第3話・努力は少しずつだが実り始めるんだな
カマセ犬キャラのバルク・カーマセルに転生してから2ヶ月後。
最初は軽いランニングと筋トレだけで体は悲鳴を上げていたが、今ではドンガスさんから直々に剣術を習っていた。
「この2ヶ月でバルク様は変わりましたな?」
「そうか?」
「ええ! 前までの悪童さが見る影もない」
ニコニコとした顔をしているドンガスさんだが動きに容赦がない。
もちろん褒められるのは嬉しいが、模擬戦中にはやめて欲しいんだけど。
そう思いながら相手の斬撃をバックステップでギリギリ回避するが、読まれていたのか目の前に接近された。
「まだまだ甘いですぞ!」
「ぐっ! 負けるかよ」
横凪の一撃を模擬剣でなんとか受けるが、ガンと鈍い音がして俺の体が軽く浮く。
手加減はされてそうだが、それでも馬鹿力すぎるだろ。
「ははっ、ここまで食いついてくるのは面白い!」
「ニッコリ顔でトドメを刺してくるのは怖いんだけど?」
「訓練とはいえ容赦は出来ないですぞ」
「ガハッ!?」
ドンガスさんの左拳が浮いた俺の腹に直撃。
防具の上からでもわかる強い衝撃に唾液を吐き出すが、そのまま容赦なくゴンっと地面に叩きつけられた。
「ま、まいった」
「また自分の勝ちですな」
コッチは剣術を初めてまだ一ヶ月だぞ。
それなのに半ば容赦なくシゴかれている気がするけど、転生時よりは強くなった感じがする。
「なあお前、剣術を初めて1ヶ月で団長の剣をあそこまで受けられるか?」
「今ならともかく同じ状況なら無理に近いな」
「もしかしてバルク様は剣の才能があるかんじ?」
ゲホッゲホッ、な、なんか騎士達の視線がよくなっているような?
好感度上げが少しずつ進んでいるように見えるが、調子に乗ると痛い目に合うし今はスルーするか。
「ど、ドンガス様はもう少し手加減をされたらどうでしょうか?」
「手加減なんぞしたら自分が一撃をくらいますぞ」
「た、助かる」
ふう、腹の痛みが少しマシになってきたな。
そのタイミングでルイスに起こしてもらい、コップに入った水を飲む。
「流石にドンガスさんには勝てないな」
「自分の事は呼び捨てでいいのですが」
「剣の師匠相手に呼び捨ては出来ないだろ」
「ハハッ、バルク様は律儀ですな」
いやでも勝てるビジョンが見えない。
アニメやゲームの主人公みたいに、数ヶ月修行しただけでめっちゃ強くなれる。
それが適応されるのはメインキャラだけで、俺みたいなカマセキャラにはない。
「ない物ねだりをしても仕方ないか」
「おっ、まだ模擬戦を続けます?」
「当たり前だろ」
当たり前だが死にたくない。
その一心で生傷が増えるのも関係なしに、俺はドンガスさんに切り掛かっていく。
その結果、一撃だけ攻撃が当たったので成長を実感できたのが今日の収穫だな。
ーー
模擬戦を含む訓練が終わった後。
疲れ切った騎士達がガヤガヤと話しながら出ていき、残ったらドンガスが苦笑いをしながら一礼してきた。
「それでは我々は離れますがバルク様も無理なさらず」
「明日の訓練もあるしほどほどにするよ」
「ハッ! では失礼します」
心配そうにしているドンガスさんにヒラヒラ手を振り、彼が出て行ったのを確認。
誰か来るかが心配なのでルイスに見張りを任せ、的にする鉄の鎧を用意する。
「昨日の続き……。ウィンドバレット」
空中に浮かぶ目に見えにくい風の弾丸。
原作のバルクは属性魔法を使えなかったが、今の俺は風魔法の適正があった。
そのおかげで使える手札が増え、死亡フラグを回避できる可能性が上がったのは嬉しい誤算……だったが。
「今更魔法が使えますなんて言ったらヤバい所じゃないよな……」
魔法の適正は小さい頃に判明するのがこの世界の常識。
なので、今の俺が属性魔法が使えるのは常識的におかしくなる。
「まあでも、今は知識でゴリ押しが出来るのはありがたい」
風の弾丸が的である鉄の鎧に直撃。
ガンガンと鈍い音が訓練場に響く中、今度は右手に持つ模擬戦用の木剣に風魔法をまとわせる。
すると木剣に緑色のオーラが付着され、斬りかかるとガリッと鉄の鎧に深めの傷がついた。
「多少は使えるようになったけどまだまだ……」
俗に言うところの魔法剣モドキは出来てきたが。
これじゃあ俺を殺しにくるモンスターに通じるかわからない。
「もっと精度をあげないと」
殺される原因である主人公と関わらなければ問題ないはず。
ただ原作に引っ張られる可能性もあるから油断できない。
「どんな手を使っても生き残ってやる」
手にできた血豆がジクジクと痛いが。
訓練の疲れも含めて横になりたくなるけど、歯を食いしばりながら風魔法の練習を続けていく。
ーー
使える限りの魔力を使い切った後。
めまいがするけど気合いで訓練場から出ると、オロオロしたルイスが近づいてきて抱きかかえてくれた。
そのおかげで地面に体を打ち付けなくてよかったが。
「が、頑張りすぎですよ!」
「まあでも辞めるつもりはないけど」
「なぜそこまで……」
悪いけど訳は言えない。
ゲームの知識もそうだけど、俺が本物のバルクじゃなくてアラサーの転生者とバレるとどんな目に合うかわからない。
なので無理矢理にでと誤魔化そうしているが、どうもルイスにはバレてそうなんだよな。
「ルイスも勘づいているだろ」
「そ、それは……。確かにバルク様は貴族社会で出禁を受けてますが」
「ああ、え?」
おいこら、俺が貴族のパーティに呼ばれなかったのは出禁が理由か!
ウルウルと涙目のルイスに突っ込みたくなるが、今はフラフラで歩くのが精一杯。
なので汗を流してベットに飛び込むのが良さそう。
「ハハッ、思った以上にヤバいかも」
「バルク様?」
「なんでもない」
おっと、またブツブツと呟いてしまったな。
失言が多いのは昔からなので割り切るが、気をつけないといけない。
そう思いながら俺はルイスの肩を借りつつ、水浴び場に移動するのだった。
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