第11話・ヤンデレ聖女様と行く新ダンジョンの旅

 補助の聖女、アクア・ハルカナが我がカーマセル伯爵家に住み込んで約3ヶ月。

 最初はどうなるか心配だったが、教会側の許可が出たのか彼女は嬉しそうな笑みを浮かべた。

 ……違う意味で心配な事が起きまくったが。


「な、なあ、なんで毎日のように俺のベッドに潜り込むんだ?」

「もしかして邪魔だったッスか?」

「い、いや? 邪魔というよりも家族以外の男女が一緒の寝所にいるのは……」

「ウチらは相棒ッスから大丈夫」

「え、は、はい」


 護衛騎士ではなく相棒。

 アクアからこの呼び方をされるのはありがたいが、ハイライトオフの目で見つめられるのは怖い。

 なので冷や汗を流しつつ、ニッコリと笑う彼女と共に朝ごはんを食べていく。


「それで今日はどうするんスか?」

「うーん、出来れば別のダンジョンに潜りたいところだな」

「いつも行っているゴブリンの巣窟とは別ッスよね」

「そうそう」


 今日行きたいダンジョン・リザードランド。

 このダンジョンはゲーム序盤の中では厄介な分類に入るが、隠し部屋に特殊な武器があるので狙いたい。

 なのでコテンと首を傾けているアクアに向け、テンションを上げるように言葉を返す。


「てか、流石にゴブリンの巣窟は飽きてきただろ」

「そりゃ3ヶ月もゴブリンの顔は嫌でも覚えるッス!」

「まあな! てなわけで準備を整えて出発するぞ」

「うす!」

  

 欲しい武器が眠っているかはわからない。

 ただ3人いる聖女の中で一番魔力MPが高いアクアとの相性が神レベルの装備。

 それを求めるように俺とアクアは準備を整えた後、目的地であるリザードランドに向かい始めた。


 ーー


 下級ダンジョン・リザードランド。

 ゲーム時の適正レベルは15〜18で、ゴブリンの巣窟よりも5レベル以上高い。

 

「この洞窟がバルクさんの目当てであるリザードランドッスか?」

「地図ではそうなっているから多分な」

「あ、あいまいッスね」

「ごめん……」


 本来は冒険者ギルドで情報集めをしたかったが、前にあった乱闘騒動のせいで顔出しがやりにくい。

 なので図書館で大まかには調べ、なんとかリザードランドと名前が書かれた看板を見つけた。


「あ、合っているッスね」

「よかった。でだ、なんで俺の腕に抱きついているんだ?」

「別にいいじゃないッスか」

「いやいや!? 今からダンジョンに入るんだけど無防備すぎないか!」

「少しだけだから大丈夫ッスー」


 ほ、ほんとにか?

 というか、アクアがウチの居候になってから、ボディタッチどころか寝床に凸って来ているんだよな。

 そのせいでたまに寝不足になるが、禁止するとコイツ目がハイライトオフになるから怖い。


「はぁ、少しだけだぞ」

「フフッ、わかったッス」


 ダンジョンに潜る前に疲れるんだけど?

 ただコイツに突っ込んでも仕方ないので、リザードランドの出入り口まで腕を握られるのだった。


 〜リザードランドへ突入〜


 始まりの草原やゴブリンの巣窟とは別タイプのダンジョン。

 フィールドはゴツゴツとした岩肌が目立ち、山岳地帯みたいな姿をしている。


「コッチのダンジョンは明るいんスね」

「確かにコレなら松明とか必要なさそうだな」

「ッス」


 用意したアイテムの一部が無駄になるが、嬉しい誤算ではある。

 内心でホッと息を吐いていると、少し離れた岩陰でゴソゴソと何かが動く影を見つけた。


「ぐうぅ!!」

「な、なんか茶色いのが出てきたッスよ」

「アイツがブラウンリザード、このダンジョンに生息するモンスター」

「それはわかるけど目つきが悪いッス!」


 そりゃ俺も思う。

 ゲームの時は序盤の金策をする為にコイツを狩り倒したが……。

 リアルで見るとザラザラとしてそうな皮に、目つきが悪い1メートルくらいのトカゲだな。


「グウゥゥ!!」

「ハァ、戦闘に入るぞ!」

「はいッス!」


 まずはどれだけ戦えるか。

 はぐれのブラウンリザードが、舌なめずりをしなからドスドスと勢いよく突進を仕掛けてきた。

 なので俺はアイアンソードを引き抜き、突っ込んで来る相手に斬りかかる。


「ハアァ!!」

「ギャウッ!?」

「おお! 流石バルクさんッス!」


 なんか思った以上に刃が入ってない?

 コチラは序盤武器のアイアンソードで、特に補助ももらってないのに一撃でブラウンリザードが沈んだ。

 というか、もう少し苦戦すると思っていたんだけどな……。


「マジでドユコトだ?」

「ん? 何か気になるんスか」

「いや、なんでもない」


 俺が知っている情報とズレているのか?

 確かに細かいところではゲーム情報とズレているが、大枠は外れてない。

 内心でモヤモヤとしていると、頭をコテンと傾けたアクアが俺の顔を覗くように見て来た。


「何を考えているか聞いてもいいッスかね」

「別に話すほどじゃないから大丈夫だ」

「ほんとッスか? まあ、本当に気になったら無理矢理にでも聞き出すッスよ」

「お、おう……。その時がない事を願っとく」


 なんでコイツはヤンデレキャラになっているんだよ。

 ハイライトオフではない笑顔だが、どこか怖い表情。

 俺の背中が冷や汗ダラダラになりながら、地面に落ちたドロップアイテムを拾っていく。

 

「隠し武器を狙って来たのに違う意味で精神を使っている気がする……」


 ゲームのアクアは魔力量がNo.1だけど属性魔法が使えないキャラ。

 そのせいで不遇扱いされていたが、そんなアクアにピッタリ合う装備とビルドが開拓された。

 俺はその記憶を整理しつつ、不機嫌そう頬をプクゥと膨らませているアクアの機嫌取りを始めるのだった。

 

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