第35話・イレギュラーボスのレインボー・カープランサー。うん、なんでソロの時に来るんだよ!?

 さあこい、グロウサバキン。

 前と同じく通常のボス待ちをしていたのだが、中央の光がいつもの青やレアの黄色ではなく真っ赤に……え?


「なんでソロの時にイレギュラーボスに当たるんだよ!?」


 や、やばい。

 ゲームでは初見殺しが多発したイレギュラーボスで、通常のボスとは比べ物にならない強さを持っている。

 俺はゲーマーとしての勘でドキドキしていると、光の中から現れたのは。


「きゅあぁ!!」

「やっぱりレインボー・カープランサーか!」

 

 レインボー・カーブランサー。

 百回に一度の割合で出てくるイレギュラーボスの中では強敵と扱われており、虹色に輝く鱗に穂先が金色に光る長槍を持っている。

 通常のグロウサバキンを強くした感じだが、俺は冷や汗を流しながら空月のツルギを引き抜く。


「さあこいよ、レインボー!」

「ギュアァァ!!」


 相手の準備が整ったのか、両手に持った長槍で高速の突きを放ってきた。

 その動きはかなり速く準備運動だと思うが、シャシャと空気がなってる。


「バルク、ウチらも援護するッス!」

「いや、お前らは来るな!」

「え、でも! 1人じゃと!」

「いいから、お前らは外で待っていてくれ!」

「「ばるく!!」」


 コイツは取り巻きを呼ばない分、範囲攻撃がかなり多い。

 なので火力のゴリ押しで倒していた俺達とは相性が悪く、ディアはともかく耐久力が低めなアクアは大ダメージを受けやすくなる。

 そのため俺は空月のツルギをグッと握りながら、覚悟を決めて顔を上げる。


「てなわけでお前の相手はカマセ犬1人だぞ」

「ッ! キュアァ!」

「はっ、やっぱり初手はそう来るよな!」


 初手でレインボー・カープランサーが牽制で放ってきたのは、通常種と同じく水弾。

 ただ向こうとは違い、今の水弾はかなり大きく威力も高そうだが。


全反射クロス・カウンター!」

「ギュアッ!?」


 こうなります。

 とりあえず飛んできた水弾を全反射……片手剣に半透明なオーラを惑わせながら相手の攻撃に合わせて弾いていく。

 すると、水弾の向きが180度変わり相手の方に勢いよく飛んで行った。


「き、キュアぁ!」

「あらら、牽制技なのになんで怒っているんだ?」


 モンスターに感情があるかはわからない。

 なので煽るのは有効かはわからないが、一ヶ月後に控える魔法闘技大会の練習をかねて試してみるか。

 俺はニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべながら、長槍をブンブンと振っているレインボー・カープランサーの方に視線を向ける。


「きゅあぁ!!」

「ッ! ブースト&ウィンドエンチャント!」


 さっきの煽りが効いたのか、イレギュラーボスは長槍を構えながら突っ込んできた。

 その勢いはやはり早く、対応するのは少しキツく感じたが、コッチも強化魔法を使って対応していく。


「ギュアギュアギュアギュア!?」

「オラオラオラオラ!!」


 ガンガンガンガンと金属がぶつかり合う音がボス部屋に鳴り響く。

 武器的に片手剣と大槍なら相手の方が射程が長く、俺の方が不利ではあるが。

 ディアとの模擬戦でその辺は理解しているので、自分なりの対応をやっていく。


「確かにお前の方が有利だが、模擬戦ではないよな」

「ギャ!? グウゥ!!」


 悪いがガチンコ対決に付き合うつもりはない。

 大槍の突きに対し、バックステップで回避しながら風魔法の鋭い弾丸を放つ。

 ただ虹色の鱗にはそこまで効かないのか、少し凹んだ程度のかすり傷レベルになったが……。


「ギュアギュア!!」

「怒り始めるの早くない?」


 もしかしてカルシウムが足りてないのか?

 最近怒りっぽい奴が多いし、もっと広い心を持てないのかな。

 頭の中で煽るような内容が思い浮かぶが、相手がさっき以上のスピードで突きが俺の頬を掠った。

 

「あー、流石にやばいな」

「きゅあ!!」


 ゲームの情報があるから油断していたかもしれない。

 ジクジクと痛む頬から血が少し垂れ、俺は思わずニヤッと笑ってしまう。

 ……今回は楽しめる戦闘っぽいな。


「さてと、気持ちを切り替えて第二ラウンドだな!」

「ギュア!!」


 今更かよ!と相手に突っ込まれた気がするけど。

 俺も久しぶりにスイッチが入ったので、空月のツルギを握り直しながら突っ込んでいく。

 するとレインボー・カープランサーが勢いよく地面に大槍を突き刺した。


「ギュギュ!」

「チッ、範囲攻撃か!」


 相手の行動で起きた水の衝撃波。

 これが厄介な範囲攻撃だから、俺は風魔法の防御技を体の周りに展開していく。


「風の城壁!」

「ぎゅあ!?」


 防御技のお陰でダメージがだいぶ軽減された。

 そのおかげで相手に接近が出来たので、今度はコチラの番なので……。

 

「ストームセイバー、スカイタイフーン!」

「ギュアァ!?」

「続いてクロスウィング、バスタースラッシュ!!」


 大槍の弱点である懐に潜り込む。

 俺はギリギリまで接近した後、武術スキルと風魔法を力の限り放つ。

 するとレインボー・カープランサーが苦しみ始めたので、このまま容赦なく攻撃を仕掛けようとしたが。


「ぎゅギュアィー!!」

「ぐっ、ここまでだな!」


 特殊ボスあるあるの行動変化。

 相手が長槍を捨てて背中に背負っているバスターソードを引き抜き、そのまま叩きつけてきた。

 なので俺は反射で攻撃を弾いたが、相手は後ろに吹き飛びながら蹴りを放ってきた。


「がはっ! こ、こいつ!」

「きゅ、ああ」


 ボスの蹴りをまともに受けた俺。

 地面に転がりながらも体勢を立て直し、腰のポーチから回復ポーションを取り出して口に含む。


「ケホッゲホッ!」


 あー、口の中が血の味祭りだな。

 向こうは体勢を崩していたのにこの威力は流石イレギュラーボスだな。

 水が充満するボス部屋の中で、体が冷える感覚に陥りながら俺は立ち上がるのだった。





 

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