感覚は、ポイント・ネモに沈んでいくような……


 何も無い空間。ただ、大気が、光が、この世の摂理が……波のように肌の表面を滑っていく。


 頭では理解できないが、身体は、本能、僕という人を構築する遺伝子は、理解している。


 これは、人在らざる存在だと……


 これが良いことか否かは、分からないが、これが今の僕だ。


 「おい、鉄屑ガラクタ。」


 「気ガ……変ワッタ。」


 「さっさとその汚らわしい鉄ゴミを退かせ。」


 鉄屑ガラクタは一瞬淀みを見せた。


 「どうした、ふらついているぞ。」


 何も発せず、鉄塊を1つ、2つ、5つと、次々とトーマの身体を貫かせた。


 しかし、それに対してトーマは笑顔を浮かばせる。


 「痛ク……ナイノカ。」


 「今更何を痛がれと言うのだ、鉄屑ガラクタさんよ。」


 トーマが鉄屑ガラクタに触れると、手のひらの形を中心に表面が崩れはじめる。


 「可笑シイ……我々ハ滅ビタムー文明ノ……守護神。」


 触れた傍から瞬時に凍らせ、で瞬時に分解。これを瞬きをする間に100回ば軽く繰り返さなければ、このような現象は起こせない。


 達人の領域だ……いや、もはや達人を超越している存在。


 「ちっぽけな神様だなァ、おい。」


 「コンナハズデハ……」


 「少々錆びていたのではないか?メンテナンスを怠ったのではないか?貴様ら過去の投影……テープの一段落めで眺めて哀れんどけ。」


 しっかし硬いな。守護神というのもガセじゃないね。


 この研ぎ澄まされた感覚で何ができるのか……試したい。


 僕が持てる全ての力を、この鉄屑ガラクタになら、ぶっぱなせられそうだ……


 「未来は、未来を生きる命に賭けて眠れ……」


 彼の〈絶対零度アブソルート・ゼロ〉はストッパーが外れたかの如く、更に周囲の温度が急激に下がりだす。体温を0度より下回らなければ創りえない程の冷気が、大気を白く濁しながら溢れている。


 トーマの頬、腕、胸辺りは には蒼白く光を反射する膜が徐々に現れ、ゆっくりと彼を蝕みながら広がっていく。


 凍っているのだ。体温が零度を下回った証拠である。


 身体の感覚はない。動かしている実感はない。


 ただ、脊髄反射の如く身体が動き出す。身勝手なままに……


 すると、崩れた箇所から、外側が薄らと見える。


 そこから見える跡地が遠ざかっていることから思うに、これは移動している。


 どうやら、鉄屑ガラクタの中に取り込まれた模様。十回りいや、1万回り程縮んだこのコロッサスも説明がつく。


 「なるほどね……」


 「未来ガ明ルイ……トハ限ラナイ。」


 「んぁ?……明るいと判っている未来に、なんの価値があると言うのだ。判らないからこそ、知るために明日を体験してみたいと思えるんだ。」


 「再度問ウ……オマエ……ハ何。」


 「やつがれ終焉ジ・エンドだ。」


 トーマ……終焉ジ・エンドは、何かを閃いたのか、左手を天へと大きく掲げた。


 これが僕の持てる、最高に最悪で最強の技。身体が完全に凍てつき動かなくなる前に放つ、究極奥義。


 の更に向こうへ……


 終焉ジ・エンドの周囲を、キラキラ輝く粒子が浮遊し出す。そして数キロメートルに及ぶ範囲で、宇宙まで届く紫色に光輝く氷の粒子野壁が創造された。


 それは空を割った。


 「フッ……絶対アブソルート………………………………終焉フィナーレ…………」


 指パッチンをし、その高く掲げた腕を振り下ろした。


 〈絶対終焉アブソルート・フィナーレ〉……それが齎す終焉には、文字通り、絶対に最期となる。技も、効力範囲による崩壊……


 更には命の切なさをも連想させる。


 やがて紫光は消え、そこに在るはずのコロッサス、トーマの姿は見えない。草1枚すら在らず。


 確認できるのは、核が落とされたのかと疑わざるを得ないかつてない、壮絶なクレーターのみ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その頃、01ゼロワン達は……


 天を貫く紫色の光を目にし、片手は胸に手をあて、片手は、膝で寝ている02ゼロツーの頭を撫でている。


 「トーマ……」


 同時刻、世界では……


 「「「うわぁぁぁあ!!」」」


 「メーデー、メーデー、メーデー!!!未確認の何かに襲われた!光に船が呑まれていく……!!メーデー!!」


 その周辺を航行していた貿易船はそれに呑まれ、跡形もなく消息を絶った。


 「なんだあの光は……!!」


 「分かりません!海底から突如出現した模様です。」


 「今すぐヘリを飛ばせ!手の空いているリポーター総員で迎え……今すぐだ!」


 天候を報道する会社らはこれに血眼で取り掛かり……


 「あれ、竜巻にしては可笑しすぎる……大丈夫か?」


 人工衛星に居た宇宙飛行士らは首を傾げ……


 ありとあらやる掲示板やSNS、ニュースで真実問わずリアルタイムで拡散された。


 「綺麗〜!」


 「地球の終わりかぁ?」


 「コロウナ予防接種が原因だ!」


 「いや違う、地球温暖化が要因だ、データもある!」


 発言の自由、個の自由を基づく色んな意見が飛び交う。


 そんな中、どこもかしこも口裏を合わせたかのように皆全て、議論をこう纏めた。


 神の光……と。

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