龍虎相討つ?


 ――それから十数日。決闘の日まで5日を切った。

 ゴーレムの服は完成。骨入れもして、調整作業も終わった。

 アピール用のアニメをつくれば、すべての作業が終了する。


 それにしても――


「ゴーレム、いい出来だね」


「あとはアニメ」


「そうだね。でももう少しこの余韻を……」


「ん。」


 俺とアルマの前に立つメイドゴーレムは……完璧だ。

 まさかここまでのものができると思わなかった。


 真っ直ぐで整った亜麻色の髪は、実直な性格を思わせる。

 空を写したかのような薄い瞳は寂しげで、見る者の心にこう問いかけた。


 「あなたが私のマスターなの?」と。


 しかし、彼女には清楚なメイドドレスでも隠しきれないモノがある。

 そう……偉大なる空に輝く白い双丘。

 ブラウスに収められた、はちきれんばかりのオパーイ。

 鉄紺色てつこんいろのスカートに隠された大宇宙たるオシーリ。


 美しきゴーレムの肢体はある種の理想が持ち得る究極の形態。

 それはまさに人々の夢の具現化といえた。


「これならいけるね」


「大勝利間違いなし~?」


<ドサッ>


「えっ……だれだろう?」

「ん~?」


 何かを落としたような音がして、俺とアルマは納屋の入口に振り返った。

 するとそこには、質素な服装をした少年がいた。

 年はたぶん、俺たちとそんな変わらない。

 呆然とした面持ちで立ち尽くしているが、なんの用だろう……?


「えーっと、どなたですか?」


「あなたたちが、これを……つくったんですか?!」


「はぁ、そうですけど」


「……助手のかたは?」


「いや、僕とアルマの2人だよ」


「こ、これを……た、たったお2人で……?」


「まぁ、はい。ところでそれは?」


「……え?」


 少年の足元には、彼が落としたのであろう。

 バールのようなものや、ハンマーがあった。

 よくよくみてみれば、彼の服は職人の弟子っぽい。

 通りすがりの大工のお弟子さんなのかな?


「あ、いや、これは……えーっと」


「ゴーレム、こわしにきた?」


「えっ、アルマ何言ってるの? きっと大工のお弟子さんだよ」


「ん。ウィル、それはたぶんちがう。ビアードはひきょー。なんでもする」


「…………あ、あの」


「じー……」


「す、すみません! 僕はライトと言います。その……お二人がつくったゴーレムを壊すように、ビアードのクソジジイに命令されたんです!!」


「ほら。」

「えええぇぇぇ?!」


「うぅ……でも、できません! こんな素晴らしいゴーレムを壊すことなんて、僕にはできません……!」


「そ、そんな大げさな」


「この子猫をおもわせる顔に対して不釣り合いな豊満な肉体!! メイドゴーレムなのに保護欲を掻き立てるアンビバレンツな表情をして、その肉体は包容力に満ちている。これはもう、性癖の台風の目です!!!」


 アルマはライトくんの絶賛に対して、うんうんと首を縦にふっている。

 いいのかそれで。


「えーと、ライトくん? でいいんだよね」


「は、はい……」


「なんでまた、ビアードの命令なんかきいてるんだい?」


「それは……ゴーレムの作り方を学びたかったからです。ビアードの工房と言えば、街でも有名だったので。でも……」


「でも?」


「ビアードという男は、サギ紛いの商法は思いつけても、ゴーレムを作る技術なんか持ってなかったんです」


「えぇ? でも露店でメイドゴーレムを並べてたじゃないか」


「それが、ほとんどが職人を雇って裏で作らせてるんです。その職人たちも自分の仕事が忙しすぎて、弟子を教えるどころじゃないんです」


「なんだそれ?!」

「さいてーだね」


 ザッと砂音を立て、ライトくんは納屋の床に這いつくばる。

 そして土下座の姿勢を取ると、大きく深呼吸して叫んだ。


「僕は確信しました! お二人こそ、ゴーレム業界の新星だと!!!」


「――どうか、どうか僕を弟子にしてくださいッ!!」


 急展開過ぎる。何で急に弟子入りを?

 俺もまだ子供なのに。いや、中身は違うけどね。


「んなこと言われてもなぁ……」


「お願いしますぅぅぅぅ!!!」


「……ウィル君はね、一生眠っているはずの人たちを起こしたの。君のゴーレムは〝龍〟や〝虎〟を目覚めさせた」


「そんな、だって僕はただ……」


「みて、きっと彼らは君をにらんでいるよ。絶対追い越してやろうって」


 アルマの言う通りだ。

 顔を上げたライトくんの目は炭のように燃え、ギラギラしている。

 彼は僕らに自分の未来を夢見ているのだ。


 彼はなんとしてでも、僕のもとに来ようとしている。

 ちょっと怖い。


「僕には理解できないよ」 


「……この人の想いとつながり。君には理解できないだろうね」


「アルマ……」


「――スケベに限界はないんだ。」


「格好つけて最低なこといわないで?!」


「とにかく、弟子になりたいっていうんなら、してあげればー?」


「んー、まぁいっか」


「あ、ありがとうございます!!!」


 ライトは立ち上がった勢いで、床にあったバールの先端を力強く踏みつけた。

 勢いよく跳ね上がるバール。

 すると、その先にあったハンマーがシーソーの要領で空を舞った。


「「あっ」」


 ハンマーは俺たちの間をくるくるとブーメランのように飛び、そして――


<メシャッ!>


 ゴーレムの頭にめり込んだ。


「「ほげええええええええ?!」」


 納屋の中で3色の絶叫が合唱になった。

 ハンマーは最悪なことにド中心を捉えている。

 片側だったらミラーで直せたのにぃ!?


「じゃ、僕はこれで」


「あっ逃げた」


「うん、これは夢だ。寝よう。寝るしかない。」


「ウィル、逃がさない。今日は残業」


「ほ、ほら、アルマとの約束がね……? 無理はしないってさ」


「それは普段の話。きんきゅーじは別。」


「ひぃ!」


 ヤバイ。決闘までの期日は5日を切ってる。

 修理、間に合うかこれ……?

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