第40話・コイツら……ドンガスさんが言っていたセリフが染みるな

〈バルク視点〉


 汗だくのアクアに迎えられて部屋に入ったが、なぜかディアとルイスが壁に語りかけていた件。

 うん、もしかして俺にバレないように内緒話でもしていたのかな?


「と、とりあえず、席についてくれるか?」

「はいッス! あ、ふたりも壁を見てないでコッチに来るッスよ」

「オヌシ……。ま、まあ、わかったのじゃ」

「ええ……。少しもどかしいですね」


 確実に何かあったっぽい。

 ただ女性関係で突っ込むのはヤボっぽいので、俺はあまり気にせずに彼女達と共にテーブル席につく。

 するとカーマセル家に所属しているシェフ達が、嬉しそうな笑みを浮かべながら料理を運んできた。

 

「今日の魚料理はバルク様お手製で、わたしも味見をしましたがとても美味しかったです」

「おお! それは楽しみじゃな」


 確かに俺の口にもあったが、彼女達に合うかはわからない。

 なので内心でドキドキしながら、シェフ達の配膳を待っているとニコリと笑みを浮かべたアクアが話し始めた。


「水上の社でもそうだったスけど、バルクさんは料理が出来るんスね」

「あ、うーん、最低限は覚えておいた方がいいだろ」

「あ、あの、わたしが見る限りはやり慣れている感じがあったのですが……」

「そ、そうか? まあでも、その辺を気にしても仕方ないだろ」

「強引に誤魔化したのじゃ!?」


 いやだって前の世界で料理してましたとは言えないもん。

 自業自得で自分の秘密がバレそうになる中、明らかに動揺したアクアが裏返った声で話し始める。


「そ、それよりもバルクが作った魚料理はどんな感じッスか?」

「ん? ああ、今回使ったのは切り身を入れたトマト煮だな」

「ほうほう! やっぱり貴族の料理はすごいッスね」


 誤魔化すのが下手すぎない!?

 なんというか、ディアとルイスからジト目が飛んできたので、思わず目を逸らしているとシェフ長が言いにくそうに言葉を発した。


「確かにトマト煮は存在してますが、服が汚れる可能性があるので出すのが難しいのです」

「ワシのクリムゾン侯爵実家でもあまり見た事がない料理じゃな」

「ええ、なのでバルク様がトマト煮を知っているのと調理する手つきが慣れているのがどうしても気になります」

「……まずいな」


 こりゃやらかしたな。

 まさかの料理をしただけでここまで詰められるとは。

 最初は軽い気持ちで調理していたのに、なんで今は空気が重くなるんだよ。

 内心で泣きそうになりながら、周りを見ているとお手上げなのかアクアが両手を上げた。


「バルク……」

「うーん、俺の秘密はあんまり言いたくないけど仕方ないか」

「ツッ! やっと観念したのかの?」

「ああ、ただ先に料理を食べていい?」

「もちろんです!」


 ここまできたら話すしかないよな。

 そう思った俺は覚悟を決めながら、テーブルにおかれる料理を食べていくのだった。

 ……マジで気が重いが仕方ない。


 ーー


 食事が終わった後。

 人払いをしてもらい、俺はアクアにした説明と同じ内容をディアとルイスに伝える。

 するとふたりは最初は驚いていたが、どこか納得した感じで頷いた。


「バルクの話をまとめると、貴方はバルク・カーマセルではなくて別の人間の魂が乗り移り憑依した」

「そうそう。で、この世界は俺が知っている物語に似ていて、バルク自体は間接的に契約者に殺される運命」

「にわかに信じがたいですが、心当たりが多すぎて理解ができてしまいますね」

「ウチも最初に聞いた時は驚いたッスよ」


 俺達はソファに座り直し。

 ルイスに入れてもらった紅茶を飲みながら、内容をまとめていく。


「だとすると、ワシの火傷跡や炎属性魔法を解決する手段を知っていたのは……」

「予想外はあったけど大まかはその物語の情報だな」

「それでと言っていたのね」

「ああ」


 俺が話す内容は先に答えを知っているカンニングに近い。

 自分の感覚ではをしている感じで、どこか後ろめたい気持ちになってしまう。

 なので不安で体が震えていると、隣に座っているアクアが右腕を抱きしめてくれた。


「不安に押しつぶされそうになっても打ち明けてくれてありがとうッス」

「いやでも、本来のバルクは……」

「正直に言えば元のバルク様がいなくなったのは辛いですが、今の貴方のおかげて助けられた面もあります」

「ッ!?」

「少なくともワシはお主に救われたのじゃ」


 俺が本来のバルクを消した。

 その思いが心の中に渦巻いていたが、クシャクシャの顔になりながら笑みを浮かべるディアが優しそうに呟いてくれた。

 

「わ、私も今のバルク様の方が好きですね」

「それは……」

「確かに前のバルク様がいなくなったのは悲しいですが、今の優しい貴方様がいいです」

「ちょっ!? なんでお前らも抱きついて来るんだ?」

「ふふっ、いいじゃない!」「少しだけ失礼します」


 しれっと膝の上に移動して抱きつくアクア。

 左右にはディアとルイスが俺の腕に抱きつき、若干蒸し暑いがそれ以上に暖かさを感じた。


「お前らな……。この話を聞いたからには共犯になってもらうぞ」

「言い方はアレじゃが、元々ワシはバルクについていくと決めているから大丈夫じゃ」

「わ、私もバルク様の専属使用人なので!」

「ウチは言わなくてもわかるッスよね」


 ほんとコイツらも変わり者だな。

 俺の秘密を聞いてもついてきてくれるコイツらを見て、思わず目から汗が流れ始めるのだった。

 ……ほんと俺も含めてバカばっかりだな。

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