新鮮な枯れた技術


 ゴーレムを作る作業が続く。


 なにも特別なことは無い。

 パン屋がパンをこね、鍛冶屋が鉄をたたくのと同じ、日常の連続だ。


 点を打ち、線を引き、面を整える。

 目標に向かって延々とそれを繰り返すだけだ。


「アルマ、これでどうかな?」


「うん、悪くないかも――いや、こっちから見て」


「どれどれ? おおぅ……やらかしてる」


「じゃ、そゆことで」


「うん」


「あ、まった! ウィル、ここどうおもうー?」


「柔らかいのはいいけど、ちょっとだらしなく見えるかな?」


「うーん、やっぱり攻めすぎかー。ありがと!」


 こんな感じのやり取りをお互いに繰り返した。

 俺がアルマに見てもらい、アルマが俺に見てもらう。そうやって進めていった。


 1人でやると思い込みで変な方向に行きがちだが、2人なら矯正できる。


 自分でボツにしたかったのが意外と好評だったり、その逆で、自信をもって出したのがダメダメだったり……そういうの、よくあるからね。


「お茶にしようか」


「ん」


 休憩のために水筒から白茶をカップにいれる。

 白茶はこの異世界で日常的に飲まれているお茶だ。

 牛乳のような濃い乳白色をしていて、香りはハーブっぽいハチミツ。

 味は、砂糖を入れずとも、ほんのりと優しい甘みがある。


 この白茶のうれしいところは、甘い物特有のベタつきがないことだ。

 体の中をすっと通り過ぎるように飲めて、口元には優しい香りだけが残る。


「ふう。」


「この茶がなかったら、私、絶対心が折れてたなー」


「だね。甘いお茶って最初『えっ』ってなったけど」


「うち――あ、元の世界ね? そっちだと珍しくないかな~、あま酒みたいなお茶もあったし」


「へ~」


「あ! 他にも転生者が来てたら、お茶の入れ方見れば分かるかも。イギリス人とかインド人って、スプーンが逆立つほどお茶に砂糖を入れるって聞くし」


「聞くだけで歯が抜け落ちそうなんだけど……」


「ほかにもミルクとかスパイス入れたりとか? そういうのって転生しても、けっこー習慣として残るんじゃないかなー?」


「なるほど。疑わしい人がいたら、今度から気をつけて見てみようか」


「うん~」


 雑談しながらお茶を片付けた俺たちは作業に戻る。

 今の状態は、顔、髪、そして体を作ったところだ。

 しかし、服をどうするかが問題だった。


「あとは衣装か……買うのは無理だね」


「劇を見るお金もないもんね~」


「この際、服もゴーレムとして作ろうか?」


「やろうとすればできちゃうね」


 俺とアルマが使っている真核は、100万もの魔力点をサポートしている。

 現状とても使い切れておらず、まだ6割以上の余裕がある。


 服を作るのは十分可能だ。

 そのぶん、作業は複雑化するが。


「あと僕が考えてるのが、ゴーレムに色をぬれないかってこと」


「絵の具ってさ~すっごく高くなかった?」


「そうなんだよね……」


 実際、街で売っている絵の具や染料の値段はとても高い。

 原料としてモンスターの素材、鉱石や貝、樹脂を使っているからだ。

 子どもの俺たちには手が出せない。


 でも、絵の具が買えないからといって、土色のまま出したらどうなるか?


 勝負は厳しいものとなるだろう。


 なんせ向こうは量産型のメイドゴーレムの顔を塗るだけの資金力がある。

 今回はたったの一体をつくるだけ。

 もしかしたら、全身を塗ってくるかもしれない。


 それと並べられたら……。

 僕らのゴーレムの形がよくても、絶対に見劣りする。


 芸術品は、形よりも色のインパクトが強く出る。

 どうにかしてブレンダさんの亜麻色の髪や肌色を表現しないと。


「うーん……」


 何か他に使えないものがないか?

 答えを求めて納屋を見わたしたとき、僕は視界に入ったそれに気がついた。

 そうだ! ゴーレムと似た原理のモノがあるじゃないか!


「アルマ、ある! アレだよ!」


「そっか――マギアグラフ!!」


 俺は三脚に乗っていたマギアグラフを取り上げた。

 ガラスに映っているブレンダさんには、淡い色が入っている。

 シホさんは、このガラス板は魔力点を並べたものだと言っていた。


 バイザーを下げ、アウトライナーでガラス板を確認する。

 思った通りだ。ゴーレムと同じように細かい格子状の魔力回路がある。


 つまり、魔力回路は〝色〟も記憶できるんだ!


「マギアグラフは魔力点に色を塗っている。つまり、ゴーレムの魔力点も同じことができるかも知れない!」


「ねぇ、それって『頂点カラー』じゃない~?」


「――!! そうだ、それだよ!」


 アルマの言葉に僕はハッとなった。

 3DCGにもこれと全く同じ概念があったのを思い出したのだ。


 頂点カラーとは、3Dモデルを作るときに使える着色方法のひとつだ。

 イメージしやすく説明すると、サイコロの各頂点(角)に色を塗る感じだろうか。

 上手に使えば、キレイなグラデーションをつけたりもできる。


 この着色方法をうまいこと扱うには、多くの〝点〟が必要となる。

 しかし幸いなことに、俺たちのゴーレムは〝点〟があまりまくっている。


 これならやれるぞ!

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