第8話・不遇聖女じゃなくてヤンデレ聖女だった件……
ファンタジーゲーム・カーディナルナイトⅠに出てくる聖女の1人であるアクア・ハルカナ。
ゲームではストーリーに大きく関わるメインキャラなのに。
「なんでソロでダンジョンに潜っているんだ?」
「んっ? なんか言ったッスか?」
「……いや、なんでもない」
「なら良かったッス」
ゴブリンの巣窟内にある開いたエリア。
周りにいるゴブリンを蹴散らした後、少し疲れてたので壁にもたれかかる。
するとアクアがコテンと可愛く頭を傾けたので、俺は思わず渋い表情を浮かべてしまう。
「それでアクア様は1人でダンジョンに潜られているのですか?」
「あ、タメ口で大丈夫ッスよ」
「そりゃ助かる。でだ、なんで遭難してたんだ?」
「うーん、どう説明すればいいか悩むッス」
だろうな。
基本的に聖女は教会から守られる存在で、扱いもかなりいい。
なのにお付きをつけずに、ソロでダンジョンに潜るなんて起こるはずがないのに。
「話せる範囲でいいぞ」
「わ、わかったッス……。まずぶっちゃけると教会内に味方がいないんスよ」
「へ?」
「やっぱり驚くッスよね」
当たり前だろうが!
聖女の称号はそれだけ大事にされる存在。
飾っておくだけでも教会側に利点があるので、1人で放置するのはどう考えても悪手なはず。
「聖女は教会のシンボルだろ」
「普通ならそうッスけどウチは選ばれなかった落ちこぼれなんスよ」
「ドユコト?」
「……バルクさんは一週間前に行われた祝福契約を知っているッスか?」
「ッ!?」
ゲームの主人公が3人の聖女から1人を選ぶオープニング。
確かこの儀式の名前が祝福契約で、王都中にいる王侯貴族が候補として呼び出される。
「何か知っているっぽいッスね」
「確か聖女は3人いるんだよな」
「あくまで今年は3人で他にもいるッスけどね」
「そ、そうか……」
なかなか重い話題だな。
ズンッと気持ちが重くなっていると、俺の隣で三角座りしているアクアが不安そうにポツポツと呟いた。
「話を戻すッスけど、その祝福契約でウチは選ばれなかったんスよ」
「選ばれなかった?」
「他の2人は契約できたんスが……」
「それで落ちこぼれと言っていたんだな?」
「ッス」
アクアが不遇なのは知ってはいたがここまでとは。
ポロポロと涙を流すアクアを見て、俺は無意識に右手が動いてしまう。
「え? バルクさん」
「あ、いや、嫌いだったか?」
「いえ! もっと頭を撫でて欲しいッス」
「お、おう」
えっと?マジでどうすれば?
アタフタと戸惑いながらアクアの頭を撫でていると、ギャアギャアとゴブリンが鳴く音が聞こえた。
「またゴブリンが来たッス!」
「そ、そうだな……」
ゴゴゴと威圧感を放つアクア。
変わり身の早さに驚きながら、俺は休憩をやめて立ち上がる。
すると奥からゴブリンの群れが現れたので、腰からアイアンソードをスッと引き抜く。
「さっきと同じく前衛はするから援護を頼む」
「わかったッス!」
補助の聖女に援護を任せられるのはありがたい。
そう思いながら、現れたゴブリンに向かってダッシュで接近。
そのタイミングで、アクアからの強化魔法が飛んできた。
「アタックアップ、スピードアップ!」
「これは!」
体の感覚が狂いそうになるレベルの強化。
アクアの補助魔法が強力なのは知っていたが、ここまですごいとは……。
名前の通りアタックアップは攻撃力が上がり、スピードアップは素早さが上がるバフなので、このタイミングではありがたい。
「「「ギャギャア!!」」」
「さっきからうるさいんだよ!」
襲いかかってくるゴブリン。
コイツらは錆びた短剣を片手に切り掛かってきたので、俺は冷静に攻撃を回避。
そのまま隙だらけの胴体に向かって、力のこもった水平斬りを放つ。
「はあぁ!!」
「ぎいぃぃ!?」
残りは4匹。
ゴブリンのヘイトはコチラに向いているので、囲まれないように立ち回っていく。
すると向こうは痺れを切らしたのか、同時に飛びかかってきた。
「「「「ギギギッッ!?!?」」」」
「はっ! ない頭で考えたのはそれかよ」
ゴブリンの巣窟のボスは指揮能力がソコソコあったが、雑魚だけだとガムシャラに突っ込んでくる。
そのおかげで動きが読みやすいから、俺は一匹ずつ冷静に斬り殺した。
「ご、ごぶぅ……」
「お前で最後だな」
「ッ! ごぶっ!!」
この状況で逃げないか。
個人的にはどっちでも良かったので、油断せずに突っ込んでくるラス1のゴブリンにトドメを刺す。
「や、やっぱりバルクさんはすごいッスね」
「ん? いや、これくらいは実家の騎士でも出来るぞ」
「そ、そうなんスか?」
「まあな!」
た、多分……。
前回のレッドホットキャタピラの件もあるので確定では言えないが。
適当に話を誤魔化していると、目をキラキラとさせたアクアが近づいてきた。
「あ、あの、バルクさん。やっぱりウチはお荷物でしたか?」
「別に? てか、アクアの援護があったから手早く倒せたぞ」
「マジっスか!?」
「おう! なんならチームを組みたいくらいだ」
ゲームでは全ルートクリアしているのでアクアの強化案も知っている。
なので彼女と組みたい気持ちがあるけど……。
「バルクさんだけがウチを必要としてくれる。本当にありがたいッス」
「ん? ああ、確かに必要だな」
「フフッ、それなら」
な、なんかやばい雰囲気になってない?
威圧感とは別の空気の重さ……ハイライトがない目で見てくるアクアを見て、思わず固まってしまう。
「も、もしかして選択肢を間違えた?」
後から考えればまさにその通りで。
アクアのせいで、俺はドンドンと面倒ごとに巻き込まれ始めるのだった。
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