第6話・カーマセル伯爵家の当主はゲームの時と同じく仏頂面だな……

 アレクセイ・カーマセル。

 ロンネール王国の王都・エクレールの貴族街に大きな屋敷を構える伯爵家の当主。

 性格は堅物で実力主義で、魔法属性を持たずに能力も無能だったバルクが歪んだ原因。


「よく来たな無能」

「い、いえ……。久しぶりの呼び出しですが私は何かやらかしましたか?」

「貴様が何もやらかしてなければ呼び出す理由などないだろ」

「ええ」


 データ通りの高圧的さだな。

 黒髪ショートヘアで目つきが鋭い30代後半の男性。

 ゲーム時に見覚えがある相手、アレクセイ・カーマセルはコチラを見下すように鼻を鳴らした。


「ただ私が使える時間は限られているから端的に言う。お前はドンガス達をたぶらかして紅の指輪を手に入れた?」

「……はい?」

「とぼけるつもりか?」


 ゴゴゴと重苦しい威圧感が支配する中、俺はガクガクと震えそうになりながら顔を上げる。

 その時にアレクセイが一瞬だけ驚いてたが、元の仏頂面にすぐに戻った。


「とぼけるも何も、騎士達と共にダンジョンに潜って得た物です」

「その話はドンガスから聞いている。ただ私が聞きたいのは紅の指輪をどう手に入れたかだ」


 ぐっ、話がズラせなかったか。

 貴族社会を生き抜いてきた相手に、わかりやすい相手に小手先は通じないか。

 たださっきよりは威圧感がマシになったので、チャンスと思いハッキリと言葉を返す。


「その指輪はボスエリアにいる強敵をなんとか倒して手に入れました」

「ほう、その相手は1人で倒せたのか?」

「結果的にはそうなります」


 さあ、どう返してくる?

 胸がドキドキと鳴る中で仏頂面で口元に手を置いたアレクセイはため息を吐いた。

 

「貴様の言葉は信用できないがドンガスが証言者なら理解はできる」

「は、はい」

「ただどうしても納得が出来ない点が何個かあるぞ」


 ギロリと鋭い視線でコチラを睨みつけてきた。

 その視線はかなり怖く、まるで蛇に睨まれた蛙状態になってしまうが……。

 目を逸らしたら負けと思って、俺は顔を背けないようにグッと我慢する。


「その納得が出来ない点とは?」

「今の貴様はただの無能ではない。ならここで問い詰めても答えを言わないだろう」

「ッ……」


 もしかして転生しているのがバレたか?

 いや、そこを嗅ぎつけているならこの程度では終わらないはず。

 背中が冷や汗ダラダラになっていると、アレクセイは何か思うところがあるのか視線を天井に向けた。


「私の要件はそれだけだ」

「は、はい。では失礼します」


 息が詰まりそうな話し合いが終わった。

 重苦しい執務室から出られるのはありがたいので、アレクセイに一礼して足早に部屋から出ていく。


「いったい何が起きたんだ?」


 部屋を出た後にアレクセイの戸惑いが耳に届く。

 その言葉に俺は表向きはポーカーフェイスを作るが、心臓はバクバクと動いて体が熱くなるのだった。


「お、おかえりなさいませ」

「ああ、ただいま」


 部屋の外で待っていたルイスに声をかけ、俺はフラフラになりながらなんとか別館に戻るのだった。

 

〈視点変更・ルイス視点〉


 最近バルク様の態度や雰囲気が大きく変わった。

 最初は何かの冗談だと思っていたけど、別の何かが働いているように感じる。

 

「アレクセイ様、失礼します」

「よく来たなルイス」

「いえ……」


 バルク様が寝静まった後。

 私はカーマセル家の当主であるアレクセイ様から呼び出しを受けていた。

 なのでガクガクと緊張しながら執務室に入ると、アレクセイ様は仏頂面のまま頷いた。


「それでアレは本当にあの無能なのか?」

「私が見る限りは本物のバルク様です」

「今までとはだいぶ違うようだが」

「それは……」


 ジロリとコチラに向けられる視線。

 相変わらず目つきが鋭いので、私は後退りしかけるがなんとか耐え切る。

 

「お前にも原因がわからないのか?」

「はい。ただ今のバルク様なら心置きなく従えます」

「ほう……。なぜ無能の悪童相手にそこまで言える」

「私がそう思ったからです!」


 負けたくない。 

 ただの雇われ使用人である私が当主様に反抗的な態度をとる。

 もちろん他にバレたらよくて首で悪ければ斬首刑……でも!


「おそらくバルク様は何かを伺っていたんだと思います」

「表向きは無能を演じていたのか」

「その可能性が高いです」

「お前の言葉は理解できるが証拠は何がある?」

「ッ! それは!」


 証拠。

 私が知っているバルク様の隠し事はアレしかない。

 本人が隠しているのは知っているが、ここで切り出すしかない。

 後でバルク様に罰を受けるのを覚悟して、私は唾を飲み込みながら発言する。


「これはおそらく私しか知りませんが、バルク様は風属性の魔法が使えます」

「ッ! あ、あの無能が自己強化魔法を使えるのはドンガスから報告を受けていたが、風魔法も使えるのか?」

「はい」

「それなら色々納得ができる」


 アレクセイ様の表情が緩んだような?

 仏頂面なのは変わらないけど、さっきまでの威圧感が一気に薄くなった気がする。

 今のうちに呼吸を整えていると、右手で自分の顎を撫でたアレクセイ様は小声で何かをつぶやいた。


「……もしや無能の適正検査を行った魔術師が何かを企てていたか?」

「へ?」

「いやなんでもない」


 よくわからないけど納得されている。

 ただこれで話は終わりみたいなので、スッキリした私は覚悟するように目を閉じる。


「これから私はどうすればよろしいですか?」

「ん? お前には引き続きあの無能……いや、バルクの面倒を見てもらう」

「え、は、はい!」


 や、やったあ!

 クビになるかもしれないと思っていた不安感が払拭され、私は喜びながら頭を深く下げた。


「私はこれから別件があるから退出してくれ」

「わ、わかりました」

 

 ふうー、やっと外の空気が吸える。

 アレクセイ様からの執務室から出た後、私はガラス窓から見える月を見上げる。


「バルク様は私が守ります」

  

 何かに怯えるように修練を行うバルク様。

 その姿がとても痛々しく胸が締め付けられる……。

 

「私も戦えるようにならないと」


 バルク様の使用人ではなく騎士になりたい。

 内心で覚悟を決めた後、ある方に声をかけるために騎士達が集まる詰め所に移動するのだった。

 

 



 

 

 



 

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