第18話・もはやここまで来るとボスがかわいそうに……ならないな!

 リザードランドのボス部屋。

 相手はレアボスのイエローズリザードで、コイツの特徴は通常ボスであるブラウンリザード以上の防御力。

 並の攻撃ではカスダメージしか出ず、チームによっては半壊するレベルの攻撃力もある。

 なので個人的には苦戦する相手……だと思っていたが。


「ギロチンスラッシュとツインターン!」

「パワーストライクにトラブルバスター!」

「グオオオォ!?!?」

「えっ、え? なんかお二人、なんかストレス発散してませんか?」

「当たり前だろ」「当たり前ッス!」


 あんなストレスの塊である主人公チームと出会ったんだぞ。

 本人にこのイライラをぶつけれないから、レアボスをボコボコにする方がいいだろ。

 ムカつく気持ちをスカッとさせるように、俺とアクアは容赦なくレアボスを攻めていく。


「ぐおおぉ!」

「その突進は全反射クロスカウンターでおかえりください!」

「その吹き飛んでいる隙にダブルボルト!!」

「なんか、ここまで一方的だと相手がかわいそうになりますね……」


 全反射クロスカウンターで空中に打ち上げた後、アクアから放たれる魔法の弾丸がレアボスの弱点であるお腹に直撃。

 そのまま相手がひっくり返ったので、俺とアクアは互いに顔を見合わせた後に勢いよく突っ込む。


「コイツで終わりだ!」「これで終わりッス!」

「ぐおおぉ!!」


 一方的な蹂躙。

 レアボスであるイエローズリザードは、俺達のストレス発散の餌食になり紫色の煙になって消えていく。

 そして地面にドロップアイテムがゴロゴロと落ちたので、俺はリーナの方に顔を向ける。


「リーナ、悪いけど拾うのを手伝ってくれるか?」

「は、はい、もちろんです」


 コッチの動きに驚いていたリーナを呼び寄せ。

 地面に落ちたドロップアイテムを急いで拾っていく。

 するとボス部屋の外で待っている主人公勢から、驚いたような声が聞こえてくる。


「あ、アイツら、ボスを一方的に倒したぞ」

「まさかあんな実力を隠し持っていたとは思ってなかったです」

「だな……。でもオレはバルクのやつがむかつくぜ」

「私も同感ですが、それ以上に落ちこぼれ聖女のアクア様が調子に乗っているのも腹が立ちます!」


 こりゃなかなかめんどい展開だな。

 思った以上にヘイトを持たれているので、俺は思わずため息を吐くとニッコリと笑う2人が近づいてきた。


「バルクさん、ドロップアイテムは集め終わったッスよ」

「私も見える範囲は終わりました」

「2人ともお疲れさん」

「はいッス!」「ありがとうございます!」


 目をトロンとさせている2人が擦り寄ってくるが。

 今はアイツらの目があるので、手を前に出しながらストップをかける。

 

