LUCKY 0NE

佐野勇吹

‪Data

【切り抜き】Lenの悠一先生絡み関連

 本動画は実況者のLen、および漫画家の不破悠一さん死亡に関する考察動画ではありません。

 この切り抜きの編集中に、お二人は亡くなられました。

 動画をアップロードするかは悩みましたが、Lenの切り抜きを作ってきた一動画投稿者として、変わらず投稿していきたいという思いは抑えられなかったです。

 Lenの配信で楽しく笑えた時間を嘘にしない為にも、今後も残っているアーカイブの切り抜きは作成していく予定です。

 この場をお借りして、Lenと悠一先生御両名に、御冥福をお祈りします。


 ───動画概要欄より抜粋




「分かった?」

「……えっ分からない」

 男の問いに、女の答え。

 画面右側には目まぐるしい速度で、幾つもの言葉が流れていく。

『いwwwつwwwもwwwのwww』

『レン説明タイム来るか?』

『UIガイドれんきゅん』

『今来たけど悠一先生顔出しナシか…』

「誰がUIガイドれんきゅんだ、コラ」

 早口で捲し立てる青年が、左下のワイプ画面に映っている。彼は持っていたコーラ缶とコントローラーとを持ち替えて、ジェスチャーを交えながらギミックの説明を始めた。

 コラボ配信には打って付けの、ペアで挑む高難易度レイドボス。このネタで配信するのはもう四回目になるが、二回目にSNSでトレンド入りを果たしてから、同時接続数もかなり安定したまま続けられている。

「オーケイ? もう説明しない」

「ん、ふふ」

「なに?」

「Lenの説明パート、切り抜き欲しいかなあって思って……」

「……あ! お前!」

「あはは! 絶対切り抜かれるよぉ」

 途端に盛り上がるコメント欄。『さすが悠一先生。さすゆう』『この漫画家需要を分かりすぎている』『レンの扱い慣れすぎで笑った』───賛美されているのはLenの友人で、漫画家の不破悠一だ。男性名だが、コロコロと笑う少々舌っ足らずな声は、紛れも無く女性のそれである。

 画面には彼女の顔は映し出されておらず、代わりに彼女のSNSのアイコンと同じイラストが表示されていた。時々Lenとコラボ配信をしていたが、顔写真は一切公開していなかった。


 シーンが変わる。

 テロップに、『2017/02/12 雑談しながらシマ綺麗にするか〜。』と書かれている。

「『もうすぐレン誕じゃない?』そうだよ。覚えてるのスゴ」

 先程のコラボ配信と違って、今度は明るい時間帯に撮影したのだろう。

 金髪碧眼の、はっきりした顔立ちの青年がLenである。ゲーム内で動かしている二頭身のデフォルメされたキャラクターも、同じ色のショートヘアと吊り目をしていた。

 ゲーム内のLenは雑草を引き抜き、現実のLenはコメントを読み上げる。単純作業であればコメント欄を見続けていても何ら問題は無い。

「『悠一先生も誕生日同じですよね』だからなんでそんな覚えてる? 凄いね。暇なのか」

 この意地の悪い物言いと、頭の回転の速さから為せるゲームスキルで、Lenは人気を博していた───のではなく。

「わッ?! ハチなんで?! ハチ!」

 誤操作で攻撃してしまった巣から現れたハチの大群に追われ、大慌てで逃げ惑うまでが人気の理由。ファンの間では『Lenわからせシリーズ』と呼ばれていてタグまで作られるほどの、お決まり展開であった。

『誕生日配信は悠一先生コラボしないの?』

『悠一先生もシマつくやってないかなあ』

「あ〜もうお前らが悠一悠一言うせいで……」

 木の影から現れたLenのキャラクターは、パンパンに腫れ上がった顔でがっくり肩を落としている。

「も〜知らん。も〜半年はコラボ呼ばん」

 情けないキャラクターの顔をアップにして、シーンはフェードアウトしていく。


 テロップ、『閲覧注意。ガチ事故』。


 配信終了の画面のまま、音声のみが流れている。

 悠一の声は変にノイズがかかっており、投稿者の字幕が無ければそれと聞き取れないくらいの音質である。


「こんばんは。聞こえるか?」

「うん。こんばんは。お疲れさま」

「こんばんは。今朝の話、あれからどうなった」

「どうなった、とかじゃない……」

「は? なにが。僕がどうなったのか聞いてる。お前は答えればいい」

「だからどうもなってないというか。結局わたしが返事を保留にしたから、なにもない、ままっていうか」

「ああ……悪い。大声出した」

「えーちゃんはいつも声大きいから大丈夫だよ」

「お前な」

「ふふ。どのみちやるって決めたら変わらないしね。わたしもえーちゃんも」

「ああ、じゃあ、いいんだな」

「うん」

恋桜こひな

「うん?」

「ありがとう。今言わないと明日も言わないと思った」

「うん。ふふ。別にいいんだけどお礼とか。わたしもどうなるのか気になるだけだし」

「その『だけ』の為に篤哉あつやくんを置いて行けるクレイジーな女で良かった。僕はお前の狂気に救われている。お前を手に入れた僕は幸せ者なんだろうな」

「……それはどうかな」

「そこ、うんって言えよ」

「うんうん」

「一回でいい」

 ───二秒ほどの沈黙を挟んで、

「そうだ、心残りはあるかとか、聞いておいた方がいいか? 明日聞きそびれるかもしれない」

「心残り? 心残り……そうだな。最後の作品が世に出た時の感想くらいは、見ておきたかったかも」

「へえ。お前ってそういうのあんまり気にしない方だと思ってた」

「作品の感想を気にしない作家っているのかな? …………待って、……! えーちゃん、動画」

「動画?」

「切ってない! 配信。コメント見て!」

 カメラにLenが映る。

 彼は口の前で人差し指を立てて、ウインクをする。

 配信はここで完全に途切れる。


 テロップに、『Lenは意図的にこの切り忘れ配信を残した?』と表示される。

 その余計な編集のおかげで、本動画は「事件についての考察の意図は無い」としていたのに、考察を煽っているものと見られ、およそ二千件ものコメントの中に批難が殺到した。

 後に投稿者はSNSのリプライ欄を封鎖。動画投稿は暫く休止すると発表した。

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