第21話・嘘と本当と突っ込みどころ満載のローブを被ったキャラ(ブーメラン痛い)

 市場の端で個人商売をしていた相手と共にカフェに入店するが、半ば強引だったからかなり怪しまれてそうだな。

 

「改めて俺の名前はバルク、その辺にいる都民と思ってくれるとありがたい」

「ほう……ワシはディアじゃ。それで隣にいるのがもしや」

「あまり大きな声で言えないッスけどアクアッス」

「やはり補助の聖女様じゃったか」


 目の前にいるローブ少女はディアと偽名を名乗った相手。

 彼女は老人の様な話し方に、顔を覆う仮面を付けており、正体が分かりにくい。

 ただゲームの知識がある俺は、情報を選びながら質問していく。


「それで本題だけど、なぜ偽装魔法を使ってまで市場でアイテムを売っていたんだ?」

「お主よ、さっきからワシが偽装魔法を使っていると断定しておるのかの?」

「ウチも意味がわからないから説明して欲しいッス」

「もちろん」


 やべぇ、アクアの目が怖い。

 2人の熱い(意味深)の視線を向けられながら、俺は一つ咳き込んだ後に状況の説明をしていく。

 まあ、半分くらいはこじつけなのだが……。


「まず気になったのは俺が買い取ったアイテム類だな」

「ワシが売っているのはそこまで変わった物じゃないぞ」

「確かに表向きはな。ただ、君が売っていたポーション系や薬関係は特別な許可が出ないと販売できない物だろ」

「ッ、それは!」

「あー、確か錬金術ギルドの許可がないと売れないアイテムもあったッスね」


 そうそう。

 アクアが錬金術ギルドの規定を知っていたのにも驚いたが、今はディアの反応に集中していく。

 すると彼女は少し取り乱すが、息を整えながら言葉を返してきた。


「た、確かにワシは市場で薬関係を堂々と売っているが、錬金術ギルドから許可が出れば関係ないじゃろ」

「まあ、君のいう意見は間違ってないな」

「そうじゃろ! これでお主を論破したのじゃ」


 勝ち誇った顔で店員さんが運んできたアツアツのコーヒーを一気飲みしたディア。

 ゲームの彼女は猫舌なので、予想通り悲鳴を上げながらぬるい水を飲み始めた。


「うーん、でも何で貴女はウチの事をと知っていたんスか?」

「……あ」

「聖女なのはともかく、を知っているのは王侯貴族以外はあまりいないはずッスよ」

「し、しまったのじゃ!」

 

 ふふっ、そこに気づいてくれてよかった。

 確かに俺が言うのもよかったが、真顔のアクアが威圧感をこめて喋る事でディアを追い込める。

 そのため、さっきまで余裕だった彼女はいきなりアタフタし始めた。


「王侯貴族の関係者が、護衛も付けずに平民街の市場で商売しているのは流石におかしいッスよね」

「わ、ワシが貧乏貴族の可能性もあるじゃろ」

「じゃあ、わざわざ市場じゃなくて錬金術ギルドで働けばよくないか?」

「ああ……」


 これでチェックメイトかな?

 自分で墓穴を堀ったディアは、自分の敗北を悟ったのか両手を上げた。

 その姿は仮面で顔は見えないが、どこか悔しそうにしているのを感じる。


「ただの一般人じゃないのは認めるが、まだ偽装魔法の件は納得できてないのじゃ」

「あー、そっちは君を誘い出す為に言った嘘だぞ」

「ええ!? ならお主がワシが作ったアイテムを全て購入したのは……」

「すでに負けを認めてたからだな」

「なるほど、それでバルクさんはあの動きをしたんスね」


 ヤレヤレと首を振っているアクアと、かなり驚いているのかディアは口を大きく開けている。

 その姿を見ておもしろおかしく笑っていると、大体納得出来たのかディアがため息を吐く。


「だとすると、を知っておったのかの?」

「まあな。っと、君の名前をここで言ってもいいのか?」

「出来れば移動しもいいかの?」

「その辺は大丈夫ッスよ」


 俺のセリフー!?

