第36話・前半と後半で温度差が激しくない?〈作者視点〉

〈アクア視点〉


 虹色に輝き、通常種が持っていた長槍とは比べものにならない豪華さ、ウチの目には止まらない突き。

 そんな相手にバルクは1んスか?


「ウチらは相棒だったんじゃないんスかね……」

「いや、さっきの言い方的にだからこそじゃからだろ」

「えっ? ディアは何かわかったンスか?」

「あくまでワシの勘じゃが」


 不安でグルグルする中、冷静に物事を判断してそうなディア。

 たまに気に食わないところはあるけど、バルクが選んだ娘なので近くにいるのは理解はできる。


「あ、アクアよ、その嫉妬に狂った視線はやめて欲しいのじゃ!」

「ウチはそんな目をしてないッスよ」

「あ、は、はい」

「それよりもディアの意見を聞きたいッス」

「も、もちろん。バルクが1人で強敵と戦っている件じゃが……」


 ここで何を言われるか。

 顔から冷たい汗をダラッと流しているディアを観察していると、彼女は若干言いにくそうに続きを話す。


「一つ目は今までワシらのをしていた分、モンスターとの実戦が不足していたのに気づいたんじゃ」

「それってウチらが速攻で敵を片付けるからッスか?」

「そうそう!」


 確かにボスをゴリ押しで沈めた記憶がいっぱい思い浮かぶッスね。

 というか、バルクはほぼ出番がなくウチらに指示を出していただけ……。

 そう考えるとディアの意見は筋が通っているような?


「ただ、あの個体じゃなくて通常種と戦えばよくないッスかね?」

「うーん、ワシが考える限りはが二つ目の要因じゃな」

「えっと?」


 ディアがいきなり悔しそうな表情を浮かべた。

 その姿に何かあると思ってまぶたをパチクリさせ、少しだけ気分を切り替え、改めてディアへ耳を傾ける。


「バルクが1人で戦う虹色のボスは広範囲に届く技を連発しているから、防御手段が少ないワシらと相性が悪いんじゃよ」

「ツッ! でも装備もシルバーシリーズに新調したし防御力は上がっているッスよね」

「多分じゃけど、バルクはワシらの装備よりも防御や回避手段を見たんじゃろ」

「……それだとできるッス」


 確かにウチらは防御技や回避技は乏しい。

 あの金色のボスの範囲攻撃を放たれたら、バルクさんはウチらを庇ってくる。

 そのせいで動きづらくなるし、場所によっては片方しか庇えない。


「ただウチらはッス! なのにバルクが1人で戦っているのはもどかしいッスよ」

「アクアの気持ちもわかるんじゃが、消耗していたワシらが虹色のボスを相手できる状態かの?」

「ツッ! し、じゃあ、バルクは……」

「おそらくじゃがワシらを労わると同時に気にさせないように動いたんじゃと思う」


 だから相手をよく見ている。

 ウチは置いてかれた感じがして、胸の中がギュッと締め付けられてしまった。

 でもディアの説明で納得できる部分もあったし、何よりバルクが痩せ我慢で動いてくれた事。

 

「ほんとバルクはバカッスね」

「それはウチも同感じゃが、そのバカなのが愛おしくなるのじゃよ」

「それは……ん? いまと言ったッスよね?」

「ひいいぃ!? あ、アクアよ、その目の色がないのはやめて欲しいのじゃ!?」


 たまに出る癖をやっていたッスかね?

 でも今はソッチを気にするより、ディアの「愛おしい」発言を問い詰めないといけないッスね。

 さっきまでの不安な気持ちがぶっ飛ぶ感じで、ウチはガクガク震えているディアを問い詰めていくのだった。


 ーー


〈バルク視点に戻り〉



 イレギュラーボスのレインボー・カープランサーをなんとかソロで討伐したのはよかったが……。

 グロッキー状態で正座しているディアと、ハイライトがない瞳でとんでもない威圧感を放っているアクアがいた。

 というか、タイプは違うけどホラー映画レベルの事が起きてない?


「いったい何があったんだ?」

「あ、おかえりなさいッス」

「お、おう、ただいま。それでディアはなんでくたばっているんだ?」

「コッチで少し揉めただけッスよ」

「な、なるほど……?」


 おそらくディアが無意識にアクアの地雷を踏んだのか?

 そう解釈して内心で合掌していると、ハイライトが少し復活した瞳をしたアクアがコチラに振り向いた。


「それでバルクは虹色のボスと戦ってどうだったッスか?」

「うーん、だいぶ苦戦したけどなんとか倒せたぞ」

「それはよかったッス。ただ今のバルクはボロボロッスね」

「そりゃな……」


 マジで総力戦レベルになったから。

 回復ポーションを使ったおかげで傷や痛みはだいぶマシだけど、流石イレギュラーボスと言わざるを得ない強さだったな。

 さっきの戦いを頭の中に思い出していたら、アクアがニッコリと笑みを浮かべた。


「それでバルクが1人で虹色のボスと戦った理由は?」

「うーん、その前に2人へプレゼントがあるんだけどいいか?」

「え? なんスか?」


 明らかにやばいタイミングだが、今だ。

 レインボー・カープランサーからドロップしたレア物のアクセサリー、虹色の宝石がハマったネックレスと指輪ををアクアに見せる。

 すると彼女はさっきまでの不機嫌さが吹き飛ぶようかのように、目がキラキラと輝き出した。


「もしかしてウチにッスか?」

「ああ、アクアには指輪でディアにはネックレスをプレゼントしたいんだけど」

「あ、ありがとうッス!」


 すごい食いつきだな。

 とりあえず目が死んでいるディアは今は放置で、目の色が完全に復活したアクアを対処するか。

 そう思いながら俺は、出来る限りの真顔になりながら続きの言葉を話す。


「虹色の宝石がハマった指輪はレインボー・リンクといって、傷が少しずつ治っていく効果と一部の状態異常耐性を持っているんだよ」

「そんな事よりも早く指輪をつけて欲しいッス!」

「わ、わかった。ん? な、なんで左手の薬指を向けて来るんだ?」

「そんなの相棒だからッスよ」


 そ、そうなのか?

 前世では左手の薬指は結婚指輪をつける場所だったが、この世界では違うのかな?

 恋愛経験が乏しいので、少し疑問には思うがアクアの言う通り彼女の薬指にレインボー・リングを装着……したのだが。


「フフフッ、これで」

「な、なんかやばいオーラを放ってない?」


 アクアがヤンデレなのは知っているが原作以上じゃね?

 いい意味で重いアクアの姿を見ながら、かろうじて復活したディアにもネックレスを渡していく。


〈余談〉


 本来の目的である神秘の雫が手に入ったのは、水上の社に来てから6日目のことだった。


《水上の社の結果》

・神秘の雫が手に入るまでの所要時間は6日。

・ボス部屋での討伐数は324体

・通常ボスのグロウサバキン、288体

・レアボスのスカーピスサバキン、35体

・イレギュラーボスのレインボー・カープランサー、1体

 



 

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