第16話・アクアが魔法銃を持ち始めたら、ボス相手に無双し始めたのだが?

 ファントム・ライフルを手に入れた補助の聖女、アクア・ハルカナは今……。

 ノリノリで引き金を引いてグランド・リザードを一方的に撃ち倒していた。


「え、えっと、思っていた以上に強くね?」

「アクア様は教会でも冷遇されてましたが、今のお姿を見ると上の方々は目が点になりそうです」

「だ、だよな……」


 バンバンッと引き金を引き、ボスにトドメを刺すアクア。

 昼休憩を挟んだ後に魔法銃の練習はしたけど、このまま上手く扱えるようになるとは思わなかった。

 

「ふう、倒し終わったッスよバルクさん」

「お、おう。お疲れさん」

「フフッ、ありがとうッス。あ、アンタはドロップアイテムを拾っておいてくださいッス」

「は、ハッ! わかりました」


 10匹目のグランドリザードが紫色の煙になって消え、ボロボロとドロップアイテムが地面に落ち。

 今までのうっぷんを晴らせたのか、アクアはピョンピョンと飛び跳ねながらコチラに近づいてきた。


「なあアクア、その魔法銃の使い勝手はどうだ?」

「これなら教皇の股間を撃ち抜けるくらい使いやすいッス!」

「股間は撃ち抜くなよ……」


 教皇の股間を撃ち抜くとか考えるとやばい。

 というか、男性の股間を撃ち抜くアクアを考えるとホラー味が……。

 内心でガクガク震えていると、無邪気に笑うアクアを受け止めながら頭を撫でていく。


「お、お二人とも、ドロップアイテムは集め終わりましたよ」

「ああ、ありがとう」

「い、いえ! バルク様もお疲れ様です」


 さっき回復ポーションを渡したからリーナにも懐かれたような?

 アクアがいる前では怯えているが、覆面を外したリーナの耳がピクピクしているので。


「な、なあアクア、リーナもシートに座ってもらうくらいはよくないか?」

「あんなやつは下僕扱いがちょうどいいッスよ」

「お前の気持ちもわかるけど長く働かせるなら休憩も必要だろ」

「そ、それは……もう、バルクさんの頼みなら仕方ないッスね」

「お、おう、助かる」


 交渉が通じてよかった。

 働きすぎてフラフラになっているリーナさんを手招きして、冷たい水が入った水筒を渡す。

 すると彼女は目をキラキラと輝かせながら一礼し、勢いよく飲み始めた。


「バルク様ありがとうございます!」

「そんなに泣かなくてもいいぞ」

「は、はい! あ、出来ればお腹が空いたのでパンを食べてもいいでしょうか?」

「残り物なら問題ないよ」

「ううっ、はい!」


 ガチ泣きしてない?

 リーナの見た目は黒髪ショートカットで身長は高めの少女。

 整った顔立ちをしており、元の世界ではモテそうな雰囲気をしている。


「バルクさん、もしかして下僕に惚れたッスか?」

「確かにリーナは美少女だと思うけど、俺はアクアよりだぞ」

「それならよかったッス!」

「え、え、私が美少女ですか!?」


 あらー、なんか新しい魚が釣れたような?

 ガツガツと堅焼きパンを食べているリーナは、美少女と聞いてすごい速さでコチラに振り向いた。

 こ、コイツ、予想はしていたが残念系だな!?


「なんで食いついて来るんだよ!? てかアクアさん、目が怖いんで落ち着いてくれますか?」

「ウチに落ち着いて欲しいならバルクさんが取る行動は一つッスよね」

「ま、周りにモンスターもいないから大丈夫だぞ」

「はいッス!」


 抱きつくアクアを撫で続けているから腕がきついが仕方ない。

 俺は苦笑いでシートの上に座り直し、ニッコリと笑うアクアを膝の上に乗せる。


「むふぅ! これこれッス!」

「……いいなぁ」

「お、おう。てかリーナは俺達を監視しなくてもいいのか?」

「既にバレているのに隠れて監視はしないですよ!」

「コイツもコイツで開き直っている!?」


 しかもシレッと俺の背後に回ってない。

 というか、クビに手を回されて抱きつかれたので膝の上にいるアクアが一気に不機嫌になる。


「なんで今日出会った下僕がバルクさんに懐いているんスか?」

「え、えっと? お兄ちゃんみたいで甘えたくなりました」

「……お嫁さんとかじゃないッスよね」

「も、もちろんです!」


 ダンジョンに潜ったら義妹が出来た件。

 そんなタイトルが頭に浮かぶ中、俺は苦笑いで2人の面倒を見ていく。

 

「こうやって平和な時間が続けばいいな」

「そうッスね……」


 今は10月の半ばで王都にある戦闘学園へ入学するまでは五ヶ月程あるが。

 ゲームのでは戦闘学園に入学した直後に、バルクが主人公達にちょっかいをかけて最終的には決闘まで持ち込み。

 そのままボロ負けして学園や実家から追放、おまけ程度で魔物に殺されたと文字で出てくるだけの存在。

 

「絶対に生き残ってやる」


 ビクビクと震える手でアクアの頭を撫でる。

 すると彼女は俺の手を包み込むように握った後、優しい声を発し始めた。


「バルクさんが何を怖がっているかはわからないッスけど、ウチも一緒に戦うッスよ」

「え、でも……」

「それが相棒ってもんス!」

「あのー、私も忘れないでくださいねお兄様」

「お前を義妹にしたつもりはないが、2人ともありがとう!」


 今の俺は1人じゃない。

 そう思いながら気持ちを落ち着けた時。

 ボス部屋とは反対の出入り口に繋がる道から、金属音とブラウンリザードの断末魔が聞こえてきた。


「誰か来たし一旦離れてくれるか?」

「もう少し堪能したかったッスけど仕方ないッスね」

「私もです」


 名残惜しそうに離れるなよ。

 冷静に突っ込む中、俺達はシートやドロップアイテムを収納鞄に放り込む。

 そして準備が整ったのですれ違う一団と……え、なんでアイツらがいるんだ!?


「流石アルス様、この辺のモンスターを軽々と倒されますね」

「ははっ、ありがとう! ただ、シャインの回復魔法もすごくありがたいぜ」

「そう言っていただきありがとうございます」

「お二人とも、この先はボス部屋なのでお気を付けてください」

「もちろん!」「はい」


 コチラに向かってくる一団。

 白銀の鎧にフルフェイスの兜を被った3人はおいといて残りの2人。

 黒髪黒目に特徴のないフツメンフェイス、身長も普通で中肉中背の姿は親の顔ほど見た事があるゲームの男主人公……アルス・ファンタジア。

 

「な、なんでアイツが……」「なんでアイツがいるんスか!?」


 もう1人のクリームよりの金髪ロングで巨乳の美少女。

 見た目は丸顔よりで目つきもトロンとしているが、意志の強い感じがする王道の聖女様……シャイン・ロンネール第三王女。

 プレイ動画では何度もみた事がある組み合わせを見つけ、俺とアクアは別の意味で固まってしまうのだった。

 

 

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