第31話・いい意味でアレクセイの勘違いだが、バルクの裏事情を知らないのでカラ回っている件

〈アレクセイ視点〉


 バルクが私の執務室から出て行った後。

 私はいつも通りの口調で、執事長のクレイブにある質問をしていく。


「クレイブはバルクの事をどう思う?」

「それは人か能力、どちらでしょうか?」

「どちらもだ」

「あくまでわたしの意見になりますが」

「もちろん大丈夫だ」


 今まではバルクを無能と切り捨てていたが、ここ半年くらいはいい意味で認識を変えさせられた。

 まるでくらいだが、流石にそれはあり得る話ではない。

 なので私はメイドに用意させた冷たいお茶に口をつけながら、言葉を選んでそうなクレイブに視線を向ける。


「まずは人としては、最近のバルク様は使用人や私兵の騎士達からの評価がかなり高いです」

「そこは私もたまに見ているが……」

「ダンナ様は本当に不器用ですよね」

「し、仕方ないだろ」


 貴族の当主としてのプライドもある。

 ただ実際に現場を見ないとわからないのは私も理解している。

 なのでわざわざ訓練場に足を運んで見てみたら、昔のバルクとは別人レベルで楽しそうにしていた。


「それと私達が冷遇していても文句の一つも言わずに受け入れていたのも驚きました」

「それは私もビックリしたな」

「ええ、正直に言えばバルク様に苦言の一つでも言われると思いましたが……」

「実際は苦言どころか普通に受け入れていたな」


 理由はあるとはいえ、バルクに恨まれても仕方ない。

 私も覚悟はしていたのに、いい意味で肩透かしを受けたので思わず気が抜けてしまった。

 というよりも、特に気にせず受け入れていたのはと言えるな。


「バルク様が無能を演じていたのはわたしも理解できますが、小さい頃からその動きが出来ていたのは……」

「何かしら理由がありそうだな」

「わたしもその線は考えましたが、特に思い浮かばないです」

「まあ、その辺はおいおい考えれば良さそうだ」

「そうですね」


 苦笑いを浮かべるクレイブと、気持ち的にバルクへの申し訳なさがある私。

 無能を演じていたと知るまでは、視界に入れるだけ無駄と考えていた私だが、今回の件で少し変わったかもしれない。


「……バルクが言っていた人の一面だけ見て判断するのはやめた方が良さそうだな」

「だ、ダンナ様?」

「いや、なんでもない。次にアヤツの能力面を聞きたいが大丈夫か?」

「もちろんです」


 おそらく私の独り言はクレイブにも聞こえていたが、スルーしてくれて助かった。

 貴族間でのやり取りの時は気をつけているが、落ち着ける空間だとたまに失言してしまうのは私の癖だな。


「まずは戦闘面はどうだ?」

「騎士達の報告だと団長であるドンガスに勝ち星が拾えるくらいらしいです」

「ッ!? 本格的に訓練を初めて半年ちょっとなのにか?」

「はい、報告では10本中3本が最高みたいですよ」

「なん、だと……」


 現状では充分すぎる結果。

 我がカーマセル伯爵家の騎士団長であるドンガスは、王国のエリート部隊である近衛騎士団に所属していた者。

 なのにバルクはソヤツから勝ち星が拾えるのは、厳しめに判断している私も驚いてしまった。


「最近では訓練でも風魔法を使用してますし、戦闘面でも強くなられてますね」

「やはりあの鑑定魔術師が恨めしくなるな」

「わたしもそう思います」


 能力と結果だけで判断していた。

 まるで私の欠点を指摘される感じになるが、ズンッと重くなる気持ちを感じながらクレイブに言葉を返す。


「戦闘面はわかったが知略面はどうだ?」

「上がっている情報では凡人と見せかけた策士ですね」

「つまりタヌキなのか……」

「ええ、しかもとんでもないやり手です」


 また厄介な話だな。

 表向きは無能行動をして他の奴らにあえて侮られる。

 ただ裏では策略をめぐらせ、時が来たらひっくり返す。

 上流階級ではタヌキと言われるやり方に、私達はまんまと騙されたな。


「回復ポーション事件以外に聖女との契約にクリムゾン侯爵家の捨てられ令嬢の勧誘」

「他にも教会の監視を懐柔していたり、我々の動きを読んでいる節がありますね」

「ほんと、とんだタヌキだな」

「わたしもそう思います」


 互いにヤレヤレと首を振ってしまう。

 確かに騙すなら味方からとも言うが、流石にやりすぎではと感じるけどな。

 それだけ厄介な話なのは理解出来るから、後は私のやり方次第だな。


「しかし、バルクが私に任せた仕事はとんでもないな」

「逆に考えると、それだけバルク様はダンナ様を信頼されているんだと思います」

「それならいいが」


 私的にはバルクからのチャンスだと思っている。

 信頼が落ちた場合はその数倍の時間をかけて取り戻すしかない。

 なので私は天井を見上げながら、思わず口元を綻ばせてる。


「こらから忙しくなるぞクレイブ」

「もちろん、わたしも精一杯ダンナ様を支えさせていただきます」

「頼むぞ」


 まずは戦力の増強ときな臭い貴族の調査だな。

 回復ポーション事件で新しいツテも出来たし、私個人としては動きやすくなった。

 私は内心で気持ちが軽くなりながら、やらなければいけない仕事を進めていくのだった。


〈注・作者からの視点〉


 完全にアレクセイ達の勘違いですが、これはこれで面白いと作者的には感じてます。

 

 



 

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