第37話・ディアの治療➕ドンガスさんからの意見を聞いて思わず泣きそうになった
水上の社からカーマセル家の屋敷に戻った後。
流石に疲れが出たので当日は休み次の日の朝に、俺、ディア、アクア、ルイス、ドンガスさんの5人は訓練場に集まった。
「この神秘の雫でディアの火傷跡が治るんスよね」
「情報ではだから確定ではないけどな」
「いやでも、ワシの為に用意してくれたのはありがたいのじゃ!」
「その言葉は成功した後に言って欲しい」
「フフッ、そうじゃな」
あくまでゲームはゲーム。
今は似た世界のリアルで、ディアの火傷跡が本当に治るのか。
ここが個人的に気になっていると、ルイスから神秘の雫を受け取ったディア……え?
「ま、またなんか光り始めたッスよ!」
「この流れは真実のルビーを使った時と似ているな」
「ええ、私にもそう見えます」
ディアがユニークスキル〈蒼炎魔法〉を手に入れた時と光の色は違うが似ている光景。
その姿に目が点になっているアクアとルイスを尻目に、俺は成功するのを祈り始めた。
「ひ、光が収まって……あ」
「ん? どうしたのかのアクア?」
せ、成功してくれ!
あまり眩しい光じゃなかったので目は開けられていたが。
ディアの体が光り輝き、彼女の顔にあった火傷跡が綺麗に無くなっていた。
「ま、まだ喜ぶのは早い。ルイス、すまないがアクアと共に別部屋でディアの火傷跡を確認してきて欲しい」
「はっ! 了解しました!」
「えっと? なんでバルクは泣きそうなのかの?」
「いやだってな……。ま、まあ、確認してくれ」
これ以上は言葉にできない。
なのでなんとか誤魔化しながら、女性組には移動してもらう。
そして3人がいなくなった時、今まで無言だったドンガスさんが嬉しそうに口を開く。
「バルク様は本当にお変わり……いや、本来の姿になったのですな」
「ははっ、今の俺は偽りだよ」
「自分はそう感じませんぞ」
本来のバルクは俺じゃなくてゲームの序盤に潰されるカマセ犬の悪役なのに。
今のドンガスさんは何かを理解したように、涙目になっている俺の肩を優しく叩いてくれた。
「過去のバルク様は悪童でしたが、今はそうではないですからね」
「まあでも、色んな意味で自由にやらせてもらっているぞ」
「ははっ、ただ
「それならいいんだけどな」
マジで自分が生き残るためにやりたい放題だし。
アクアと運良く契約が出来たり、ディアを見つけられたり、父上の勘違いとかで助かっているだけ。
本当の自分は自己中で利害関係や自己防衛しか考えてなくて、アイツらの事なんて……。
「確かにバルク様の不安は自分も理解しますが、視野が狭くなっておりますぞ」
「それって」
「ほら、嬉しそうに走ってくる彼女達を見てくださいな」
「へ? ちょ、ええっ!?」
土埃が上がるレベルでダッシュしてくる人物。
先頭は赤いロング髪のディア、続いて青髪ボブカットのアクアが追いかけており。
最後尾は鬼気迫る表情で2人を追いかける金髪セミロングでメイド服をきているルイス……。
うん、このままだと俺はひかれないか?
「ど、ドンガスさん! って、いねぇ!?」
いつの間にか退避してやがる。
全速力で俺から離れていくドンガスさんを追いかけようとしたが……。
「ば、ばるくー!!」
「ちょ、ま、待ってえぇ!?!? ゴブッ!?」
「で、ディア! バルクを独り占めするのはずるいッス!」
「ソユ問題じゃねーだろ!」
「そうです! 私だってバルク様に抱きつきたいんですよ!」
あのー、いつもは落ち着いてるルイスまでボケないで?
とびっきりの笑みを浮かべているディアに強く抱きしめられた俺は、アタフタしながら彼女の頭に手を置く。
「その感じ的に火傷跡は治ったんだな」
「う、うむ! バルクよ、本当にありがとうなのじゃ!」
「いやいや、俺だって自分のためにやっただけだぞ」
この言葉は偽りもない本心。
なので特に気にせず呟いたが、ディアがオレの胸に顔を埋めながら不機嫌そうに言葉を続けた。
「確かに損得勘定はあるにせよ、ワシを救ってくれたのは別の話じゃないかの?」
「ツッ!? そ、それは……」
「バルクは悪い方に考えすぎなんスよ」
悪い方に考えすぎる。
ルイスに羽交締めにされているアクアから言われた言葉。
その一言が胸の中に突き刺さり、気持ちがオーバーフローして何も言えなくなってしまう。
「でも俺はお前らを」
「もしバルクが本気で自己中なら自分でアイテムを取りにいかずに誰かに任せればよかろう」
「え、ま、まあ」
誰かに任せればいい。
手間や面倒さを考えればその手もあるが、俺は自分自身で取りに行った。
アクア達の助けがあるとはいえ、これっておかしい事なのかな?
「てな訳で無駄に考えるよりも目の前の結果を見て欲しいのじゃ」
「結果……」
「アクア達もそうじゃが、今回はワシ関係の炎魔法や火傷跡の解決じゃな」
「ツッ!」
やっと少しわかったかもしれない。
今までの自分は視野が狭くて周り見てなかった。
それは悪い意味でもあるが、それと同時に救えた人物もいたのは。
よくわからないが理解はできたので、俺は思わず目から水が……。
「コッチこそありがとう」
「フフッ、やっと少しだけわかったようじゃな」
「ちょっ!? ウチが言いたかった言葉なのに!」
「あ、アクア様!?」
「「へ?」」
ルイスの拘束を解いたアクアがコチラに突貫。
ディアに押し倒されていた俺の上に、アクアがのしかかる感じになり。
そのまま押しつぶされてしまうのだった。
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