第30話・当主のアレクセイに呼び出されたけどキャラ崩壊してない?

 個室のレストランで話し合いをしてから約半月後。

 装備を一新したのと連携を取りやすくなってきたので、俺達はある場所に向かう事に決め準備を整えていたのだが。


「バルク様、アレクセイ様がお呼びです」

「父上が? すぐにいく!」

「はい!」


 ルイスの伝達を聞き、アクアとディアに声をかけた後に移動。

 そのままアレクセイが待つ執務室にきて中に入ったのだが、前以上に威圧感を放つ相手に戸惑ってしまった。


「よくきたな」

「い、いえ。それよりも僕に何か用があるのでじょうか?」

「ま、まあな」


 あれ?なんかアレクセイが戸惑ってない?

 てか、初老の執事長が壁の近くに立っているが、なんか涙目になってないか?

 色んな意味でよくわからなくなっていると、深呼吸を終えた父上が仏頂面のまま口を開いた。


「バルクよ、本当に水上の社に向かうのか?」

「は、はい! ディア彼女との約束なので行きます」

「変なところでお前は義理固くなったな」


 これって褒められているよな……。

 ゲームではありえない状況に目が点になったが、父上が執事長に合図。

 そのまま執事長が豪華そうな箱を用意して、俺の方に手渡してきた。


「紅に光る宝石、なんで真実のルビーが……。ッ! もしかして」

「ああ、ツテがあったからたまたま用意した」

「た、たまたまですか……」


 マジで!?

 真実のルビーは貴重品ですごく手に入りづらいのに、わざわざ父上が用意してくれたのか。

 さっき以上に驚いていると、仏頂面なのに目が笑ってそうなアレクセイが話し始める。


「サプライズは成功みたいだな」

「ええ、僕的には父上がを用意されたのには本当に驚きました」

「今までお前にプレゼントなんぞ渡した記憶がないからな」

「ええ、なので嬉しさもありますがすごくビックリてます」

「それは私のセリフでもあるがな」


 いつも通りの仏頂面なのに優しさを感じるの気のせいだろうか?

 もしかしてアレクセイはツンデレ親父なのかと思いつつ、テーブルの上に置かれた光り輝くルビーを手に取る。 すると父上の頬が少し緩んでいたが、突っ込むのも野暮なので深く頭を下げておく。


「父上、改めて真実のルビーを用意していただきありがとうございます」

「いや、コチラの都合もあるから気にするな」

「は、はい。それで僕を呼び出したのは真実のルビーを以外にもありますよね」

「ッ! やはりお前は変わったな」

「そう言っていただきありがとうございます」


 今のバルク少なくとも父上の中では無能として切り捨てる存在ではない。

 会話のやり取り的に嬉しくなっていると、仏頂面のアレクセイは重々しく口を開く。


「時間を無駄にしたくないから本題に入るが、お前が得た情報が役に立ったぞ」

「僕が得た情報。どこかの貴族が回復ポーションを買い占めている件ですか?」

「それだ」


 半月前に冒険者ギルドで聞いた情報だな。

 カーマセル家は国王派の貴族で立ち位置はかなり上位ではあるが。

 俺のやらかしで立場が危なくなったと、ゲームでは言われていたな。


「回復ポーションを買い占めた貴族を見つけられたのですね」

「ああ、調べたところ関与していたのは教会派のレイズン男爵だった」

「僕は貴族社会に出てないのでどのような家でしょうか?」

「言い方は悪くなるが、教会の権力に尻尾を振っている雑魚だ」

「す、ストレートですね」


 父上よ、めっちゃ口が悪くね?

