第13話・ドンマイ偵察係さん、俺は見て見ぬふりでボスと戦うよ

 教会所属の偵察係。

 ゲームでは聖女の動きを教会に伝える存在で、ストーリーでは脇役キャラであまり目立たない存在。

 というか、偵察係はコマンドで話せるだけで戦闘になったりもしなかったので影が薄い……のだが。

 今の状況でコイツらに秘密を話すと、何かアクションがあるのは確定なので別の話にズラす。


「それで偵察係さんは何か気になる事でもあるのか?」

「いやいや!? 聖女様に押し倒されながらなんでカッコつけられるんです?」

「大丈夫、無駄にカッコつけているだけで実際はダサく感じているからな」

「ならウチがもっと強く抱きついても関係ないッスね」

「だ、ダンジョン内でラブラブしないでくださいよ!」


 ごもっとも!

 偵察係さんの突っ込みに頷きたくなったが、地面に押し倒されたままなので動けない。

 なので俺は少し悩んだ後、良さそうな言葉が浮かんだので返答する。


「それでデカケツさん」

「デカケツって私の事ですか!?」

「そうそう」

「た、確かにお尻は大きいですが私にはリーナという名前がありますよ!」

「あ、はい」


 こ、こいつ、自分で名前を名乗りやがったぞ。

 偵察係としてはアホだと感じていると、彼女の後ろから忍び寄る存在が……。

 その事にアクアも気づいたのか、俺の上から離れてくれた。


「え? なんでいきなり抱きつくのやめたんですか?」

「まさか気づいてないンスね」

「えっと? きゃあぁ!?」

「アイツ本当に大丈夫か?」


 偵察係のリーナ。

 彼女の後ろからしれっと近づいてきたブラウンリザードが、安産型のお尻に勢いよく噛みついた。

 そのせいでリーナは悲鳴を上げながら前のめりにずっこけた。


「た、助けてくださいー!?」

「いやッス」

「ええ!? 見捨てないでくださいよ聖女様!!」

「いやだって、ウチは教会にいい思いがないッスからね」

「そ、そんな!? きやあぁ!?」


 リーナのお尻が大変なことなっている中。

 アクアは底冷えする視線を彼女に向けながら、腰にぶら下がっているメイスを引き抜く。


「バルクさん、このまま彼女を放置してボス部屋に行きましょう!」

「うーん、それもいいんだけど個人的には助けたいな」

「……もしかして彼女に惚れたんスか?」

「いやいや!? そうじゃなくて!」


 その冷たい瞳をコチラに向けてこないで……。

 絶対零度に近い凍えた瞳を浮かべるアクア、その姿にビビりながら俺は表向きはマトモっぽい意見を並べる。


「ここでアイツを放置すると教会側に何を伝えられるかわからないだろ」

「それならアイツを殺すッスか?」

「なんでそうなる!?」

「ひいいぃ!? お許しを聖女様ー!」


 トントンとメイス片手に近づくアクア。

 彼女の瞳は絶対零度から人殺しの鋭い視線になり。

 お尻をブラウンリザードに噛まれたまま、動けないリーナは涙を流しながらガクガク震えていた。

 なんか、流石にかわいそうになるのは気のせいか?


「とりあえず話が進まないからモンスターを倒すか……」

「仕方ないッスね」

「あ、ありがとうございます!」


 えっと、アイアンソードを引き抜いてっと。

 アクアに荷物を任せた後、岩陰近くにいるリーナのお尻に噛みついているブラウンリザード。

 コイツを取り除く為、俺は苦笑いでアイアンソートを使って対処していく。


 ーー

 

 ブラウンリザードにお尻を噛みつかれていたリーナ。

 彼女は回復ポーションを使って手当てをしたが、それでも涙目でお尻をさすっていた。


「ひうぅ、い、痛かったです」

「そうッスか?」

「せ、聖女様の目が冷たい!?」

「ウチらのラブラブを邪魔した挙句にバルクさんの手を煩わせたッスよね」

「ひいいいいぁ!? ご、ごめんなさい!!」


 ヤベェよ、ブラウンリザードどころかボスが逃げ出すレベルの威圧感を放ってない?

 アクアの威圧に岩肌の上で正座しているリーナさんは、俺の方に助けを求める視線を向けてくる。

 ただ俺にもどうにもならないので、彼女には申し訳ないが首を横に振る。


「とりあえず俺はボスを倒してくるし、コイツの拷問はアクアに任せる」

「わかったッス!」

「え、あの? そこは聞き取りとかじゃないのですか?」

「……アクアの目を見てみろ」

「あ、え」


 いやだってメイス片手にニッコリと笑みを浮かべているんだもん。

 アクアの威圧感がさらに強くなる中、俺は冷や汗を流しながら言葉を選ぶ。


「そんなわけでアクアには荷物番とリーナへの拷問を頼んだ!」

「はーい、頑張ってきてくださいッス!」

「ま、まって!? きゃああ、お、お尻〜!?」


 ずるっとズボンとかが下げられた音と、大きな破裂音が周りに響く。

 その音を聞きながら、俺は内心でビビりながらボス部屋に朝を踏み入れる。


「と、とりあえず時間をかけてボスを倒しますか」


 簡単に倒せるボスではないが、偶然でも早く倒すとやばいことになる。

 俺はすでに引き抜いていたアイアンソードを力強く握り、中央の青い光が集まる場所から現れるボスモンスター。


「今回はレアボスではないみたいだな」


 現れたのはかなり硬そうな茶色い鱗を持つグランドリザード。

 コイツの大きさは前に出会ったレッドホットキャタピラと同じくらい……コンビニレベルのサイズ。


「クオオォ!」

「さ、さあ、楽しませてもらうぞ」


 何かを連続で叩く音とリーナさんの悲鳴を尻目に、俺はグランドリザードに向かって勢いよく駆けていくのだった。

 

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