 どこか不機嫌そうなアクアが机の下で俺の手を握ってきたので、軽めに握り返しておく。


「ありがとうなのじゃ」

「いやいや、そもそも俺が強引に連れてきたのが悪いんだし」

「全く反省しているように見えないのじゃが?」

「そりゃ悪いな」

「バルクさんには後で埋め合わせしてもらうッス」


 お、お手柔らかにな。

 雰囲気が暗くならないように話していたら、アクアとディアに冷たい視線を向けられた。

 なので俺は改めて気持ちを切り替えた後、お代を払いカフェから出ていくのだった。


 ーー

 

 カフェがあった市場どおりから少し離れた場所にある個室のレストラン。

 ゲームでは重要な会議に使われているらしい所で、俺とアクアは隣同士に座りながら反対の席に座るディアの方に向く。


「それでここなら君の正体……いや、クリムゾン侯爵家の令嬢様のお話を聞けるのかな?」

「そこまで知ってワシに声をかけて来たのか」

「ほんとバルクさんの情報網は広いッスよね」

「まあなー。で、俺の情報は合っているのかな?」

「……正解なのじゃ」


 ディアは渋々とボロフードを外すと、中から真っ赤に燃えそうな濃い赤髪が現れた。

 髪型はロングでフードを外した時、バサァと赤髪が周りに舞い、その姿は不覚にも芸術のように美しく見える。


「美しい赤髪だな」

「ありがとう……。でもこの顔を見ればそう思えないと思うの」

「ッ! その火傷の跡はいったい……」


 白銀の仮面を外すと現れたディアの顔には酷い火傷があり、その痛々しさにアクアすら不安そうに口を手で抑えていた。

 コチラのオロオロした姿に、ディアは諦めたような笑みを浮かべる。


「ワシは妾の子で炎魔法が使えないゴミじゃからこうなったんじゃよ」

「炎魔法が使えないだけでゴミって? それってドユコトなの?」

「おそらくクリムゾン侯爵家は炎魔法が得意な名門貴族で、ディアは使から冷遇されたんだろうな」

「それってウチと似たタイプだけど、おかしくないッスか!」


 おかしいと言えばかなりおかしい。

 その理由の一つに平民の出であるアクアは、聖女という部分を差し引けば属性魔法が使えなくてもそこまで問題はない……。

 ただディアの場合は、魔法系の超名門貴族で炎属性が使えないのはかなりマズイ。


「今のワシはただのディアで、ディアネス・クリムゾンの名前が名乗れないのじゃ」

「ひ、酷い話ッスね」

「いや、無魔で生まれたワシが悪いのじゃよ」


 コイツ人生を諦めてないか?

 モニターで見た事があるディアの諦めた目……。

 ブラック企業で酷使されて、ニートになった俺と同じ目をしている。

 だからだろうか、俺はコイツを救いたくなったのは。


「な、なあ、もしよければウチに来ないか?」

「え? でもワシは無魔で役立たず……」

「ウチも役立たずだったッスけど、バルクさんのお陰で居場所が作れたッス」

「わ、ワシは」


 流石に話を進めすぎたか?

 ここでいい答えが貰えなくても、何回も通えば多少は話が通じるかもしれない。

 なので長期戦覚悟でディアの言葉を待っていると、彼女がいきなりポロポロと涙を流し始めた。


「ほんとうにワシを受けて入れてくれるのかのう?」

「ん? まあ、俺もアクアも弾かれ者だし1人くらい増えても問題ないぞ」

「え、あ、ありがとうなのじゃ!」

「これからよろしくッス!」

「はい!」


 一発でOKをもらえた!!

 ゲームではクソ時間がかかって仲間に出来たのに、リアルではアッサリと味方に出来た。

 その事に喜んでいると、アクアが嬉しそうに笑いながら。


「ちょうどお昼だしたくさん食べるッスよ」

「フフッ、ならワシも負けないのじゃ!」

「おう! お金は気にせず食べてくれ」

「もちろんなのじゃ!」「もちろんッス!」


 新しい仲間であるディア。

 彼女は隠しキャラで最初はそこまで強くないが、能力を解放すれば火力面ではトップクラスになる。

 なので俺はディアのビルドを考えながら、次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打つのだった。

 

 

 

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