作業再開


 次の日の朝。

 朝食時の話題は、父の質問から始まった。


「ウィル、ゴーレムの調子はどうだ?」


「まぁ……ぼちぼちかな? もうちょっとで作業に使えると思う」


「な、まだ2日だぞ?!」


「運よく問題の部分を見つけられたから。そんなもんだよ」


「うーむ……やっぱりウィルは無理をしてでも魔機ゴーレムを扱う学校に行かせるべきか?」


「マックス、ウィルはまだ12歳の子供なのよ? 早すぎないかしら」


「しかし、ウチみたいな農家で働くよりも、学校にいったほうがウィルの将来のために良いんじゃないか?」


「そうかも知れないけど、この子を友だちから引き離すつもり?」


「む……」


「あなたは急ぎすぎよ。ちょっとの遅れが問題になったりしないわ。ウィルはゴーレムを創るために神様に遣わされた天才だもの!」


「お母さん、それはいくらなんでもめ過ぎだと思うな~?」


「ウィルの言う通りだ。マヤは甘やかしすぎだ。いやしかし、学校に入れて、同じようなレベルの博士や学友たちと切磋琢磨せっさたくまするのもだな……」


「お父さんもあんまかわってないよ?」


「オホン……それよりもだ、ウィル、作業に必要なものはあるか? ウチは貧乏農家だが気にするな。お前のためなら何だってそろえてやる」


「今のところはないかな。納屋のもので十分間に合うと思うよ」


「本当か? 遠慮するな~! 必要なものがあったら、なんでも言うんだぞ!」


「フフフ、マックスったら」



★★★



「さて、作業再開っと!」


 作業所にしている納屋に入った俺は、ゴーレムを見上げた。

 麦わら帽子を被った巨体は、納屋の中央で両手を下ろし立ち尽くしている。


 俺が今修理に取り組んでいる農業用ゴーレムの名前は「育てるくん」という。

 うん、まんまだね。


 ちなみに俺が名付けたわけじゃない。

 こいつを買ってきた、マックス父さんが名付けたのだ。

 うん、父のネーミングセンスは壊滅的なのだ。


 ちなみに、俺にウィルという名前を付けたのは母だ。普段、俺のことを溺愛しがちでトンチンカンなこともする母だが、これに関してはマジでグッジョブだと思う。


 父が買った「育てるくん」は、最初から問題だらけだった。

 1週間目で歩行機能に問題が出てきて、農作業に問題がでてくる。

 2週間目でド派手に転んで、こりゃ危ないってことで納屋に引っ込ませた。


 ゴーレム技術は世界に現れたばかりで、まだまだ未成熟だ。

 当然、技術者は引っ張りだこ。農家のゴーレムの修理まで手が回らない。

 大抵の場合、修理は自分たちでしないといけない。


 最初は魔法に心得のある父が修理を試みた。

 だが、ゴーレムの想像を絶する複雑さに閉口するばかりだった。


 これに関しては……無理もないと思う。

 ホントにもう、素人でもやらんだろっていう、地獄みたいな作り方してたから。


 母に言われて父に弁当を運んできた俺は、父にゴーレムの回路を見せられた。

 子どもである俺のアドバイスを求めたわけじゃないと思う。

 ただ単にゴーレムにうんざりしてたんだと思う。……マジで酷かったから。


 ともかく、俺はその時に初めてゴーレムの回路を見た。

 瞬間、ゴーレムの原理にピンとくるものがあった。


 そこで俺は、修理という名の拷問を受けている父にアドバイスしてみた。

 すると父さんは怒るでもなく、俺にゴーレムの修理を丸投げした。


 ゴーレムにだいぶうんざりしてたし、気の迷いというやつだろう。

 こうして俺はひとりで修理をやることになった。


 ここにいたるまでの経緯はテキトーだが、責任は重大だ。

 なんてったって、ウチの生活は「育てるくん」にかかっている。


 このまま育てるくんが動かないままだと、来月やる小麦の春きに間に合わなくなる。もしそうなれば、貧乏農家のうちはひとたまりもない。


 ただでさえ「育てるくん」を買った時の借金があるのだ。

 一家離散の悲劇を防ぐためにも、できるだけ早く直してあげないとな。


「……っと、まずは損傷をチェックするか」


 俺はまず土人形の表面を確認することから始めた。

 作業をいきなり始めるのは素人しろうとのすることだ。

 プロはまず、前日の作業に見落としがないか、違和感がないかをチェックする。


 作業をずっとやってると目がなれて、とんだミスを見逃すことがある。

 一度寝て目を休ませたら、必ずチェックをしないといけない。


 もし違和感を見過ごすとどうなるか?


『ありがとうございます。あの時見逃していただいた違和感です。おかげさまで立派な障害となって帰ってまいりました。死ね!!!』ってなる。いやホントに。


「――おっ」


 案の定、ゴーレムの足に損傷があった。

 両足のかかとの部分がすり減ったように大きく変形している。

 前日、試運転でゴーレムを歩かせたのが原因だろう。


 ふーむ。ゴーレムのモデル自体か、アニメに問題があるな。

 ……つまり、原因不明。


 だけど、一番疑わしいのはアニメだ。

 先日歩かせたとき、ゴーレムは少しカクついていた。

 そのとき足に負担がかかったのかも。


「よし! 調査するべき内容が決まったな。アニメが悪いのか、それともモデルが悪かったのか調べるとしよう」


 調査の前に、まずは変形部分の修理をする。


 俺は工具箱に戻ってエプロンを着込み、コテとコテ板を取り出した。

 この左官スタイルがゴーレム技術者の正装なのだ。


 ゴーレムの体は土か粘土が基本だ。

 なぜなら……無料ただだから。


 高級品や軍用ゴーレムともなれば金属を使うが、うちは貧乏農家だ。

 なので必然的にこのスタイルになってしまう。


「~ぬりぬり~っと♪」


 一度死んだ俺は、何の因果か童心にもどり、粘土を触っている。

 いや、実際子供なんだけどね。

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