週刊黎明『ジーン・櫻井×番匠万里対談』より抜粋
俳優のジーン・櫻井と、『メンズランポ』専属モデルの
シックなスタジオのセット。二人の間のテーブルには、漫画『ROAD 〜The Other Side〜』が置かれている。
「櫻井さんはこれまでに、オーディションに受かった後だとかオファーが来た後だとか、そういったタイミングでお仕事が白紙になった事はあるんですか?」
「実は、あるんですよ。珍しくはないですね。私は元々大学のサークルから演劇を始めていまして、小劇団時代は仕事の話が直前になって無くなるなんて、よくある事でした」
「大変でしたね!」
「ですから無事上演できて、千秋楽など迎えられるといっそう嬉しいものでした。今回、作者の不破悠一先生が亡くなられてから十三年目というこのタイミングで、舞台化企画を再始動できた事は本当に有難いです。十三年ともなると、不破先生は天国でまたいくつか作品を完成させていたりもするんでしょうかね」
ジーン・櫻井は涙ぐみながら、微笑んでいる。
万里は転校先の高校が悠一と同じであったという。
高校時代の悠一についてのエピソードを求められ、万里の答えた「よく分からない人だった」という言葉は、中見出しに使われた。
「よく分からない人だった。高校生の頃はあまり、漫画というか、絵を描いているイメージが無かったです。あの人と言えば、演劇のイメージだった。三年生の時同じクラスになったんですが、文化祭の演劇部の発表に圧倒されて、ああ、この人ってこんなにヤバい人だったんだって思いました。舞台以外の場所で話せば普通の人で、大人しい人でした。でも舞台の上だと本当に、肉食獣みたいで、近付いたら喉を食いちぎられそうな……」
「そんなに!」
「櫻井さんは悠一先生とお会いした事がありましたよね? どう思われましたか?」
「そうですね。今番匠くんの話を聞いていて、たしかに! と思うことがありました。十三年前、『ROAD』の最初の舞台化のお話を頂いて、実際に先生が会いに来てくださいました。漫画の舞台化となると、嫌がる原作者の方も多くおられる中で、彼女は『舞台化を目指して連載していた』という珍しい方でした。当然私もたくさん期待のお言葉をかけて頂きましたが、『誰か一人でも私より下手な芝居をしたら即刻取りやめにしてもらう』と言い放ちました(笑)」
「とんでもなさすぎる……。でも彼女がそう言う姿が容易に想像つきます、僕には。故人に対して失礼かもしれませんが、どうでした? ムカつきませんでしたか?(笑)」
「ムカつくというよりただただ驚きました! マネージャーから、役者経験のある漫画家さんだから役者陣を厳しく見ておられるというのは聞いていましたので、ある程度の言葉には覚悟があったんです。しかし実際目の当たりにすると、『俺と一回りも歳の違う子が、立派に啖呵を切ってくるものだ』と驚きが勝ったんです。ムカつかなかったのは、彼女が私たちをバカにしているのではなく、期待しているからこそこの作品に『挑戦』してきて欲しいのだなと……私はそう受け止めたので、彼女に対しては『とても威勢のいい若者だ、きっと未来のエンタメ業界を牽引していく人材だ』という印象でした」
「分かる気がします。彼女の奥底にはきちんと他者への尊敬があり、その上で自分の実力で他者を叩き落とす。何度でも這い上がって、自分を打ち負かしてくれる人を今か今かと待っている。だから単なる喧嘩腰の人っていうよりは、『先生』って感じがありますよね。中学校にいた凄く厳しい先生とか、体育の先生とかを思い出させる部類です(笑)」
「番匠くんはそういった先生が苦手でしたか?(笑)」
「どちらかといえば……『はい』ですね(笑)」
『ROAD THE STAGE 〜はじまりの黄泉から〜』に出演する二人。
初舞台にして主役・
首が隠れるパーマのミディアムヘアが特徴的な万里は、今回翔平に扮するにあたってストレートのショートヘアウィッグを着用している。ファンにとっても新鮮な驚きだろう。
櫻井は顔面から首、片腕に至るまで特殊メイクを施されている。
「悠仁というキャラクターは、先生のペンネームが元になっているとお聞きしています。悠仁が悪の道に至るまでのストーリーという事で、今回は悠仁が『ROAD』の『もう一人の主人公』であるという自覚を持って稽古に臨んでいます」
稽古の写真。
特殊メイクを施される予定の腕に、テーピングを巻き付けている櫻井の姿。幼い娘のあかるを演じるのは今年で九歳になる子役の羽田
あかるの亡骸を抱いて慟哭する悠仁のシーン。本番は舞台セットの一部が炎上するという大掛かりな演出も予定されており、いっそう稽古に力が入る。
「悠仁に向き合う度、私も亡き父を思い出します。悠一先生は、遺作となった『ROAD』番外編のあとがきで、悠仁を『理想の父親像として描いた』と仰っていました。私の父は仕事で忙しく、いつも私が眠ってから家に帰って来るような人で、学校行事に来てくれた事はたったの一度もありませんでした。けれど、畳を踏みしめる音で真夜中に薄く目を開けると、スーツ姿の父が私の布団を掛け直していて、またそうっと離れていくのでした。悠仁はそういう人なのだと思います」
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