「と、とりあえずアイツらの視線もあるし移動しよう」

「ぶぅ……。もっと甘えたいッス」

「我慢してくれるとありがたい」

「私は甘えても大丈夫ですか?」

「今はダメに決まっているだろ!?」「ダメに決まっているッスよ!?」


 こ、コイツ……。

 リーナがポンコツなのは理解していたが、思わず2人がかりで突っ込んでしまった。

 その時にリーナが涙目になったので、俺は仕方ないと思い2人を呼び寄せる。


「手を繋いでボス部屋を出るくらいならいいか」

「ッ、はいッス!」「は、はい!」


 過度なスキンシップは厳禁だが、それだと2人のストレスもやばそう。

 なので妥協が出来る範囲を見極めつつ、俺達は手を繋ぎながらボス部屋から出ていくのだった。


 ーー


 ボス部屋から出た後。

 お付きの騎士達に守られながら、アルスとシャインはかなり不機嫌そうにコチラを睨みつけてきた。

 その視線はまるで親を殺された敵みたいな感じで、思った以上にヘイトを稼いだ気がする。


「僕達の要件は終わったので帰りますね」

「ッ、待てよ!」

「えっと? なぜ邪魔をしてくるのですかね」

「この状況でシラを切るつもりでしょうか?」


 うわぁ、だいぶイラッときてそうだな。

 向こうの2人は散々見下していた俺達がレアボスを倒した。

 その結果のせいでかなりイラッとしているのか、今のアルスとシャインへは怒りのボルテージが上がってそうだな。


「シラなんて切ってないですよね」

「うス! てか、ウチには何のことかわからないッスよ」

「こ、コイツら……! オレ達が言いたいのはどんなトリックを使ってレアボスを倒したかだ!」

トラップは使ってないですが?」

「トラップじゃない、トリックですわ!」


 少しボケただけなのに大声で怒鳴らなくてもよくない?

 怒りに燃えた瞳でコチラを見てくるアルス達、コイツらをおちょくるのは楽しいけどこれ以上はやめとくか。


「ほうほう。それでお二人は僕達の戦いがトリックに見えたのですね」

「レアボスの巨体を軽く吹き飛ばしたり、一方的に倒すなんておかしいだろ!」

「凄腕の騎士や魔術師達ならともかく、無能貴族と落ちこぼれ聖女が出来る事ではないと思います」


 ギャンギャンうるさいな。

 このままヒステリックにぶつけられるのは、さらにムカつくが。

 真面目に返しても八つ当たりされるくらいなら、ここを去った方が良さそうだな。


「別にどっちでもいいですが、姫様達はボスに挑まないんですか?」

「露骨に話を逸らしやがったな!」

「別に、いい加減八つ当たりをされるのが嫌になっただけですよ」

「さっきから私達のせいにしてないですか?」

「そもそも突っかかってきたのはソチラッスよね」


 わあぁ、それを言うか。

 流石に疲れたのか、アクアが心底めんどそうな表情でため息を吐く。

 すると怒りのボルテージが上がっていた2人、特にアルスが俺の方に指を刺してきた。


「ここでお前を叩き潰せないなら二ヶ月後にある魔法武闘まほうぶとう大会で勝負だ!」

「俺に参加する理由はないし、出禁なのに出たくないですが?」

「はっ、オレに負けるのが怖いのかよ!」


 まあ、バルクを死に追いやるお前は怖くはあるが。

 別に否定はせずに呆れていると、俺の右手を握っているアクアがニヤッと笑いながら言葉を返す。


「バルクさんが参加してもいいッスけどソッチが負けたらどうするッスか?」

「あらあら? 私達に勝てる方法でもあるのですね」

「そうではなく、ソッチが負けたらどうすると聞いているだけッスよ」

「万が一オレ達が負けたらお前らの願いを何でも聞いてやるぜ」


 ほうほう、言質はとったぞ。

 でも今の状況だとはぐらかされる可能性が高いので、後で対策を考えた方が良さそうだな。

 そう思いながら色々考えていると、悪役レベルの笑みを浮かべたアクアが一つ頷く。


「魔法武闘大会が楽しみッスね」

「チッ、気持ち悪いな」


 心底吐きそうな顔をしているアルス。

 コイツがゲームの男主人公なのかと疑うが、表向きはそう見えるので一旦流しておく。


「さてと、俺達の用事は終わったから去らせていただきますね」

「え、ええ、ごきげんよう」

「はい、お疲れ様ですー」


 とりあえず下準備は進んだが。

 原作主人公一団が見えなくなったタイミングで、自分の体が震えてきてしまう。


「ば、バルクさん、ありがとうッス」

「いや、俺こそ」


 アクアもガクガクと震えているのか、半泣きで俺に抱きついてくる。

 なので俺達はリーナさんに護衛を任せ、震えが止まるまで抱き合うのだった。

 


 



 

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