第41話・脳筋聖女め、マジで大問題を起こしやがった!?

 話がまとまった後。

 水上の社で手に入れたドロップアイテムを売却する為に冒険者ギルドに来たのはよかったが。

 冒険者やギルドの職員達が焦るように動いており、どこか張り詰めた空気感が建物内に充満していた。


「何かあったんスかね?」

「まあ、何もなければここまで焦らないよな」

「確かに……。じゃが、何かあっても異常すぎないかの?」

「それはそう」


 まるで何かのイベントが起きている感じ。

 自分の中でどこかで引っかかりを覚えながらアクアとディアを連れ、書類整理をしている筋骨隆々の大男ことバルサさんに声をかける。


「バルサさん、すみません」

「ん? おお、お前らは!」

「えっと? とはドユコトですか?」

「もしかして大問題が起きた事を知らないのか?」


 ここ十日くらいは冒険者ギルドに来てないから、何が起きたか知りませんよ。

 そう突っ込もうとしたが、今の流れ的に違うので言葉を飲み込み、深刻そうな表情を浮かべるバルサさんに質問する。


「んっと? その大問題ってなんですかね?」

「それはな、教会に所属している聖女様とその一団が立ち入り禁止のダンジョンに凸ったんだよ」

「「「へ?」」」


 いや待って、マジでドユコトだ?

 明らかにアウトな案件に固まりつつ、俺はアクアの方に視線を向けると彼女は呆れたようにつぶやいた。


「もしやその聖女様って大きな剣を背負っていたッスか?」

「ん? ああ、情報を聞いている限りはお前の言う通り大剣を持っているらしいぞ」

「あー、理解したッス」


 アクアの質問で俺も大体わかった。

 ただこの場で聖女関係にウトいディアは、不思議そうに首を傾けていた。


「ふたりは何かをしっておるのかの?」

「まあな。っと、バルサさん、その聖女様達が向かったダンジョンは城砦の跡地じゃないですよね」

「な、なんで知っているんだ?」

「……当たってしまったよ」


 立ち入り禁止のダンジョン。

 ゲームではストーリーを進めると解放されるダンジョンで、先程上げた城砦の跡地もその一つ。

 ここは強靭な肉体を持ち、頭にツノが生えている鬼型のモンスターであるオーガが徘徊しており、序盤に入ると秒殺されるレベルで強いダンジョンだったはず。


「なんか今めっちゃ嫌な予感がしたんスけど?」

「俺も……てか、この騒ぎ的に別の何かがあったでしょ!」

「それはな。まあでも、お前らには関係ないことだろ」

「確かに今のには関係ないが」


 個人的にここで聖女と契約者達が死んでくれるのはありがたいが。

 それがわかっているのに、胸の内ではモヤモヤとした気持ちを抱えてしまう。


「とりあえず冒険者ギルド内で対応するから、お前らはいつも通り探索してくれ」

「わ、わかりました。ではドロップアイテムの買取をお願いしますね」

「おう! どんとこい」


 よし、言質はとったぞ。

 俺はニヤッと笑った後、買取をしてもらう為に次々とドロップアイテムを置いていく。

 最初はドヤ顔をしていたバルサさんだが、だんだんと積み上がるドロップアイテムに頬を引きつらせた。


「な、なあ、まだ終わらないのか?」

「まだまだ終わりませんし、多分カウンターの上に置ききれないですよ」

「……すまないが倉庫まで来てくれないか?」

「わかりました」


 最初から倉庫に移動した方がよかったな。

 内心でそう思いながら、俺達はドロップアイテムを売却するために改めて倉庫に移動するのだった。


 ーー


 水上の社で手に入れたドロップアイテムのほとんどを倉庫に置いた後。

 目を点にするバルサさんとギルド職員さんに査定を任せ、俺達3人はお金を払って建物内にある有料会議室を借りた。


「やっぱりあの脳筋聖女がやらかしたッスね」

「確か今年の聖女様はアクアを含めて3人いるんじゃよな」

「ウチはオマケみたいなもんスけどね」


 いちおう補助の聖女であるアクアなのだが、今だと魔法よりも魔法銃で無双している印象が強い。

 そのせいで聖女よりも銃手ガンナーのイメージが強いが、その話は一旦置いといて。

 頭が痛いのか手で額を抑えるアクアと、真面目に話を聞こうとしているディアを見て俺も突っ込む。


「アクアがオマケというよりも、他の2人が強すぎるんだよ」

「と、いうと?」

「ウチは補助だからパッとしないッスけど、王族のシャインは回復の聖女で能力も役立つッスからね」

「あー、確かに回復は便利じゃな」

「それはそうなんだが……」


 今回でているのはシャインではなくもう1人の方。

 ゲームでは3人いる聖女の中で1番の問題児で、好き勝手に周りを振り回していたんだよな……。

 全ルートをクリアしているが、アイツはやばかった記憶が。


「今回はシャインやウチよりも武術の聖女のお話ッスね」

「えっと? ワシは祝福契約の場にはおったから覚えているが、ガタイのいい黒髪の少女だったかの?」

「そうそう。まあ、アイツの事はあんまり思い出したくないッスけどね」

「アクアに俺も同感」

「ふたりの表情が死ぬレベルで酷いのかの?」


 確かディアは祝福契約が終わった数日後に実家を追い出されたはず。

 だから武術の聖女アイツの顔を知っているのか。


「武術の聖女は端的に言えば騎士や傭兵体育会系タイプで、考えるよりも体を動かすタイプなんだよ」

「ふむ? それだけなら大丈夫じゃないかの?」

「バルクさんの言うで収まっていればよかったんスが」

「あー、その程度では終わらなかったのじゃな」

「「そうそう」」


 ゲームの画面を見ていた俺ですらこのゲッソリさだし、教会で一緒にいたアクアはそれ以上にやばそうだな。

 内心で気の毒に思いながら、俺達は武術の聖女の話を続けていくのだった。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る