第2話 レイストニア・フェニクジャル

玄関から現れた家主は途轍もない殺気を今なお出している。


「で、人様の家に無断で、しかも鍵を壊して入ってくるとはどういうつもりですか。」


その家主は気付けばヘルン達兵士団の集まりを抜けながらそう言っていて、バスケットの中にいた銀狐を抱えて、優しい声音で狐に話す。


「ただいま、エレナ。……まだ寝てるのかい?仕方ないな。」


その銀狐に向けているいつくしむ声のおかげで兵士団が受けていた殺気が和らぎ、改めてその家主のを見る。


そう、その家主は少年だったのだ。


「おい、アルスキカ王国兵士団だろ、あんたたち。人ができてると噂のあんたらだ。何かしら用があるんだろ。話は聞いてやる。」


そう言って少年はその部屋の隣の部屋に移動し、ソファに座ると、エレナと呼んだ銀狐を膝に寝かせて撫でた。


「座れ。」


そう言ってその少年はヘルンを向かいのソファに座らせた。その時、兵士団の一人が何かに気付いたようだ。その兵士が叫ぶ。


「なんか見たことあると思ったらコイツ、ガドリア侯爵家の無能の三男、レイストニア・ガドリアですよ!ほら、あのレチュー元侯爵の庶子の!」


その言葉を聞いたからか、少年…レイストニアはその兵士を睨みつけた。しかし次の瞬間、ヘルンに目を合わせた。


「レチューが侯爵?」


レイストニアはヘルンに尋ねる。


「ッ…ああ、レチューはつい先月、移動中に民からの凶刃で殺害された。」

「ははっ、あのド腐れ野郎くたばったのか。こりゃあいい気味だ。」

「君はレチュー元侯爵の息子なのだろう。流石に…」

「僕はあのド腐れ野郎を家族と思ったことはない。俺が元の家で家族と思っているのは母だけだ。」


レイストニアはヘルンに声を被せて静かに、しかし圧を込めてそう言った。


「第一、今そこの兵士が言った通り僕はあの家では無能と呼ばれていたんだ。いい思いがないのは当然だろう。まぁ実際、魔力は0に等しいほどだったのだから当たり前と言えば当たり前だが。」


この世界には軍事、研究、日常生活その他含む全てに魔法が関わっている。だからこそほとんど魔力のなかったレイストニアは無能と呼ばれていた。


一度ここで彼の経歴を説明しておこう。


彼の母親は平民だった。しかし、美しかったためレチューによって強姦まがいの方法で孕まされた。彼はその時に産まれた子である。彼の母親はその後、彼を4歳まで育てたが、過労が祟り亡くなってしまった。


そして彼は彼がレチューの子だと判明すると侯爵家に籍を入れられレチューとその妻、レユアと兄二人に虐待といじめを受けながら育った。


そして3年前、彼は侯爵家を追い出された。


「団長、ってことはこいつは魔力のない雑魚だ!恐れなくていいだろ!こいつを連行して事情聴取、それで……」


次の瞬間、兵士の一人が声を上げ剣を抜いた。素行に問題のあった問題児だ。そして次の瞬間、黙った。


「おい、ウェリー?何を……しっ、死んでる、死んでるぞ!おい、何をした!」


一瞬で。まるで凍ったかのようにウェリーと呼ばれた兵士は死んでいた。


「ふむ、どうやら人ができてるというのは噓だったようだな。」

「違う、今のは常日頃から問題のある奴だっただけだ。」

「でも団長!」

「黙れ!指示もなかったのに剣を抜い…」


「静かにしろ、僕の嫁が起きるだろうが。あと僕はもうガドリアじゃない、フェニクジャルだ。」


レイストニアは名乗る。


「レイストニア・フェニクジャル。それが僕の名前だ。」


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読んでくださった皆様に最大限の感謝を。

コメントやフォローをしてくれるとすごく嬉しいです。

今、書き始めということもあり、モチベーションが満タンなのでしばらくの間は書き続けられると思います。

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