青い瞳

「よし、やることが決まったら作業あるのみだ」


「ん。」


 俺達が作ったゴーレムは、土の色そのまま。

 どんなに作り込んでもマネキンにしか見えない。

 君に命を吹き込んでやる……!


 バイザーをさげ、アウトライナーで魔力点を確認する。

 現状のゴーレムの顔は、大体15万ポリくらいだ。どれどれ……。


「うわぁ……やりすぎた」


 魔力の点と線を表示させると、ゴーレムの顔全体がビカビカに光っている。

 作り込みすぎて、点と線が密集しまくっているせいだ。


「なんかすごいことなってるねー」


「ま、まぁ……これくらいのほうがよく塗れるよ……たぶん。」


 これ以上見てると目が痛くなりそうなのでバイザーを上げる。

 さて、実際にどうやって色を塗ろう。

 色を塗る魔法は知らないが、考え方次第で可能なはずだ。


「マギアグラフは自然光を使ってた。つまり魔力点は、環境にある光や色をスポイトみたいに取り込める……?」


「ありえそう~! やってみる?」


「うん、試してみよう」


「え、できるの?」


「まかせて、魔学者の息子だよ?」


「そーいえば、ウィルくんのお父さんって魔法使いなんだっけ」


「うん。たぶんこれに使える魔法があるとおもう」


「お、がんばれ~!」


 アルマにうなずき、僕は実験してみる。

 父さんも魔法には物事を記憶する特性があると言っていた。

 それが本当ならできるはずだ。


「アルマ、そこのポスターをこっちに持ってきてもらえる?」


「いいけど、どうするの?」


「ここに描かれている色を利用してみようかと思ってね」


「なるほど~?」


 劇場でもらったポスターのうち、小さいものには色が塗られているものがある。

 この「色」をゴーレムに移してみよう。


「そうだな……『移す』ならあの魔法がいいか」


 俺はゴーレムとポスターの間でそれっぽい構えを取った。

 ちなみにポーズは必須ではない。気分だ。

 せっかく魔法が使えるのに、それっぽくしないのはもったいない。


「変化以外に不変の理なし、流来流転るらいるてん!〝移行トランスファー〟」


 俺はゴーレムとポスターの間で〝移行〟を目的とした魔法を詠唱する。


 ポスターに描かれた、ブレンダさんの肌の色――

 これがゴーレムの表面に移るよう、魔法の実行を望んだ。


 すると、ポスターからゴーレムに向けて一条の光の線が伸びる。

 わっと思った瞬間、光の粉がゴーレムの体に広がっていった。


「おぉ~?」


「…………できた、できてる!」


 光の消えたゴーレムの表面を見ると、肌の部分に色がついていた。

 それも望んでいた部分だけ!

 髪の毛や目といった部分をけ、肌部分だけ色がついていた。


 なんと素晴らしい。魔法は人の望みと同義。

 その通りのことが起きた。


「すっげぇ!! 魔法みたい! ……いや、魔法だった」


「うん、できたのはいいけどさ~……」


 アルマは細い目でじーっとこちらを見て苦笑している。

 苦笑の理由は、ゴーレムを見るとすぐ分かった。


「あ……隠さないと」


「色がつくと一気にヤバイね~」


 こりゃまずい。

 ゴーレムに色がついたら、全裸の女性にしか見えない。

 両親に見つかったらベッドの下のエロ本どころの騒ぎじゃないぞ。

 服ができるまで、ゴーレムにはシートをかけておこう。


「……よし、と。後は同じようにやろう」


「ね、ポスターから色を取れるなら、他のものからもとれるかな?」


「たぶん取れると思う」


「じゃあ色のついたの探そう! そのポスターだけだと色が足りないもん」


「うん、行こう!」


 俺とアルマは、農場にある色のついたものを片っ端から集めた。


 ブレンダさんの髪色は亜麻布から。頬や鼻の赤みはリンゴから。唇は熟れたプラムから。アルマと俺は農場を回って、使えそうな色を持つモノを拾い集めていく。


 しかし、ひとつだけ見つからない色があった。


「ウィル、青はどうしよう~?」


「青、無いね……」


 ブレンダさんの瞳は青。

 これに使うちょうど良い青が農場にはなかった。


「ベリーじゃ濃すぎるし……花だと紫に近くて薄すぎる」


「ないねー……」


 ポスターもダメだ。

 そこに描かれた百合姫は憂いを含んだ横顔を見せており――

 その目は「閉じている」。完全に詰みだ。


「うーん……あっ!」


「な、なに急に?」


「……ほら、アルマの髪って金髪だよね、もしかして……見せてもらっていい?」


「ん~」


「おねがい!」


 僕が拝み倒すと、不満げにアルマは目を開いた。

 思った通りだ。彼女の瞳は青く美しい。


「じろじろ見すぎ」


「ご、ごめん」


 ふんすと鼻を鳴らすアルマ。

 僕が気後れしていると、彼女はやれやれといった様子で笑った。


「……つかう?」


「いいの?」


「じゃないと、完成しないし?」


「ありがとう。アルマがいなかったら完成しなかったよ」


「……そんなこと言われたの初めてかも」


 少し引っかかりを覚えながらも〝移行〟を使った。

 ゴーレムの大きな瞳に秋の空のようなさびしげな青が差した。


「うん……キレイだ。」


「ウィルってほんとに……いや、いいや」


「うん?」


「あーどうでもいいこと。あとは服を作っていこう?」


「そうだね。このままの格好で母さんや父さんに見つかったら……」


「お父さんだったら喜びそう?」


「母さんだったら完膚なきまでに破壊されそう」


「2分の1じゃ賭けとしては危険だね~」


「うん。作業をつづけようか」


 俺達は次に服の作成にかかった。

 しかしこれがまた難題だらけだったのだ。

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