第10話・落ちこぼれで独りぼっちだったウチが本当の意味で対等に話せて愛せる人を見つけた

〈アクア視点〉

 


 孤児院に住んでいたウチは、聖女の祝福を受けて聖女として教会に所属する事になった。

 最初は聖女は煌びやかな生活に特殊な能力を持っている……ウチみたいな孤児でも成り上がれる。

 そう思っていたけど、実際はウチが考えているほど単純じゃなかった。


「聖女の教育を施されている割に無能ですわね」

「ッ! 申し訳ありません」

「その言葉は聞き飽きました!」

「くうぅ!」


 座学の授業で間違っただけで平手打ちが飛んでくる。

 ウチは叩かれた頬をさすっていると、教育係の女性聖職者はイライラした表情で地面に唾を吐いた。


「こんなどこにでもいる孤児が聖女なんて思いたくないわ」


 この一言がウチの胸に突き刺さる。

 ウチだってなりたくて聖女になったわけじゃないのに……。

 ただ周りに訴えたところで殴られるのが目に見えているから、ウチは唇を噛みながらなんとか席に戻った。


「ウチを見てくれる人が欲しい」


 同期の聖女は剣術と回復の聖女。

 対するウチはハズレ扱いされている補助の聖女で、魔力はかなり多いが属性魔法が使えない無能。

 頼みの綱の補助魔法は専用の魔法使いレベルだし、これじゃあ祝福の意味が薄い。


「あら、もしかして聞いてないのかしら?」

「い、いえ! ちゃんと聞いているッス」

「そう……」


 黒板に書かれた文字と内容。

 座学はあまり得意じゃないし、元々の内容がかなり難しい。

 ウチはない頭をフル回転させて、なんとか喰らいついていくのだった。


 ーー


 次の日。

 今日は教育係の命令で王都エクレール外にあるダンジョン、ゴブリンの巣窟に1人で来た。

 

「さ、流石に誰もいないんスね」

 

 ダンジョンのボスをソロで倒してこい。

 戦闘訓練を受けているとはいえ、ウチ1人でボスを倒すのは難しいはず……。

 そうなるとマイナス面である事が思いつく。


「ウチは必要無くなったんスね」


 人々の希望と呼ばれる聖女。

 ただウチは落ちこぼれのハズレ聖女で、教会側から切り捨てられたかもしれない。

 

「で、でもここで死にたくない」


 胸がギュウゥと締め付けられる中、ウチはメイス片手にダンジョン内に潜っていく。


 〜ゴブリンの巣窟〜

 

 尖った鼻に緑色の肌を持つ醜いモンスター・ゴブリン。

 コイツらは女性をさらって慰み者にするし、繁殖力も高いので数の暴力で村人が襲われる事も多い。

 一匹だと並の冒険者でもソロで勝てるが、ゴブリンは数の暴力で攻めてくるから油断ができない。


「「「ぎいいぃ!」」」

「くうぅ! し、死にたくないッス」


 ゴブリンが錆びた短剣で斬りかかってくる。

 ウチはなんとか短剣をメイスで弾くけど、別のゴブリンの攻撃を横腹に受けてしまう。


「ガハッ!? ま、まだ……」

「ゴオオォ!!」

「ッ! ぼ、ボスは手出ししてこないのはウチが弱いからッスか」

 

 防具である癒しのローブのお陰でダメージはそこまでないけど。

 コチラの攻撃があまり当たらず、向こうは数の暴力で攻めてくる。

 このままだと消耗戦でウチが……」


「ゴフゴフッ!」

「も、もう、キツイッス」


 1人でボス攻略。

 胸から湧き上がる虚しさや悲しさ、その気持ちがドンドンと大きく。

 

「このまま死んでもいいかも知れないッスね」


 誰にも求められてないウチ。

 だからボスゴブリンがめんどくさそうに大剣を手にした時、ウチは覚悟を決めようとしたが。

 

「やっぱり怖い……」


 ガクガクと足が震える。

 ドスドスと足跡を鳴らしながら近づいてくるボスゴブリン。

 相手のニタニタとした笑みをみて、思わず回れ右をして逃げ回ってしまう。


「誰でもいいから助けて欲しいッス」


 ウチみたいな落ちこぼれは誰も助けてくれない。

 でも、でも、本当のウチを見て助けて欲しいッス……。

 涙で顔がグチャグチャになりながらボス部屋で逃げ回っていると、ふと鈍い金属音がガンッと鳴り響く音が聞こえる。


「なんで不遇聖女のアクア・ハルカスがソロでダンジョンにいるんだよおおぉ!?!?」

「ええ!? いきなりなんスか!」

「なんスか、じゃねえよ!」


 いきなり現れた銀髪碧眼の整った顔立ちを持つ少年。

 彼がゴツイ体を持つボスゴブリンの一撃を、手に持っている片手剣で軽々と弾き返した。


「ごぶっ!?」

「このやろ。コイツは一応聖女だがかなりポンコツなんだぞ」

「ちょ!? 初対面でボロカス言われてないッスか!」

「ダンジョンにソロで入っている奴が何を言っているんだよ!!」


 いやそれ、貴方もそうだろ。

 思わず突っ込むけど、銀髪の少年は鬼気迫る感じでゴブリンボスと戦っている。

 

「それでコイツを倒してもいいんだよな」

「あ、え、もちろんッス」

「了解! ならさっさと倒してやる」


 キンキンキンキン。

 銀髪の少年がボスゴブリンと高速で斬り合っている中、取り巻きのゴブリンが互いに顔を合わせていた。


「「「ごぶぅ?」」」

「ごおおぉ!」

「「「ごぶっ!!」」」

「コイツらうっせぇな!」

「ええ!? ウチが苦戦していたゴブリンが!」


 いやいや、ドユコト。

 ボスゴブリンと斬り合っているのに、死角から襲いかかってくるゴブリンを一刀両断しているんだけど!?

 

「こちとら死にたくないし、この馬鹿を死なせるつもりもないんだよ!」

「え?」


 馬鹿と言われた時に少しイラッとしたけど、その後の言葉が胸に刺さった。

 もしかして不器用だけど本当のウチをみてくれている?


「こんな気持ちは久しぶりッスね」


 だいぶ変人だけど気になる存在。

 ウチは胸がドキドキするのを感じながら、彼を手助けする為に唯一得意な補助魔法を使っていく。

 すると彼はニヤッと笑い、明るい声が返してきた。


「助かる」

「いえ! これくらいしか出来ずに申し訳ないッス」

「はっ、充分だ!」


 えっ!?

 自分の耳を疑っていると、補助魔法を受けた銀髪の少年が嬉しそうにボスゴブリン達を切り裂き地面に沈めた。

 その時に荒い息を吐いていたが、彼は苦笑いでウチの方に近づいてきた。


「無事か?」

「え、あ、は、はいッス」

「そりゃよかった」


 本当の意味で嬉しそうな感じ。

 彼はホッとしたのか、深い息を吐きながら地面に座り込んだ。

 その姿に負担をかけ過ぎたと思ったけど、ウチは気持ちが抑えられなくなり強く抱きつくのだった。


〈余談〉

・かなり強引だけど銀髪の少年、バルク・カーマセル。

 彼を逃すつもりはないッスよ……。(ハイライトオフ)

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