第9話・あれ?これってヤンデレ聖女に依存されてない?
メスガキ後輩系の聖女、アクア・ハルカナに出会って3日後の朝。
なぜかアレクセイ・カーマセルに呼び出されて当主の執務室に入室すると、そこには見覚えのある青髪ボブカット少女が……え?
「数日ぶりッスねバルクさん」
「えっと? これはいったいドユコトでしょうか?」
「それは私も聞きたい」
まさかコイツが実家に来るとは思わなかったぞ。
ドクドクと心臓音が早くなっていると、部屋のソファーに座る問題児ことアクアがニコニコしながら立ち上がった。
「色々聞きたいことがあるッスけど先ずはウチの隣に座って欲しいッス」
「それは恐れ多いと言うか……」
「聖女様の言う通りにしなさい」
「は、はい!」
いつも通りアレクセイの眼光は鋭い。
ただ今日は疲れがあるのか、前に呼ばれた時ほどの強さは感じない。
なので一息吐きながらアクアの隣に座ると、彼女の表情がパアァと光り輝いた。
「もし良かったら手を握ってもいいッスか?」
「あ、あの?」
「握ってあげなさい」
「……わかりました」
か、カマセ犬には荷が重いんだけど?
内心でヒヤヒヤしながらアクアに左手を差し出す。
「ど、どうぞ」
「ありがとうッス!」
嬉しそうに俺の左手を握るアクア。
そのタイミングで彼女がいきなり光始め、俺とアレクセイは思わず顔を逸らした。
てか、めっちゃ嫌な予感がするんだけど!?
「こ、この光はまさか!?」
アレクセイが驚いた声を上げており。
いつものクールさがぶっ潰れる大声に、俺の体がビクッと震える。
そして光が治ったタイミングで、改めてアクアの方を見ると目をウルウルとさせていた。
「ウチの契約者がこんなところにいたとは!」
「いやちょ!?」
「これからよろしくッス!」
「……いい意味でも悪い意味でも誤算だな」
いきなり抱きついてくるなよ!?
豊満な胸を持つアクアの抱きつきに、無職童貞の俺はガチガチに固まってしまう。
というか、アレクセイに助けを求めようとするが本人は銅像みたいにカチカチになっていた。
「いやマジでドユコトだよ!?」
当主であるアレクセイがいる中で大声で叫ぶ。
うん、貴族としてはしたない気もするが、今回に感じては許して欲しい。
そう思いながらアタフタしていると、復活したアレクセイがいつもの仏頂面で口を開く。
「補助の聖女様が
「カーマセル伯爵様、バルクさんは出回っている噂ほど悪い方ではないッスよ」
「そ、それは良かった」
噂って俺が転生する前にやらかしてた事だよな。
ゲームではサブストーリーで明かされるが、だいぶ問題行為をやっていたな。
そうなると貴族社会への出禁はわかるけど、釈然としない気持ちがある。
「これで確認は取れたッスから伯爵様には教会への報告をお願いするッス!」
「わ、わかりました。ただ補助の聖女様はどうされますか?」
「ウチはバルクさんと行動を共にするッスよ」
「え?」
やっぱり俺がコイツの専属騎士になるのかよ!?
今の流れ的に察してはいたが、ゲームとリアルでは別なんだけど?
内心で突っ込んでいると、ニッコリとした表情を崩さないアクアは俺を引っ張るように立ち上がった。
「話はこれくらいで大丈夫ッスか?」
「も、もちろん。では私の方から教会に報告しておきますね」
「お願いするッス」
展開が早すぎて追いつけない。
なんというかジェットコースターレベルで話が進み、よくわからないまま話が進んだ。
うん、ゲームのデータがなければ俺も理解出来てなかったな……。
「こ、これからどうされますか?」
「フフッ、そんなのバルクさんはわかっているッスよね」
「あ、はい」
アクアってこんなに重かったか?
ゲームの時以上にやばい展開に俺は口を大きく開けるが……。
俺の手を握っているアクアがいきなり立ち上がり、放心しているアレクセイを放置して俺を部屋から引っ張り出すのだった。
ーー
カーマセル伯爵家の別館にある客室。
向かい合うようにソファがあるのだが、俺とアクアは何故か隣同士に座っていた。
いや、彼女の希望で座らされたのが正しいか。
「あ、あの補助の聖女様?」
「もうっ! 前にアクアと呼んで欲しいと言ったッスよね」
「ちょっ、頬を引っ張るなよ!?」
好感度も無駄に高いし、ハイライトオフがさらに怖い。
ガクガクと震えそうになるが、歯を食いしばりながら顔を上げる。
するとアクアはニコッと笑い、嬉しそうに話し始めた。
「やっぱりバルクさんは素直なのがあっているッスよ」
「お前な……。まあ、正式な場じゃないし大丈夫か?」
「納得された感じでよかったッス」
「ああ、てかなんとなく振り回されるのはわかってたからな」
「フフッ、それはよかった」
くそっ、見た目が無駄にいいから話しにくい。
敗北感を感じて悔しくなっていると、急にアクアが真顔になった。
「そう言えばバルクさんは貴族なのに祝福契約の場に
「それは……。お前も俺の悪い噂は知っているだろ」
「多少はッスが、あくまで噂は噂ッス」
「お、おう」
確かゲームのアクアは細かい事はあまり気にしない。
ただ大事な事は見逃さない性格だったはずで、直感がすごいキャラだったよな。
そうなると俺の秘密とか勘付かれる可能性も……。
「それで俺が祝福契約の場にいなかったのは単純に日を知らなかったんだよ」
「いやでも、司祭が王都中の王侯貴族に通達したと言っていたッスよ」
「通達自体はウチにも来たんだろうが、俺は知らなかったぞ」
「そこでバルクさんが無能貴族と呼ばれているのに繋がるんスね」
「そうなる」
実際にバルクは無能貴族と呼ばれても仕方ない行動をしていた。
てか、転生前の俺も有能とは言えない人生を送っていたので深くは突っ込めないが……。
ただアクアの頬がプクゥと膨らんでおり、不満がありますみたいな顔になっている。
「バルクさんもウチと同じく弾かれ者なんスね」
「まあな。ん? アクアも弾かれ者なのか?」
「ウチは平民出身ッスからね」
あー。
確か剣術の聖女や回復の聖女は上流階級の出身。
なのにアクアは平民で、教会の聖職者から虐待レベルの教育を受けてたんだよな。
ゲームの設定を思い出していると、少しだけ表情が暗くなったアクアがポツポツと話し始めた。
「ウチは王都の孤児院出身で他の子供達と共にシスターの世話になっていたッス」
「ほうほう」
「ただ12歳の時に聖女の祝福を受けて教会に引き取られたんスよ」
「それって……」
強引に連れて来られた教会所属として厳しい修行を受けた。
それだけでも厳しいのに、味方が1人もいない状態とか考えたくない。
「修行の日々は思い出しだしくないし、落ちこぼれ扱いをされたのも嫌だったッスけど」
「何かいい事でもあったのか?」
「もしかしてわかっていて聞いているッス?」
「ま、まあな」
こ、コイツ。
いやらしい笑みを浮かべたアクアに翻弄されつつ、俺は恥ずかしくて頬が熱くなっていく。
「てなわけで改めてよろしくッスよバルクさん」
「お、おう。こちらこそよろしくな」
「むふふ!」
い、いきなり抱きついてくるなよ!?
内心でバクバクしながら、今日1番の笑みを浮かべているアクアを受け止めるのだった。
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