第12話・やっぱりいたかストーカー(教会関係者)が!

 リザードランド内を進み、目的地であるボス部屋に到着したのだが……。

 ゴツゴツとした岩肌に足場の悪い地面、結界の外から見ても戦いにくいフィールドに見えてしまう。


「こりゃ一筋縄では行かなさそうだな」

「逆にゴブリンリーダー相手にソロ狩りをしていたのがおかしいんスよ」

「ははっ、確かにそれを言われると弱い」


 そもそもダンジョンを潜るなら4人チームの方が効率がいい。

 ただ俺の場合は冒険者ギルドで問題を起こし、貴族社会で出禁を喰らっているカマセ犬キャラの俺。

 つまり全くツテがないので、アクアと2人でダンジョンアタックをしている。


「バルクさんの知り合いがいないのは知っていたッスけど……」

「あ、おま、それを言ったらお前も知り合いがいないだろ!」

「確かにそうッスけど!」

「開き直りやがった!?」


 こ、こいつ!?

 ゲームでは護衛騎士として主人公がいるが、一応従者とかいたよな?

 でもウチに来たアクアの従者は、凍える視線を浮かべながら速攻で帰ったぞ。


「ウチは孤児院出身だから扱いが雑なんスよ」

「お、おおう……。 ん? そうなるとウチにどうやって来たんだ?」

「フフッ、気になるッスか?」

「い、いや? ふと思っただけ」


 すげぇ、重いわ!

 ハイライトオフにはなってないけど、なぜか威圧感がすごい。

 少し離れたところにいるブラウンリザードが、脱皮のごとく逃げ始めた!?


「「「ぐううぅ!?!?」」」

「これで先に進めるッスね」

「あ、うん。とりあえず先に進むか?」

「はいッス!」


 もしかしてデフォで威圧のスキルがあるのか?

 使用者よりもレベルが低い場合にモンスターが怯むスキルが威圧なのだが、脇見を見ずに逃げるほどではなかったはず。

 ニコニコと嬉しそうにしているアクアを尻目に、俺は苦笑いを浮かべながら奥に進んでいくのだった。


 ーー


 アクアの威圧スキル(?)のお陰でモブのエンカウントがほぼゼロ。

 そのままボス部屋に到着したので、俺とアクアは地面にシートを引き上に座る。


「このダンジョンは雑魚敵があんまり現れないんスね」

「い、いや? ちょくちょく離れたところで怯えていたぞ」

「ほへっ? なら襲ってこないのは何故ッスか?」

「……さ、さあ? モンスター側にも何かあるんだろ」

「そうなんスね」


 アクアの威圧が怖くて近づいてこなかった。

 本音を言えば突っ込みたいが、目が笑ってないアクアに伝えたくない。

 というか、後が怖いので俺はヒヤヒヤしながら話す内容を変えていく。


「お、おう。あ、アクアはここのボスを知っているか?」

「全く知らないッス!」

「自信満々に言いやがった!?」


 こ、コイツ、ボスを知らないのにめっちゃいい笑顔で頷きやがったぞ!?

 しかも甘えるように腕に抱きついてきたから、彼女の大きな胸が……。


「あー、なんかエッチな事を考えているッスね!」

「い、いや? それよりもボスの説明はいるか?」

「もちろん聞くッスけど逃がさないッスよ」

「あ、はい」


 耳元で呟かれる甘い声。

 本来のアクアはメスガキだから内心で喜んでそうだが、無職童貞の俺には効果抜群。

 このままだと、いやらしい笑みを浮かべているアクアのペースに引っ張られるので鉄の意志で冷静を保つ。


「お、オホン! それでボスの名前だけど通常はグランドリザードだ」

「ほうほう。で、そのボスはどんな感じなんスか?」

「雑魚モンスターのブラウンリザードが大きくなった感じで、岩のように硬い鱗が特徴だな」

「えっと? それってウチらの攻撃は通るんスかね」


 一応通るはず……。

 ゲームの時と同じ弱点をグランドリザードが持っていれば楽に倒せるが、今はリアルなのでわからない。

 アクアの突っ込みに冷たい汗がツーと流れるけど、深く気にせずに続きを話す。


「と、とりあえず、物理攻撃よりも補助や強化をしてから殴る方で頼む」

「それって手加減せずにやった方がいいッスよね」

「まあ、魔力消費は気にしなくても大丈夫」

「了解ッス!」


 今回の目的はボス部屋の奥にある隠しエリア。

 そこに欲しい武器やアイテムがあるはずなので、俺はボス部屋の奥にある岩壁を見つめる。


「問題は今の俺で壁を破壊できるかだな……」

「壁ッスか?」

「ん? 独り言だから気にしないでくれ」

「わかったッス。ただ、もう少しウチに何をするか教えて欲しいんスけど?」

「え、あ? うぉっ!?」


 こ、こいつ、自分に補助魔法をフルでかけやがったな!?

 補助と強化をフルで使ったアクアに力強くシートの上に押し倒される。

 その時に俺は見上げるようにアクアを見ると、彼女は不安そうに目をウルウルさせていた。


「バルクさんがウチの為に色々動いているのは知っているッスが、もう少し秘密を教えて欲しいッス!」

「そ、それは……」

「ここなら誰も聞いてないし、バルクさんの秘密を知りたいッス!」


 この三ヶ月で何か気づかれていたみたいだな。

 ただ今の状況で話すのは危険なので、俺はズキッと頭が痛くなりながら涙目のアクアの方に視線を向け続ける。


「悪いが秘密は話せない」

「それってウチがバルクさんからの信用がないからッスか?」

「いや? 俺が言いたいのは……」


 さっきから変な視線を感じているんだよ。

 俺は気になっていること、その事を言うためにアクアに倒されたまま視線を違う場所に向ける。

 そこは表向きは何も見えないが、ガサリと音がしたのでビンゴと思いながら口を開く。


「そろそろ出てきた方がいいんじゃないのか追跡者さん?」

「へ? 追跡者って?」

「ッ! な、なぜ私に気づいたのですか!?」

「そんなの答えるわけないだろ」


 岩陰から現れた黒装束の相手。

 全身真っ黒で顔も隠れているからわからないが、声質と体つき的になんのキャラかがわかる。

 俺は驚いたアクアに抱きつかれたまま、意外とアッサリと出てきた黒装束の彼女に突っ込む。


「それで教会所属の偵察係さんが落ちこぼれ聖女&無能貴族になんの用だ?」

「なぜ私の正体を知っているですか!」

「さあな? まあ、別の情報源があるとだけ伝えておくよ」

「き、聞いていた情報と違いすぎる……」

「バルクさんはバルクさんッスよ!」


 あのー、豊満な胸が俺の胸板に潰されてグニャと言ったんだけど?

 てか俺の上にアクアがのしかかっている状態で話す内容じゃないよね……。

 真面目な雰囲気なのにどこかズレている中、俺は気持ちを切り替えながら言葉を続けていくのだった。

 

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