作業開始
俺とアルマは納屋に入り、さっそく作業にとりかかった。
ゴーレムをゼロから創るのはこれが初めとなる。
しかし原理が3DCGと同じなら、やり方はだいたい同じのはず。
ものすごいざっくり計画を立てると――
まずはラフモデルの作成。そこからモデルと素材の作り込み。
そして可動するようにアニメを入れれば作成だ。
「よし、まずは計画! おおまかな工程を書き出していくよ」
「ほいほい~」
今回の作業は大きいし、俺一人でやるものじゃない。
なのでこれからの計画を書くことにした。
計画は誰もが見れるように、大きなものに書くに限る。
さて、なにか書けるものがないかな……。
うん、作物を入れるための木箱のフタがあった。
これに大まかな工程を並べて書こう。
「さて……思いついた所だと、こんな感じかな?」
1.イメージを固める(資料を張り出す等)
2.ラフモデルの作成(全体的なバランスをとる)
3.アニメ用の仕込み(ゴーレムに骨を入れて動作可能に)
4.モデルの作り込み(各部位の高精細化)
5.質感調整(表面加工、テストアニメで破綻を早期発見)
6.アニメ作成(メイドっぽいアニメがいいかな?)
7.修正作業(気づいたところは全て直す!)
8.完成!終了!
ざっと書くとこんなところか。
……あらためてみると、作業の多さに圧倒されてしまう。
でもやっていくしかない。やらなきゃ終わらないし!
「うん、こんなところかな」
「やることいっぱいだね~」
「まぁ、やっていけばそのうち終わるよ」
「お~! ……で、どーするの?」
「まずは資料を張り出していくよ。マギアグラフ、あとはポスターをね」
納屋の壁に『百合姫』のポスターやスケッチを貼っていく。
いつでもブレンダさんが目につくようにして、イメージを固めるのだ。
「これで全部かな?」
「あれ? ウィル、マギアグラフ忘れてるよ~?」
「いや、忘れてないよ。アレは別のことに使うんだ」
「べつのこと?」
「えーっと、そうだな……どこで作ろうか」
ゴーレムの作業場所は、納屋の中央が良さそうだ。
納屋の床に蝋石でバッテンを描いた僕は、アルマを呼んだ。
「アルマ、ここに立ってもらえる?」
「ほ~い!」
印の上にちょこんと立ったアルマ。
僕はその彼女の前にマギアグラフをかざした。
「うん、もうちょっと後ろかな……」
僕はガラス板に映っているブレンダさんをアルマと重ね、ブレンダさんの絵がちょうどいい大きさになるよう、後ろに下がって位置を調整する。
マギアグラフはガラスを使っている。
そのため普通の写真と違って半透明だ。
何かにかざすと、微妙に後ろの背景が映り込んでしまう。
写真としては扱いにくいことこのうえない。
だが、〝資料〟としては最高だ。
造りかけのゴーレムの上に、ブレンダさんの姿を透かして見る。
こうすれば正確にバランスを確認することができる。
本来の使い方ではないが、助かった。
「よし、ここにしよう!」
僕は地面に印をつけ、マギアグラフを固定する。
板の固定には、果樹に登るための古い三脚を使った。
「勝手に使っておこられないかな~?」
「使う時になったら外すよ。この印はその時に置き直すため!」
「あ、そっか。これがあると育てるくんも外に出せないもんね~」
マギアグラフを固定して、大体の準備ができた。
最初の作業はこれで終了だ。
次はラフモデルの作成に移ろう。
「つぎはラフモデルを作ろうか」
「どーするの?」
「真核はあるから、ゴーレム本体の材料集め、かな? まずは粘土でやってみよう」
「うし! ざいりょー集めてくるね~!」
「2人でやればすぐ終わるはずだから頑張ろう」
スコップとバケツを持って納屋と畑を往復して粘土を積み上げる。
子供の身にとってはなかなかの重労働だ。
実際、3DCGよりもゴーレム作成の方が数倍過酷だ。
3DCGなら、パソコンの中なら、いくらでも大きなものが無数に作れる。
それは実体がないからだ。
しかし、現実世界では勝手が違う。
まず素材となるモノを集めることから始めないといけない。