 貴族の高貴さがあるアレクセイの表情がかなり渋くなったので、おそらく相性が悪いのは理解できるが。

 テーブルに置かれたお茶を一口飲んだ父上は、一息吐いた後に言葉を繋げた。


「ヤツは男爵としての地位を悪用し、上の者には媚びる三下。まあ、私からすれば扱いやすい捨て駒に見えるがな」

「それでは、今回の回復ポーション買い占めで何か起きたのですか?」

「頭が痛い話だが、ヤツが錬金術ギルドと商人ギルド関係に無理なノルマを押し付けた」

「さ、流石にダメだと思いますが貴族の特権を使ったのですね」

「ほんとお前は変わったな……」


 アレクセイからの信頼度が上がっている気がする。

 今の状況は悪い感じはしないので、気持ちよくなりながら聞いた情報をまとめていく。


「話をまとめると、レイズン男爵がギルド関係に無理を言ってピンチになっているのですね」

「ああ、ただヤツ自体はすでに王国派の重鎮によって対処されたがな」

「仕事が早いですね」

「まったくだ」


 重鎮が誰かは予想はつくが。

 ここは一旦スルーして、俺はソファーに座り直しながら言葉を返す。


「ただ気になるのは父上がなぜかですね」

「ッ! お前も関係者だからでは納得できぬか?」

なら理解はしましたが、僕が欲しがっている真実のルビーを無償で渡してくるのに引っかかりました」

「やはりそうか……」


 アレクセイは有能な働き者。

 しかもだいぶ頭がキレるタイプで、バルクが追放されても家自体は残っていた。

 なのでやり手のアレクセイが、呼ばわりしていた俺にわざわざ報酬を用意したのが気になってしまう。

 

「もしかしてダメでしたか?」

「いや、関心しているだけだ。それにお前が無能を演じているならそれくらいは出来るだろう」

「へ? それはいったい?」

「ははっ、もうとぼけなくていい。お前が考えていた事が私には読めたからな」


 いやマジでドユコト?

 あの仏頂面のアレクセイの表情がほころんでいる感じがするし、今まで壁の方で黙っていた執事長がハンカチで涙を拭いてない?

 よくわからない状況で頭を傾けていると、父上は立ち上がり深く頭を下げてきた。


「今までお前を無能扱いしてすまなかった」

「こ、この流れ的に何か気づかれたのですね」

「ああ。むかしお前の能力を判定した鑑定魔術師が実は貴族派だと判明してな」

「わあぁ……」


 まさかの王国派と仲が悪い貴族派だったのかよ。

 バルクの能力を判定した鑑定魔術師の正体がわかったが、今の俺にはあまり関係ないような……。

 大きな勘違いをされている感じもするが、アレクセイは頭を上げた後に仏頂面なりに頬を緩めた。


「私が早く調査すればよかったと後悔したが、お前は無能を演じる事でカーマセル家を守っていたんだな」

「えっと、まあ、ただやりすぎていた面もありますよ」

「その辺は私の方でなんとかしたから大丈夫だ」

「え、あ、はい」


 ほんとアレクセイは有能すぎないか!?

 というか、最初は近寄りづらかったが、今は仏頂面がマイナスになっているだけでいい父親では?

 執事長が嬉し涙を流す中、アレクセイは嬉しそうに口を開いた。


「お前が聖女様と契約したのと、貴族派のクリムゾン家の令嬢を連れてきたのは驚いたが、お前は上手くやっているな」

「ちなみに僕が2人を連れてきた理由はわかりますか?」

「私にはお前が他の派閥を牽制しようと暗躍しているように見えるぞ」


 ただの偶然です。

 結果的にそう見えるだけで実際は補助の聖女アクア侯爵家の令嬢ディアは、ゲームの知識が上手くハマって仲間になってくれただけ。

 まあでも、父上からすればプラス点なのはわかるので無駄に否定ができない。


「確かに父上が上げた利点は考えてましたが、他にも理由があります」

「ほう、聞かせてもらってもいいか?」

「もちろんです」


 今の状況的に突っ込み辛いが。

 俺はもういっぱいお茶を飲んだ後、自分に出来る真剣な表情を作り答えていく。

 

「僕が2人を誘ったのはだと思ったのとと感じたからです」

「ははっ、報告にあるお前らしいな!」

「父上がお好きな理論ではないですがよろしかったですか?」

「確かに私の好みからは外れるが、今回の件では勉強になった」


 やべぇ、こんなテンションが上がったアレクセイは見たことないぞ。

 嬉しそうに笑う父上を見ながら、俺はいい意味で違和感を感じながら話を続けていくのだった。


 

 

 

 

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