第17話・なんでバルク(俺)をどん底に突き落とす男主人公と回復の聖女が現れるんだよ!?
リザードランドのボス部屋前にある空間。
ゲームでは安全地帯として使われていた場所だが、今は安全どころか冷や汗ダラダラの空気感になっていた。
「ん? あ、落ちこぼれ聖女のアクアさんがこんなところに」
「へあっ!? な、なんで回復の聖女様がここにいるんスか?」
「そんなの見ればわかると思いますが」
回復の聖女、シャイン・ロンネール。
ロンネール王国を統治するロンネール王家の第3王女。
表向きの性格は包容力があり美しいが、実際は無自覚に他人を見下すクズ王女。
ただゲームでは回復という能力や、主人公へは優しいので特別感があり、人気投票では常に上位になった存在。
「2人は知り合い、って確か補助の聖女様だったよな」
「そうッスけど貴方は確か……」
「あ、オレはアルス・ファンタジア、騎士爵家の出て今はシャイン様の護衛騎士をやっている」
「祝福契約の場でみていたッス」
若干暑苦しい挨拶に正義感が溢れる姿。
デフォルトの主人公に似つかわしいカラッとした挨拶に、俺は虫唾が走りながら目を逸らす。
すると俺の姿に気づいたのか、回復の聖女様がコチラにネットリとした視線を飛ばしてきた。
「それでアクア様の隣にいる銀髪の殿方はどちら様ですか?」
「えっと、バルクさんッス」
「バルク……もしや、貴族社会から出禁にされた方でしょうか?」
「ええ、本人ですよ」
「ッ!?」「なっ!?」
ここは素直に言った方がいいな。
てかいちいちムカつく言い方をされたので内心で腹が立つが、相手が相手なのでクールダウンしながら言葉を返す。
「お久しぶりですお二方……。四年前の王家主催のパーティで大問題を引き起こして出禁を受けたバルク・カーマセルです」
「な、なぜ貴方がここにおられるのですか?」
「そんなの考えなくてもわかる事ですよね」
「ッ!」
さっきのお返しだ。
俺は下手に出ながら、回復の聖女様ことシャインがアクアに言ったセリフをそのまま返す。
すると彼女の隣にいたアルスが腰から剣を引き抜き、鋭い目で俺を睨みつけてきた。
「お前は
「おや? 僕はただ先程シャイン様が言った言葉をそのまま返答しただけですが?」
「ッ、キサマ!」
「おっと、ダンジョン内で攻撃をされるのですか?」
いやー、男主人公ことアルス君の沸点は低くないですかね。
自分の性格が悪いのはわかるが、アルスは目に闘志を宿らせシャインを守るように前に出た。
もちろん取り巻きの騎士達も動いており、普通に考えればコチラが不利な状況だが。
「ダンジョンでの人殺しは御法度。それなのにあなた方はルールを破って僕を殺すのですかね」
「はっ! 出禁を受けた無能貴族が調子に乗るなよ」
「別に調子は乗ってませんが? てか、言葉のやり取りで剣を抜くのは負けを認めたのですね」
「さっきからペラペラと!」
うわあ、煽るの楽しい!
思った以上に沸点が低いアルス君で遊んでいると、守られる側のシャインの目が光った。
「さっきから羽虫がうるさいですね」
「どうも羽虫です」
「ッ! 貴方には貴族のとしての責務やプライドはないのですか?」
「全くないとは言いませんが無駄な喧嘩は買いたくありませんので」
「そ、そうですか……」
今のコイツらとやり合うのは悪手。
なので適当に返答して離れるのが一番いいが、俺の隣にいたアクアがギリギリを歯を慣らしながら叫んだ。
「さ、さっきから聞いていればバルクさんをバカにしているッスよね」
「今は抑えてくれアクア!」
「で、でも、ウチは……」
「あら? もしかして役立たずのゴミ聖女様と無能貴族が傷を舐め合ってるのですか?」
このままだとアクアが爆発しそうだな。
コチラをハラハラとした視線で見てくるリーナと、今にも魔法銃の引き金を引きそうになっているアクア。
この状況で1番の打開策は……そうだ!
「なあアクア。俺達がここにきたのはボスを討伐する為だよな」
「ば、バルクさん? いきなり何を言っているんスか?」
「いや? 単純に
「え、でも? あ、なるほど、ソユコトっスね」
よしアクアにコチラの伝えたいことが伝わった。
俺はニヤッといやらしい笑みを浮かべると、アクアはコチラ以上の極悪そうな笑みに。
いや、曲がりなりにもメインヒロインがする顔芸じゃないぞ……。
「コイツら何をする気だ?」
「いや別に、僕達はボスを倒すのが目的なので要件を済ませて帰りたいだけです」
「あら? 貴方の憧れである私が気にならないのですか?」
「昔は憧れてましたが今は何も思ってないです」
「なっ……」
いやだって、ゲームの時からシャインはあまり好きじゃないからな。
内心でそう思いながら、俺達3人は硬直するシャイン一行を放置して改めてボス部屋の中に入っていく。
「本当にコレでよかったんスか?」
「別に? てか、俺達は何も問題を起こしてないからな」
「確かにそうですね!」
しれっとコチラについてきたリーナ。
彼女も思うところがあるのか、怒りがこもった鋭い視線を浮かべた。
まあ、気持ちはわかるので俺も一つ頷きながら2人に指示を出す。
「俺が前衛でアクアは中衛から後衛。リーナは収納鞄を背負いながら自衛してくれ」
「了解!」「ハッ!」
ぶっちゃけ一回倒せば終わる。
さっきまで十周以上していたのでグラントリザードなら倒せるが……。
中央の光から現れたのは、グランドリザードよりも一回り大きな黄色い鱗を持つトカゲ。
「おいおい、このタイミングでレアボスを引き当てるのかよ」
今回出てきたのはレアボスのイエローズリザード。
タイミング的には予想外だが、ゲームでは何回も倒した事があるレアボス。
なので美味しい経験値と思いながら、俺は腰から空月のツルキを引き抜き、アクアとリーナと共に戦闘体勢に入るのだった。
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