「ぜぇ……ぜぇ……ヒト、一人分、って……多分、こんなとこ、かな?」
「だね~」
何周もして集めた粘土の山は、60キロくらいあるだろうか。
ひとまずこれを使って、素体となるゴーレム作ろう。
「ウィル、これからゴーレムをつくるの?」
「うん、最初は素体からいくよ」
「素体?」
「えーっと、つまりヒトの形をしていればいいってこと。重要なのはまず最初に全体のバランスを取ることなんだ」
「手とか足とかの?」
「そうそう。頭の大きさ、胴体の長さ、手足の長さ……。みんな同じなようで、人によって違うからね。まずはこの「バランス」を大雑把に作って決めるんだ」
「あ、そっか。すっごいやった後に間違ってたら大変だもんね~」
「うん。決闘の締め切りは一ヶ月と短いからね。回避できるミスはできるだけ回避したいんだ」
いくら出来が良くても、バランスが崩れていたら最初からやり直しになる。
だからここは慎重にやらないといけない。
「よし、始めよう……」
納屋の中央には、とっ散らかった粘土の山がある。
俺はその茶色い塊の上に、そっと拳大の真核を埋め込んだ。
「わっ」
「おぉー!」
真核を埋めると、粘土の山がひとりでに立ち上がったようにみえた。
粘土がうねり天を目指しながら、乱雑な表面が整っていく。
俺とアルマが粘土を見守っていると、たちまちのうちにそれはできあがった。
「……四角いね~」
「うん。」
出来上がったのは、キレイな真四角、正方形の粘土のブロックだ。
真核が粘土の中に埋め込まれ、魔力回路が発動すると自然にこれが出来た。
――3DCGでは、決まった形のポリゴンを作成するメニューがある。
そのポリゴンのことを「プリミティブ」といい、正方形、三角錐、円柱、などなど色々な形があるのだが、どうやらこの異世界では、正方形で固定らしい。
うーむ……まさか、この世界でもお前を見ることになるとは。
本当に3DCGそのままだなぁ。
しかし、ここからどーしたもんか。
うん、わかってる。何をすべきかはわかってるんだ。
しかし、俺はあまりにもこの先、何をすべきかを知りすぎているのだ。
100万の魔力点を使い、60万ポリゴンの編集をする。
これがどれだけ面倒くさいか、俺は身にしみて知っている。
それが俺の足をすくませて、弱音を吐かせるのだ。
――コツコツやってくしかないかぁ!!!
死ぬほど面倒くさくても、やんなきゃ終わんねーもん!!!
「……とりあえず魔力点を作って『押出し』てみるか」
俺は鉛筆を魔法の杖代わりにして、正方形の上の面に魔力点を描く。
すると、上面の正方形の中に、もう一つ小さな正方形が生まれる。
その正方形に対し、鉛筆を使って上に持ち上げるジェスチャーする。
ぐいっと面が持ち上がって正方形の上に長方形が生まれた。
「うん、いい感じだ。あとはミラー化すれば、と……」
ゴーレムの形を司る真核には、いくつかの機能がある。
ミラー化はその機能のひとつだ。
この機能を使うと、真核を中央として左右を鏡写しに複製できる。
具体的にどうなるかと言うと、左手を作ったら、右手も勝手に作られる。
つまり、左右対称のゴーレムなら、半分の作業で済むということだ。
俺はマギアグラフを時々のぞき込みながら作業する。
そうして正方形から胴体、手足、頭を生やして、残りは切り取った。
これで魔力点を追加しながら作り込んでいく準備が整った。
「よし、ひとまずはラフモデルが出来たぞ!」
「なんかすっごい簡単だったね~?」
「ま、言っちゃえばここまでは準備。作業はここからだね」
「じゃーウィルは頭、わたしは体でいい? いいよね? ね?」
「う、うん、まかせるよ」
アルマは半ば強引に〝体〟を担当すると良い出した。
これに何か、不穏な気がしたのは確かだ。
しかし、この時の俺は自分の作業に気を取られすぎていた。
この後何が起きるか……予想すらしていなかった。
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