第45話・やはり我が妻(ムーンレイ)は昔から変わらないな。〈アレクセイ視点〉
〈アレクセイ視点〉
王城にある客室。
我が息子であるバルクや密偵からの報告を受けた私は、妻であるムーンレイと共に王城に来たのだが。
いきなりの訪問だった為、現国王であり学園時代の後輩・ルードリヒの目が死んでいた。
「あ、姉上? いまなんて言いました?」
「つべこべ言わずに騎士と魔術師を貸しなさいと言ったわ」
「オレの聞き間違いじゃなかったのか……」
うん、胃が痛くなるのがわかるぞ。
私も戦闘学園からムーンレイには散々振り回されてきたしな。
まあでも、今回はコッチにも理由があるので引けない部分がある。
「それでどれくらいの兵力が用意できるの?」
「百歩譲って兵力は用意するが、せめて何をするかだけ教えてほしい」
「あら、優秀な諜報員から連絡を受けてないのかしら?」
「……助けてくださいアレクセイ先輩」
なんか懐かしい流れだな。
いつもムーンレイの無茶振りに振り回されていたルードリヒが泣きそうになっている。
個人的には気持ちが痛いほど理解できるが、仕事モードの冷静さが崩れているぞ。
「お、おう。端的に説明すると武術の聖女様が城西の跡地に突っ込んで
「えっと、ドユコト? てか、管理局は彼女達に許可を出したのか?」
「武術の聖女様への許可出し報告は受けてませんよ」
「だよな……え? て事は、無許可で突入したの!?」
うん、私もバルクから聞いた時に同じ反応をしたな。
というか国王の側近である白髪七三分けの初老ことガヴェイン様は、なんとも言えない表情で続きを話す。
「おそらく無許可ですし、自分が考えられる限り最悪のパターンですね」
「ですよねー。って、マジでどうすればいいんですか!?」
「だからわたしに兵を貸せと言ったのよ!」
「と、とりあえず、城西の跡地に調査隊を派遣した方がいい」
「おお、そうですね!」
ルードリヒは冷静な時は有能だが、パニックになると一気にポンコツになる。
なのでココは私が助け舟を出しつつ、少しして本人が落ち着いたみたいなので。
「オホン、ガヴェインには各部署に連絡と迅速な鎮圧を依頼したい!」
「ハッ! すぐに連絡します!」
「よろしく頼む」
ガヴェイン様はババっと客室から出ていき。
部屋に残ったのは私達3人と護衛で隠れている王家直属の暗部。
ここにくると少しドキドキするが、それよりも隣に座っている妻の視線が怖い。
「それでルードリヒはわたしに兵を貸してくれるの?」
「え、い、いちおう、王家直属の護衛騎士5000と宮廷魔術師1000を考えています」
「へぇ、たったそれだけ?」
「これでもオレが独断で動かせる限界戦力なんですが?」
「国王なら軍も命令をかけなさいよ!」
マジでルードリヒが半泣きになってない?
こんな姿を見るのは5年前のあの事件依頼で、当時はムーンレイが大暴走してかなりやばかったんだよな……。
私はシミジミと過去を思い出していると、ガタガタ震えるルードリヒが言葉を絞り出していた。
「そ、それは、確かに可能ではあるが兵の4分の3は遠征中で王都を離れている」
「なんで緊急事態時に戦力の大部分が使えないの!」
「オレだってバカが立ち入り禁止ダンジョンに突っ込んで
「ふ、ふたりとも、一旦落ちつけ」
「アナタ……わかったわ」「せ、先輩……は、はい」
このままだと客室で乱闘騒ぎに。
というか、現国王とその姉が乱闘なんざ起こしたら私の胃が死ぬ。
なので喧嘩になりそうだった2人を止めた後、私はテーブルに置かれた紅茶をひと飲みする。
「別に互いが悪いわけではないし、言い合っても仕方ないだろ」
「それはそうだけど」
「ここで落ち着いてくれると私としてもすごいありがたいな」
「アナタ! ムフフ、じゃあ問題が解決したら楽しみにしているわね」
「お、おう」
あ、違う意味で私がくたばる。
まあでも私が疲れて寝込むだけで解決するなら安い物ではあるが、当事者としてはしんどい。
いつも以上の笑みを浮かべるムーンレイと同情の視線を向けてくるルードリヒを尻目に、私はなんとか続きを話す。
「話は変わるが、武術の聖女様が大問題を起こしたがルードリヒはどうするつもりだ?」
「どうとは政治関係ですか?」
「ああ、この件が貴族社会に広がったら屑どもが調子に乗るぞ」
「うーん、それなら教会を調査して処罰して終了にしたいですね」
私も個人的にはルードリヒの意見には賛成だが。
隣に座っているムーンレイの機嫌が戻ったのか、紅茶を飲みながら口を開く。
「5年前の借りもあるし、クズ貴族達を綺麗にぶっ潰したいわね」
「あ、姉上、その件は……」
「いちおう表向きではカタがついているけど私個人としては納得はしてないわ」
バルクが
ルードリヒの娘であるシャインとホワイトが、バルクに暴言を吐いた後に周りの貴族子女を使って全治一ヶ月の大怪我をおわせた問題。
私個人でも許せない事件だが、社会的にはバルクを悪にして息子の貴族社会に悪評が広がった。
「オレも娘達が悪いのは理解しているけど、社会的にはそうも行かないんですよ」
「確かに表向きは理解できるわ。でも、クズ正義で息子を半殺しにされて黙っている親がいるかしら?」
「……ええ、だからそこ出禁だけにしたのです」
「ツッ! あーもう、いま思い出しただけでムカついてくるわね」
「ちょっ、気持ちは痛いほどわかるが暴れるのはやめてくれ!?」
このままだとムーンレイが暴走してルードリヒや暗部達を半殺しにしてしまう。
なので気持ちは彼女側ではあるが、私はなんとか止めるために動き始めるのだった。
〈余談〉
日が落ちかけている夕方。
護衛騎士5000&宮廷魔術師1000が集まったので、私とムーンレイはバルク達を連れて城西の跡地に向かい始めるのだった。
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