第48話・2回戦の相手が悪役っぽいムーブをしているのにどこか残念なのは気のせいだろうか?
一回戦のモブを一撃で撃破した後。
二回戦に入るまでの休憩時に、濃い赤髪で目つきが悪い相手が気持ち悪い笑みを浮かべながら近づいてきた。
「ははっ! 次のオレの相手は無能貴族かよ!」
「えっと、どちら様?」
「ツッ! お前はこのオレ、ガエン・クリムゾンを知らないのか!?」
「クリムゾン……? どこかで聞き覚えがある名前ですな」
「そりゃ、クリムゾン侯爵家は炎属性魔法の大名家だからお前でも知っているだろ」
無駄に説明が長いバカ。
いちいちカッコつけているが、ぶっちゃけダサいのでなんとも言えない。
そう思いながら席に座って水を飲んでいると、ウニみたいに髪の毛がツンツンとしているガエンが、コチラを強く睨みつけてきた。
「お、お前! さっきからオレを馬鹿にしているのか!?」
「いや、そんなつもりは。ただめんどくさいと思っただけです」
「こ、コイツ! ふん、余裕に思ってられるのも今のうちだ!」
「ふーん。あ、クリムゾン家ってディアの実家か……」
「ディア? ああ、炎魔法も使えない底辺無能のディアネスの事かよ」
ぽろっとディアの事を言ってしまったな。
まあでも、心理戦の先制攻撃としては有効そうなのでうまく使うか。
内心でそう思いながら、コチラを小馬鹿にするような表情になったガエンを煽っていく。
「ディアが無能? それってどこ情報ですか?」
「どこ情報もなにも、あの無能は魔法が使えずにマトになっていたんだよ」
「的ってドユコト?」
「そんなの俺達が使う攻撃魔法の的に決まっているだろ」
あー、そのパターンね。
最初はディアの関係者なのでマトモに反応しようとしたが、このクズには容赦しなくても良さそうだな。
嬉々としてディアにしてきた事を話してくるガエンの表情がムカつくが、試合まで我慢するように俺は拳を握りしめる。
「ほうほう、色々やってきたのですね」
「まあな! っと、今は実家を追い出されて野垂れ死んでそうだけどな」
「その辺はわかりませんが、いい事が聞けてよかったです」
コイツをぶちのめす。
瞬間沸騰お湯沸かし器みたいに自分の中のボルテージが上がったが、いったん深呼吸して落ち着いていく。
そして聞いてもないのにペラペラと話してくる
ーー
冬の魔法闘技祭・二回戦。
第1試合は俺ことバルク・カーマセルVSガエン・クリムゾンになり。
俺はフィールドに立つと、ガエンが心底見下した目でコチラを見てきた。
「一回戦はマグレで勝てたようだがオレはそうは行かないぜ!」
「あ、はい」
相手の武器は二刀流。
短めの片手剣を右手と左手にそれぞれ持っており、一撃の重さよりも手数で攻めてくる感じ。
基本的にカウンターメインのオールラウンダーである俺との相性は悪くないが、相手の練度次第で変わりそうだな。
「なんか反応が薄くないか?」
「いやだって、口で説明するよりも実力を見せた方が早くない?」
「それはそうだが! こう、もう少しやり取りってもんがあるだろうが!!」
「駆け引きはあまり得意じゃないです」
「どの口が言うか!?」
なんでコイツに突っ込まれないといけないんだ?
さっさと試合をしたいのに、ガエンが無駄に突っかかってくるのでスタートができない。
ただ周りにいる観客はコチラのやり取りに興味があるのか、各々で話していた。
「今度こそあの無能貴族がボコボコになりそうだぜ!」
「確かに相手はあのクリムゾン家のエリートですからね」
「ガエン様〜頑張ってください!」
いや、ガエンの応援がほとんどだな。
というか、俺の方に来るのはほぼヘイト系なのでマジでやめてほしいところ。
内心で萎えているとガエンは調子に乗ったのか、カラカラと笑いながら口を開いた。
「はっ! モブを一撃で倒したくらいで調子に乗るなよ」
「えっと? 自分はまだほとんど話してませんが?」
「お前な……。こう、なにかあるだろ!」
「何かとは?」
「かっこいい言葉とかに決まっているだろうが!」
マジでわからん。
コッチはさっさと戦いたいのに、ガエンは何をこだわっているんだ?
向こうの言葉に疑問符を頭に浮かべつつ、適当に言葉を返していく。
「言葉で見せるよりも戦いで魅せる方がよくないですか?」
「はっ、それはそうだな! うん、そういう言葉が欲しいんだよ!」
「あ、はい」
これ試合じゃなくて演劇じゃね?
ここまで勝ち上がってきたから実力はあると思うが、適正を間違えてない?
思わずガエンに突っ込みたくなるが、流石に飽きてきたのか審判さんが大声を発した。
「双方準備は整いましたか?」
「ん? もちろん!」「はい」
審判さんは冷静だけど飽きてない?
少し気怠けな言い方をした審判さんへ同情しながら、試合に集中するために気持ちを切り替える。
「それでは2回戦の第1試合、バルク・カーマセルVSガエン・クリムゾンの対決を始めます!」
「ああ!」「ええ!」
「……試合開始!!」
やっとこさ始まる試合。
俺は息を吐いて気合いを入れつつ、相手の動きを探り始めるのだった。
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