第32話・予想外に予想外が重なりすぎて訳がわからないんだが?
〈バルク視点に戻る〉
想定外の出来事があったけど、結果的に真実のルビーが手に入ってよかった。
そう思いながらアクア達が待つ、訓練場に戻ってきたのだが。
「あ、バルクさんおかえりッス!」
「ただいま?」
「うん? お主が持っている箱はどうしたのじゃ?」
「ああ、これは父上からのプレゼントらしい」
「「え?」」
そりゃ驚くよな。
いつも仏頂面で厳しそうな印象があるアレクセイが、無能扱いをしていた俺にプレゼントをしてきた。
どう考えても違和感しかない状況なのに、父上の本気さを見て信じたい気持ちが芽生えてくる。
「バルクの父上って貴族社会でやり手のアレクセイ様じゃよね」
「そうそう。まあ、俺は外の事はあまり知らないけどな」
「あー、バルクは出禁じゃったな」
「お前な……」
ほんとズバッと言われたな。
まあでも、このストレートさがディアのいいところなので、苦笑いで受け流しながら手に持っている箱を開ける。
「この宝石ってまさか!」
「ルイスさんは知っているんスか?」
「知っているも何もバルク様達が欲しがっていた
「「ええ!?!?」」
ルイスの言う通りです。
内心でドッキリ成功と思っていると、アタフタとし始めたアクアに両肩をガッカリと掴まれる。
「な、なんでプレゼントが
「ちょ、ま、気持ち悪い!?」
またこのパターンかよ。
俺の両肩を力強く掴んでガクガク揺らしてくるアクア。
彼女の表情はどこか焦っており、まるで俺が詐欺に引っかかったような心配さをされている気がする。
なので戸惑いながら、俺は真実のルビーが入っている箱を近づいてきたルイスに渡し、なんとかアクアを止める。
「お、落ち着いてくれ。何も父上は俺を詐欺ってないぞ」
「それでも、あのアレクセイ様がわざわざ用意するなんて考えられないッス」
「いったん落ち着くのじゃ!」
「あたっ!?」
パニックになりかけていたアクアに対し、呆れたディアが拳骨を振り下ろす。
するとゴンッと鈍い音が聞こえ、アクアは涙目になりながら俺を揺らすのをやめてくれた。
「は、はあ、助かった……」
「無事でよかったです」
「お、おう。ん? なんでアクアはディアに引きづられているんだ?」
「そんなの当たり前ですよ」
絶対零度の視線を浮かべるディアと、ガクガクと体を震わせるアクア。
この後、ディアのお説教が終わるまでアクアは子鹿のように震えながら訓練場の地面に正座している。
その姿を見て、俺とルイスは互いに顔を見合わせながらドン引きするのだった。
ーー
約1時間後。
ディアの説教が終わると、アクアの足がガクガクになりながら涙目になっていた。
「ご、ごめんなさいッス……」
「ワシよりも謝る方は誰かの?」
「ば、バルクさんッスね」
「じゃろ。で、本人が前にいるからやる事はあるじゃろ?」
「は、はい」
だいぶアクアがしおらしくなっているな。
少しかわいそうになるが、流れ的に突っ込めないので無言で待つ。
すると足が痺れるのか、アクアはフラフラになりながらこちらに近づいてきた。
「バルク、さっきはごめんなさい」
「いやいや、気にしなくてもいいよ」
「あ、ありがとうッス!」
「うおっ!? ちょっ、いきなり抱きついてくるなよ」
「むふふっ!」
どこか不安でもあったのか?
おそらく俺の事を心配してくれていたのはわかるので、胸に顔を埋めてくるアクアの頭を撫でていく。
うん、いつもの展開なので気持ちが落ち着くな。
「羨ましいですね」
「そうじゃな。まあ、ウチらも後で甘えるかの?」
「え、えっ、でも私はただのメイドなので……」
「メイドが主人に甘えてはダメにはならないと思うのじゃが?」
「そ、そうなんですね」
あらー、なんか向こうでは別案件が進んでいるような?
内心で少し戸惑いつつ、落ち着いた感じがあるのでなんとか話を戻す。
やっとこれで本題に入れるな。
「さてと、ルイスが持っている真実のルビーをディアに渡してくれるか?」
「は、はい! ディア様どうぞ!」
「ありがとうなのじゃ! って、いきなり光り始めたのじゃよ!?」
「おおお!」
ここはゲーム通りだな。
真実のルビーは適正があるのに炎魔法が使えないキャラクター。
彼らが炎魔法を使うには一部のアイテムが必要になり、真実のルビーもその一つ。
「ッ!? あ、あ」
「あ、あの? 真実のルビーが砕けたのですか?」
「多分これでディアが炎魔法を使えるようになったはず」
炎魔法を解放したディアは、後半に出てくる強キャラレベルになるので心強い味方になってくれる。
そのため俺は満足しながら頷いていると、予想外の言葉が飛んできた。
「ば、バルクよ。女性っぽい声が頭に響いて『ユニークスキル・
「……はい?」
「も、もしかして想定外かの?」
正直にいえば想定外だからじゃない!?
確かに俺とアクアも新しいユニークスキルは手に入れたけど、ディアも手に入れるとは思わなかった。
そのため目が点になっていると、状況を理解したアクアは嬉しそうに飛び上がる。
「な、何はともあれ、ディアは炎魔法が使えるんスね!」
「じゃな! バルク、本当にありがとう!」
「気にする……って、お前まで飛び込んで来るな!」
「断るのじゃ!」
今はアクアに抱きつかれているのに、ディアも追加で抱きついてくるとは。
テンションが上がるのはわかるけど、流石に2人に抱きつかれるのは少し熱いな。
「ディア様、本当におめでとうございます!」
「ルイスさんもありがとうなのじゃ!」
「あ、ルイスもコッチにきてくれるか?」
「えっと? わ、わかりました」
コチラを羨ましそうに見ているルイス。
最近はよく視線が飛んでくるので、俺は隣に立つ彼女の頭に手を置く。
するとルイスは驚いたのか、目が大きく開くが俺はそのまま撫でる。
「いつも助けてくれてありがとう」
「ば、バルク様!」
ラブコメの鈍感主人公になっている気もするが。
今は気にせずに彼女達が喜ぶ姿に満足しながら、3人が落ち着くまで抱きつかれるのだった。
〈あとがき〉
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