第49話・ディア視点なのにカーマセル夫妻のキャラが濃すぎて引っ張られる〈作家視点〉
〈ディア視点&少し時間が戻る。場所、闘技場内にある特別観覧室〉
流石バルクじゃな。
相手がモブっぽかったが、百人を超える予選を突破した人物じゃから腕利きのはずなのに。
武術だけならバルクとほぼ互角のワシじゃが、魔法やスキルが入った途端に全く勝てなくなる。
「バルクが相手を瞬殺したッスね」
「能力がフルで使えるならあれくらいは出来るのじゃ」
「そうッスね」
アクアよ、バルクの強さは模擬戦でも知っておるじゃろ。
自分の中でそう突っ込んでいると、第二試合の対戦カードが……え?
「ここでアヤツの顔を見るとは……」
「へ? 何かあったッスか?」
「い、いや、なんでもないのじゃ」
嫌でも見覚えのあるヤツ。
ワシは過去の出来事を思い出して震えてしまい、アクアは不安そうにしていた。
その姿に申し訳なくなりながら、顔だけは背けたくないのでフィールドの方を見る。
「第二試合、ガエン・クリムゾンVSカルラ・アルフォンの勝負開始!!」
「はあぁ! って、ええ!?」
「ははっ、君には可憐さが足りないよ」
違う意味で鳥肌が立つ。
見覚えのある濃い赤髪こと腹違いの兄妹であるガエンが、茶髪の少女が放つ土魔法をダンスで踊るようなステップで回避していく。
「少しは見どころがありそうな子もいるわね」
「まあ、動き的にバルクには及ばなさそうだけどな」
「確かに第一試合の動きはよかったわね」
……ほんと特別観覧室でよかった気がするのじゃ。
ここにいるのはワシとアクア以外にカーマセル夫婦と私兵くらい。
なのでアレクセイ様は奥様であるムーンレイ様からのアタックにタジタジになっていた。
「しかしまあ、バルクが動けるようになってたのには驚いたわね」
「私も報告を受けた時はびっくりしたが」
「そうよね! あ、今は試合を見た方が良さそうね」
「だな。っと、ディア殿は試合を見ないのか?」
「み、見るのでお気遣い感謝なのじゃ!」
カーマセル夫婦のアツアツさに視線が引っ張られたのじゃ。
頬が熱くなる感じを受けつつ、中央のフィールドに視線を戻すと、茶髪の少女がさっきよりも派手な土魔法を発動した。
「これでどう!」
「ならオレもこの技で迎え打つ! ファイアブラスト!!」
「え? きゃあぁ!?」
ツッ、炎魔法。
ガエンが放った炎の伊吹が相手の土魔法を粉砕し、茶髪の少女へ飛んでいき、彼女は大きく吹き飛んだ。
「そ、そんな……」
「どうやらオレの勝ちだな」
茶髪の少女は場外アウト。
なので審判は状況を確認した後、勢いよく右手を上げながら大声で叫ぶ。
「勝負あり! 本戦1回戦の第二試合、勝者はガエン・クリムゾン!!」
「「「おお!!」」」
バルクの時には上がらなかった歓声。
その声を一心に受けたガエンは満面な笑みを浮かべた後、何かを宣言するかのように言葉を発した。
「みんな応援ありがとう! オレ、ガエン・クリムゾンは必ず無能貴族であるバルク・カーマセルを倒すとここに宣言する!!」
ここで
露骨な人気の取り方にムカついていると、右側から凍えるような寒気を感じる。
「あら、あんな奴にバルクが負けるわけないじゃない」
「お、おい、落ち着け」
「万が一負けてもわたしがクリムゾン家に乗り込めば解決するわよね」
「待て待て!? それは私の胃が死ぬからやめてくれ!」
わあぁ、コッチはコッチでやばそう。
確かムーンレイ様は超凄腕の剣士で、剣豪の称号持ち。
少なくとも護衛騎士でもトップレベルの実力を持つ方が、個人的な理由で動けは大変なことになる。
なのでアレクセイ様は頑張って止めており、ある意味では2人の関係性の良さが見えてくる。
「な、なんというか、バルクさんの実家はすごいッスよね」
「それは同感じゃな」
フィールドではガエンが観客に手を振っている。
コッチでは今にも暴走しそうなムーンレイ様をアレクセイ様がなんとか止めている。
混沌とした空間の中、闘技場にいる観客達からの声がさらに響く。
「おう! あんな無能なんざ叩き潰してやれ!」
「貴方様なら出来ますわ!」
「まあ、アイツなら殺しても問題ないだろ」
……ここまできたら恐怖じゃな。
バルクが他の貴族から嫌われているのは知っておるが、それ以上に薄っぺらい罵詈雑言が飛び交っている。
明らかにおかしい雰囲気を感じていると、隣に座っているアクアの瞳に色がなくなっていた。
「あいつら全員、魔法銃で撃ち殺してもいいッスか?」
「あら奇遇ね。わたしも使い慣れた愛剣で殺したいわ」
「ちょま、私も気持ちはわかるがやめてほしい!」
「「やだ!!」」
アレクセイ様が不憫すぎる。
暴走寸前の2人がいる中、アレクセイ様は焦るように言葉を続けた。
「ここまでバルクが非難されるのには理由があるんだよ!」
「理由? 別にバルクはあやつらと関係ないじゃろ」
「確かに関係あるのは
あー、この雰囲気的に貴族関係っぽいわね。
戸惑うアレクセイ様の言い分に、ムーンレイ様は元王女のはずなのに声を荒げ始めた。
「前に聞いた国王派のカーマセル伯爵家が気に入らない奴らが煽っているのよね」
「あ、ああ、そう!」
「ほんと、ゴミどもは厄介よね」
「それはそう! ただ表向きには気をつけてくれよ」
ワシも気をつけないとな。
貴族社会でやりとりしているアレクセイ様の苦労はあまりわからぬが、それでもきつそうなのはわかる。
なのでワシは不憫なアレクセイ様に助け船を出すために、言葉を発していくのだった。
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