第22話・2人目のヒロイン、ディアネス・クリムゾン。うん、彼女もなんだかんだ濃いな……

 ディアネス・クリムゾンことディアを勧誘してから数日後。

 改めて彼女が住んでいる宿屋に行き、部屋の中にある荷物を次々と収納鞄に放り込んでいく。

 

「まさかディアちゃんが男を捕まえて来るなんてねー」

「そ、そんなんじゃない!」

「フフッ、照れちゃって。あ、銀髪のイケメン君、ディアちゃんをお願いね」

「あ、はい、もちろんです」


 ディアが住んでいた宿屋の女将さんにバンバンと背中を叩かれてしまう。

 うん、パワーがある方すぎて追いつけないんですが……。


「しっかし、ディアちゃん以外にもう1人可愛子ちゃんもいるなんてビックリねー」

「あ、はいッス」

「そんな縮こまっていると置いてかれちゃうわよ」

「もちろん負けない為に頑張るッスよ」

 

 今度はアクアが女将さんに背中をバンバンと叩かれる中、彼女は覚悟を決めるようにコチラに視線を移してきた。

 なので俺は苦笑いで頷きつつ、仮面を装着して表情が見えないディアと共に宿屋を出ていく。


「って、貴族なのに馬車は使わないのかの?」

「王都の外に行くならともかく、そこまで遠くないのに馬車を使う気にならないだけだ」

「本当は許可がおりなかっただけッスけどね」

「おまっ!? それを言ったら俺がカッコつけた意味がないじゃん!」


 確かにアクアのいう通りだけども。

 せっかくカッコつけたのにクソダサい雰囲気になったので、俺は頭がズキズキしているとディアが面白そうに吹き出した。


「フフッ、お二人の相性は良さそうじゃな」

「弾かれ者同士だしな。まあでも、ディアも一緒にいても問題ないぞ」

「ただ正妻はウチッスけどね!」

「ならワシは側室かの?」

「いや待って、なんでその話になるんだ?」


 いつの間にか結婚の話になってない?

 宿屋がある繁華街を歩きながら突っ込んでいると、女子2人がキャピキャピと嬉しそうに会話を始め。

 内容を聞いている限り、俺の立場が危うい感じが……。


「へぇ、バルクさんは釣り上げたウチらに餌をあげないんスか?」

「いやお前らは、餌だけじゃなくて俺ごと食べる気だろ」

「何を当たり前のことを言っているンスかね」

「あ、ワシも忘れないで欲しいのう」

「選択肢は合っているはずなのに気が重いんだけど?」


 ゲームでの感覚が抜けないのが辛いところだな。

 アクアとディア、ゲームのキャラクターだったが実際は人間臭い動きが多い。

 というか、俺が知らない展開も多いのでゲームに近い世界と考える方が良さそうだな。


「それは今までのバルクさんの行動を思い出して欲しいッスね」

「……自業自得ではあるか」

「いやいや、いい意味で情報はあるのになりふり構わずに突っ込むタイプッスよね」

「確かにワシも初対面で誘われたからのう」


 いやあの、ロリ爆乳のアクアがクネクネするのはまだ可愛いが。

 モデル体型のディアがいやらしい動きをすると、変な気持ちが湧き上がってしまう。


「あらー、もしかしてワシに欲情しているの?」

「い、いや? アクアも膨れないでくれ!?」

「ウチは魅力がないんスか?」

「2人とも魅力的だから大丈夫だぞ」


 やべぇよ。

 修羅場が始まりそうな雰囲気になり、アタフタしていると女子2人は互いに顔を合わせた後に笑い始める。

 その姿に目が点になっていると、笑いすぎたのか目の涙を拭ったアクアはいつも通りの口調で話してきた。


「バルクさんは女性への免疫があまりないッスよね」

「お前な、俺は貴族関係で出禁を受けているのは知っているだろ」

「あー、その話はワシも知っておるが、今のお主は昔と変わりすぎじゃないかの?」

「ま、まあ、俺も色々あったんだよ」

「ほうほう! どういう出来事があったのかは知りたいのじゃ」


 いや待って、それは話せないんだけど?

 この世界が元はゲームで、アクアやディアと出会えたのもその知識を使っているなんて。

 こんなことを言えば2人がどんな反応をするか、もしかしたら気持ち悪がられて去られるかもしれない。

 自分の中でマイナス面がグルグルしていると、2人が不安そうにコチラを見て来た。


「い、いきなり顔色が悪くなったけど大丈夫なのかの?」

「こ、この話題はあんまりやらない方がよかったッスか?」

「いや、大丈夫。今のは少しクラッと来ただけだ」

「そ、それならいいんスけど……」


 ご、ごめん。

 自分の覚悟が足りないばかりに、2人に真実を話す事ができない。

 この不甲斐なさにモヤモヤしていると、市場に入ったので屋台から美味しそうな匂いが漂ってくる。


「あ、昨日の串焼き肉屋さんがあるし買いたいッス!」

「そうだな。っと、ディアは食べるか?」

「もちろん食べるのじゃ!」


 よし、串焼き肉屋さんのおっちゃんに声をかけるか。

 さっきまでの暗い雰囲気を変えるように、俺達3人は屋台にある料理を次々と食べ始める。

 そして腹がいっぱいになった時、ベンチに座っていると2人に手を握られた。


「ウチはバルクさんがどんな秘密があっても味方ッスよ」

「ああ! ワシもその言葉を言いたかったのに!」

「早い物勝ちッスよ! てか、ディアは数日前に出会ったばかりだから先輩のウチに譲るッスよ」

「仲が良くなるのは年月の問題じゃないと思うのう!」

「お、お前ら……」


 やばい、ガチで泣きそう。

 外から見れば安っぽい芝居に見えるかもしれないが、俺は涙を誤魔化すように晴天の空を見上げる。

 ……こんな俺に仲間ができるとは。


「さてと、腹もいっぱいだから午後はアイテムを見回るか?」

「もちろんッス!」「わかったのじゃ!」


 少し休憩してパニックが落ち着いた。

 なので俺達は気持ちを切り替え、市場にあるアイテムが売っているお店を中心に周り始めるのだった。

 

 

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