第42話・マジであの脳筋は何をやっているんだ!?(二度目)➕よくアクア達は教会内で生き残れたな……。

 無駄に引っ張ってきた感じはするが、改めて本題である武術の聖女の話を当事者であるアクアから聞いていく。

 というか、アクアの歪んだ表情的にだいぶめんどそうなのは理解ができるな。


「武術の聖女ことルーシィ・マキシマムは公爵家の出身で教会派に所属している大貴族の令嬢ッス」

「それで貴族派だったワシの実家とは関係が薄かったのじゃな」

「多分だけどマキシマム公爵家とクリムゾン侯爵家は単純に相性が最悪なんだよ」

「もしや派閥の違いとかかの?」

「うーん、ディアがあげた問題もあるが……」


 個人的にこの対立がかなり厄介なんだよな。

 マキシマム公爵家は武術を中心にしており、魔法系は強化系以外はあまり使わない戦いをする。

 逆にクリムゾン侯爵家は炎魔法に絶対のプライドがあり、武術を見下している節が強い。

 派閥の違いもあるけど、スタンスの違いが大きくゲームでも相当仲が悪いのが出ていた。


「武術者と魔術師の亀裂が悪化した感じッスね」

「あー、大体察したのじゃ」

「そりゃよかった。でだ、俺が知っている武術の聖女はかなりのトラブルメーカーなんだけど合っているか?」

「確かに間違いじゃないんスけど、それ以上に脳筋ッスよ」

「おおう……。てか、そんなにゲッソリして何があったんじゃ?」


 ま、まあ、俺もゲームの主人公と契約する前の話を知っているからゲッソリもするわな。

 いろいろぶっ飛んだ話なので頭が痛くなっていると、話が掴めてないのかディアが目をパチクリさせて戸惑っていた。


「だってそりゃあ、朝5時に叩き起こされて修練と言う名前の調教を3年も受けていたんスよ」

「えっと? それはアクアだけ?」

「いや、シャインやお付きの騎士達もスよ」

「……マ?」

「おそらくだけどコレでもアクアは甘く言っているぞ」


 瞳の色が死んでいるアクアと目が点になっているディア。

 2人の対比を見て俺は一周回って呆れていると、死んだ目をしているアクアが悲しげに嘆き始める。


「休みの日なんて準備運動が全力ダッシュで訓練場百周に素振り三百ッスよ」

「じゅ、準備運動で本題くらいないかの!?」

「そうなんスけど、この後に5分休んだ後に全力の模擬戦でウチらはフルボッコにされては回復魔法で復活を繰り返したッス」

「前情報で知っていてもエグいな……」


 前の世界での体育会系の強豪校みたいだな。

 内心でドンびいていると、何かが気になったのかディアは冷や汗を流しながら口を開く。


「ワシもスパルタで訓練しておったがアクアはそれ以上ではないかの?」

「ディアの実家をそこまで知らないからなんとも言えないッスけど、やばいのは確実ッスね」

「ほ、ほんとお疲れ様として俺は言えない」


 よ、よく生き残ったな。

 コイツらの頑丈さを甘く見ていた感じがするので、俺は涙目で立ち上がりコチラに近づいてきた2人の頭を撫でる。


「ありがとうッス」「ありがとうなのじゃ」

「お、おう、落ち着くまで待った方がいいか?」

「このままで話したいッス」

「ワシもじゃ!」


 椅子に座る俺の太ももの上に乗る二人。

 小柄なアクアはともかく長身のモデル体型のディアが、俺の太ももに座ると少しきついんだが?

 内心でドキドキしていると、若干頬を膨らませたアクアに腕をつつかれる。


「もしかしてウチよりもディアの方がいいんスかね?」

「フフッ、ワシの方が一部以外は肉付きがいいからのう」

「ッ! ば、バルク?」

「ちょ、ま!? いったん落ち着いてさっきの話を進めようぜ」

「なんで早口になっているんじゃ?」


 そ、そりゃあ、俺は童貞なので。

 多少は慣れたつもりだったが、思った以上に女性への免疫が低い気がする。

 なのでショックを受けていると、コチラを見ていやらしい笑みを浮かべたアクアが呆れたように続きを話してきた。


「仕方ないから話を戻すッスけど、ルーシィならまた何かをやらかすと思っていたッスよ」

「それってギルドのおじさんが言っていた立ち入り禁止のダンジョンに突っ込んだ事かの?」

「そうそう、って立ち入り禁止のダンジョンとはなんスか?」

「ええ!? まさかのそこからかよ!」

「いやだって、流れ的に聞けないじゃないスか!」


 た、確かに知っている前提で話を進めてしまったな。

 そこは俺の気が早いと思い反省しながら、自分なりに言葉を噛み砕いて説明していく。


「それはすまない」

「別にいいっス。それよりも立ち入り禁止ダンジョンの説明を聞いてもいいッスか?」

「ああ、立ち入り禁止のダンジョンは国が管轄していて基本的に誰も入れないんだよ」

「そ、そのまんまッスね……」

「まあな。でだ、その危険地帯にルーシィ脳筋達が無許可で入っていたら最悪だな」


 これが今の流れて一番最悪な状況。

 まだ国の許可をとっていればなんとかなるが、許可を取らずに入っていたら。

 背中に冷たい汗がツッーと流れる中、話を聞いていたディアが一言。


「無許可だから大問題になってないかの?」

「……だよな」

「今度はバルクさんの目が死んだッス!?」

「ははっ、コレはマズイ」


 マジで何をやらかしたいるんだよ。

 確かに俺達への直接的な被害はないかもしれないが、間接的に大有りなんだよ。

 思わず内心で突っ込んでいると、アクアが不思議そうに首を傾けた。


「あ、あの、バルクはなんでルーシィ脳筋を気にしているんスか?」

「それは、ルーシィが契約者に選ばれなければ王都で大問題が起きるんだよ……」

「「へ?」」


 マジであのルーシィ脳筋は祝福契約で選んでも選ばなくても地獄。

 その事を思い出して頭がさらに痛くなりながら言葉を続けていく。


「俺の記憶だと、城砦の跡地と呼ばれる立ち入り禁止のダンジョンであるヤバい奴を呼び出すんだよ」

「やばいやつって何かの?」

「ダンジョンに封印されているデンジャーボス」

「はい?」「なんじゃと!?」


 城砦の跡地に封印されているデンジャーボスは、かなりやばい。

 というか、デンジャーボス本体もヤバいが、問題は無限湧きレベルで現れる取り巻きの存在。

 コイツらが並の騎士かそれ以上に強く、ゲームでは数万を超えた軍勢が王都を襲ったんだよな。


「ち、ちなみに回避する方法はないんスか?」

「メタ的に言えばルーシィ脳筋達が城砦の跡地に行かない事くらいだな」

「それって手遅れでは?」

「ま、まあ、あくまで情報だし起きない事を祈ればいい」


 まだ起きると決まったわけじゃない。

 俺の思い過ごしを祈っていると、ドアの外からギルド職員達の声が扉を貫通するように聞こえてきた。

 というか、かなりの大声だったのでいやでも耳に入ってしまう。


「城砦の跡地で魔物暴走スタンビートが起きたみたいだぞ!!」

「はあぁ!? あそこは立ち入り禁止じゃなかったのかよ!!」

「どっかの馬鹿な聖女様が無許可で突入したみたいよ」

「「おおいぃ!?」」

「「「……」」」

 

 悪い予感的中!

 ギルド職員の戸惑う声に、俺達3人は無言のまま顔を見合わせた後、思わず深いため息を吐き木造の天井を見上げるのだった。

 

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