対決

<ポンッ!><ポンッ!><パンッ!>


 昼下がり、青空を背景に色とりどりの昼花火の煙が華やかに咲き乱れた。

 市場には露天が立ち並び、その間を買い物客や商人が行き来している。


 しかし俺たちは、そんな賑やかな市場とは対照的な場所にいた。

 市場の一角にある、静かなステージ。


 舞台の上には、シートで覆われた二体のゴーレムがある。

 一方は俺たちのゴーレム。もう一方はビアードのものだ。


「なんとか間に合った……」


「おつかれ~。あっちもしっかり仕上げたっぽい」


「うん、いったいどんなゴーレムがくるかな」


「わかんない。でも勝つ」


「う、うん……」


 ステージの上でゴーレムをみている俺たち。

 すると、もはや聞き慣れたダミ声が背後から飛んできた。


「ついに決闘のときが来ましたなぁ~。逃げなかったのは関心ですぞ!」


「あ、オッサン! 弟子から聞いたぞ。あんたのとこのゴーレムは職人が作っていて、アンタ自身は何もしてないそうじゃないか!」


「んん~……それの何が悪いのですかな?」


「何っ!?」


「大前提として……ゴーレムづくりはチームワークです。私はお金を用立てることでゴーレムを作る『場』と『機材』を職人たちに用意しているのです。腕利きの職人が時間と集中力を全てゴーレム作りに捧げられるようにね」


「むぅ……きょーみ深い」


「アルマさん?!」


「じょーだん。でもビアードのいうこと、スジは通ってる」


「でもオッサンの言う事だからなぁ。なーんかウソ臭いんだよね」


「ん。きっと職人にゴーレムに関係ない雑用いっぱいさせてる。このステージとか」


「そ、そんなことはないですぞ。ただの経費削減の一環です!」


「ずぼし?」


「オホン! ともかく決闘を始めますぞ! 時間も昼を周り、いい具合に市場に人が集まってきておりますからな!!」


「ん。」


「さぁさぁ、お立会い!! 稀代の大魔学者ビアードが、皆さまのお目を拝借!!」


「なんだなんだ?」「大道芸か?」


「ここにございますは、我が工房の職人が作り上げました世界最高のゴーレム!! なんとなんとッ、これに挑戦しようというものが現れたぁ!!」


 ビアードの口上で次第にステージに人が集まってくる。

 商売とハッタリの才能については本物だな。


「このクソガ……オホン、少年少女は我が工房のメイドゴーレムにご満足いただけなかった。我々の作るものはただの土人形だと……なるほど、そうかもしれませぬ。しかしそれは、彼らが知らないからです。――我々の本当の力を!!」


「そこで我らは競い合うことにしました。他でもない……あの『百合姫』をどちらの職人がより美しく作り上げられるかッ!!」


「もったいぶるなー!」「はやくみせろー!」


「――ニヤリ。……では、ビアード工房の『百合姫』をご照覧あれぇぇぇいッ!」


<バッ!!>


「オオオオオオオオオッ!!!」


 ビアードが片方のゴーレムのシートを外させる。

 するとステージの周りから大きなどよめきと歓声が上がった。


「皆様は、ゴーレムがただの土と石の塊と思ってはいませんかな? それは断じて否であります! ここにあるのはヒトよりも美しく力強い珠玉の名品ッ!!」


「すごい……」

「おぉ~きれいだねー」


 ビアードが聴衆に見せたゴーレムはたしかに美しかった。

 エプロンドレスを着た土人形は、形状だけでなく、表面の部分も慎重に細工されている。その滑らかな素肌は白粉おしろいで塗られ、目には青のトルマリンが使われている。

 亜麻色の髪は絹だろうか。細く繊細な髪はブレンダさんの面影を感じさせた。


「なるほど、ドール系で攻めてきたか……」

「ん。これは手強い」


 ビアード工房が出してきたゴーレムはフランス人形のようなドール系だ。

 美しい中にも気品がある。クッ、ここまで仕上げてくるとは……ッ!


「すげぇ……」「本物の百合姫みてぇだ」

「なんてキレイなの。あれがゴーレム?」


 ステージの上のゴーレムを見た聴衆からは、ため息のような声がもれる。

 それを聞き、満足げに首を縦にふっていたビアードが合図をした。


「さて、ここで審査員にご登場願いましょう」


「……審査員?」


「ご紹介しましょう。魔機大学の校長のオジマ殿です! 魔学者なら知らぬものなしの彼がゴーレムを審査しますぞ!」


「やぁやぁ、どうもオジマです。今日は楽しみにしてますよ」


 ビアードの紹介のあと、学者服を着た白髪の男性がステージの袖から登ってきた。

 黒縁の大きなメガネをかけた、どこでもいそうなオジサンだ。

 けど、魔機大学の校長ってことは、めっちゃ偉い人なんじゃ……?


「ビアードのやつ、どっからあんな人を連れてきたんだ?」


「私がブレンダのツテで呼んだのよ。ビアードは嫌がってたけど」


「シホさん?!」


「やっ、未来の巨匠たち。私が作ったゴーレムどう?」


「なんでシホさんが?!」


 いつのまにかシホさんが上がってきた。

 どうして彼女が? このゴーレムはシホさんが作ったのか?


「もしかしてウィル、ずーっと気づいてなかったの?」


「え?」


「だってシホさん。楽屋でマギアグラフを〝8枚〟とったんだよ? それも私たちとおなじ風に。どー考えてもおかしいじゃん」


「あ……」


 審査員のオジマさんは、ビアードからゴーグルを受け取ってゴーレムを見る。

 すると「おぉ」と感心したような声を上げた。


「――ふむ、実に素晴らしい。これだけの数の魔力点を扱うとは、生半なまなかなことではありませんな。表面にもほとんど狂いが無い。形もそうですが、ユニークな表面加工や植毛と言ったチャレンジ精神も高く評価できます」


「ありがとうございますですぞ! まだまだですがな!」


「何もしてないくせに、なんであんな偉そうに……」


「しばき倒してやろうかしら」


「まーまー」


「見た目に関して言うなら、可愛らしくも気品があり、素晴らしいの一言です。惜しむらくは、もう少々生命感・・・が欲しかったところですな」


「では次はクソガ――オホン、そこな少年たちのゴーレムを披露しましょう。まぁ、子どもの作るものなのでオジマ殿にはお目汚しになると思いますが……」


「いえ、それは違いますねビアード君。」


「は……?」


「創るということは、それだけで素晴らしいものです。美醜びしゅう巧拙こうせつはそこまで問題ではありません。さぁ……君たちのゴーレムを見せてもらえるかな?」


「は、はいっ!」


「さ、次は君たちの番よ。あなた達の実力なら大丈夫!」


 シホさんは俺に向かって微笑んで、ビシッと親指を立てた。

 そこまで言われたら仕方ない。よし……!


「これが俺たちの創ったゴーレムです!」


 そういって俺はゴーレムを隠していたシートを引っ張った。



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