第38話・バルクが調理でいない中、ウチらは秘密話を……アヤツは本当に不遇じゃったな

〈ディア視点〉


 一通り落ち着いた後。

 ワシらに揉みくちゃにされていたバルクは何か思いついたのか、苦笑いになりながらひとつ頷いた。


「あ、そだ。グロウサバキンからとれた食材魚の切り身を使って何か作ってくるよ」

「へ? バルクは凝った料理が出来るんスか?」

「さ、さあ? でも試して見たいんだよ」


 水上の社で耐久している時はバルクが料理を作っていたけど。

 わりとシンプルな料理が多かった印象があるんじゃが。


「私はバルク様の料理に興味がありますね」

「そう言ってくれてありがたいけど……」

「あ、もう少し抱きつかせてくださいッスね」

「それならワシの上からどいてほしいんじゃが?」

「やだッス!」


 やっぱり!?

 アクアはそこまで重くないけど、バルクを地面に押し倒している状態。

 なのでここままだと彼がキツそうなので、せめてマシな体勢にしたいところじゃが。

 テンションが上がりまくっているアクアに突っ込むのも野暮な気がするので、ワシは呆れながらもバルクを強く抱きしめるのだった。


 〜〜別室に移動〜〜


 バルクが調理場に移動し、ワシらは落ち着くために別日に。

 うん、本当にワシの火傷跡がなくなるとは……。


「ほんとバルクアヤツは何者なんじゃろう?」

「そういえばディアは昔のバルクを知っているんスよね」

「うーん、ワシの場合は噂と例の事件に居合わせたくらいじゃな」

「例の事件ってバルクが貴族社会に出禁になった件ッスか?」

「そうそう」


 5年前のあの事件はやばかった。

 今でも印象に残っている事件で、バルクが貴族社会へ出禁になった要因。

 家の事情で社交界にあまり参加できなかったワシでも、強い印象が残っている。


「ワシが見ていた限りは王家の姫様2人がバルクへ暴言を吐いて、周りがその言葉に便乗して彼を袋叩きにした件じゃ」

「それって……」

「正直に言えばかなり酷かったのじゃ」


 バルクは強いけど多勢に無勢なら勝てない。

 しかも先に問題を起こしたのは姫様側で、バルクが被害者なのじゃが。

 

「もしかしてその姫様はシャインッスか?」

「うむ。シャイン様と腹違いのホワイト様じゃな」

「えっと? ホワイト様はどんな方なんスかね?」

「ワシもあまり見たことがないのじゃが、俗に言うワガママ放題のじゃじゃ馬姫じゃよ」

「わあぁ……」


 王家の姫様相手にあまり言いたくないんじゃが、彼女にも問題があるのが。

 回復の聖女のシャイン様と腹違いの姉妹であるホワイト様は、ウチらと同い年でおそらく戦闘学園に入学される。

 そうなると相性最悪のバルクが彼女達と出会う事になるので……。


「そうなるとホワイト様&取り巻きのド腐れ正義達がかなり厄介そうッスね」

「うーん、当時ならともかく今はだいぶマシじゃと思うぞ」

「えっと? それはドユコトッスか?」

「お、お主、当事者なのに何もわかってないのかの?」

「へ?」


 こ、コヤツ、自分の立場を忘れておるのか?

 コテンを首を傾けるアクアを見て、思わず突っ込んでしまう。

 まあでも、ワシもクリムゾン侯爵家の令嬢ではなく《ディア》として見られているから気持ちがわかるが。


「いちおうお主は聖女じゃろ」

「あー、そういえば!」

「もしや、本気で忘れていたのかの?」

「うん! てか、最近は銃手ガンナーとして動いていたッスよ」

「……確かに」


 アクアのイメージが補助魔法を使うよりも、魔法銃の引き金を引いている印象が強い。

 ここに関しては彼女の言う通りでもあるが、それでも忘れてはいけない事を忘れておらんか?


「それに最近は教会からの連絡もないし、聖女として働いていないッスよ」

「前におった教会の偵察係はどうしたのかの?」

「カーマセル家に馴染んでいるッスよ」

「ええ!?」


 いやいや、それはダメでは?

 偵察係は教会所属でカーマセル伯爵家は王国派の貴族。

 普通なら相性が悪いのに、ワシが知る限りは問題が起きてないのかの?

 自分の頭に疑問符が浮かんでいると、ワシらの話を聞いていたルイスさんが口を開いた。


「失礼ながら、そこは当主様であるアレクセイ様が動いているんだと思います」

「バルクの父上はどんだけやり手なんじゃ?」

「さあ? でも5年前に起きた王家主催のパーティ事件は、表向きはバルク様が悪くなってますが……」

「裏では何かあったんじゃな」

「ええ、そうなります」


 本当に加害者なら出禁じゃすまない。

 でも実際はバルクが受けた罰は聞いている限りは

 なら、ワシらが知らない裏で何か取引があったと考えると良さそうじゃ。


「聞いている限りはバルク様よりも姫様の方が悪くないッスか?」

「じゃな。でも、権力は姫様達が上じゃから……」

「ウチはシャインしか知らないッスけど、ぶちのめしたくなるッスね」

「そこはワシも同じ気持ちではあるが」


 相手は王族の姫様。

 何かしら仕掛けても難癖をつけられてコチラが悪くなるのは明白。

 そのため、何かしらの方法を使わないと対処ができない。

 

「まあでも、アクア様もディア様も第二王都にある戦闘学園に通うんですよね」

「そうじゃが……。あ、いい方法を思いついたのじゃ!」

「ほんとッスか!」

「のじゃ!」


 この手ならバルクに迷惑をかけずに出来る。

 ワシが思いついた方法を2人に話すと、彼女達はニヤッと悪そうな笑みを浮かべた。


「確かにディア様の方法はありですね」

「じゃ! てなわけで少しずつ準備を進めていくかの?」

「ッスね! あ、ウチの方でも追加で動くッスよ」

「派手にやらなければ大丈夫じゃよ」

「了解ッス」


 上手くいけばバルクの悪評がひっくり返るのと、憎い姫様達を地面に落とせる。

 ワシら3人はこれからの計画を話し合うために、紅茶を飲み干しながら計画を立てていくのだった。


 ーー

〈一方その頃のバルク〉


「クシュン! な、なんか寒気がしてきたぞ?」

「おお、大丈夫でしょうか?」

「そんなに気にしなくてもいいぞ」

「は、はっ!」


 最近は冷え込んできたし、その影響かな?

 調理場でコック長と共にサカナグロウサバキンの切り身に下味をつけつつ、次の作業に手をつけていく。

 


 

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