第29話 大爆発

いくさとは言っても、まともな戦いにはならんかもしれんのう……。なにせこれだけの魔力、ワシでも少し気を抜けば暴発してしまいかねん。……つまり、一切の手加減はできぬということじゃな。クカカッ……!」


「…………くっ」


 完全に戦う気満々のガラクを前に、とりあえず剣を構える。

 しかし、どう対処すればいい?この灼熱の中ヤツに接近するのはかなりキツイし、さっきみたいに魔力を溜める隙も作れそうにない。


「どうやら随分と怖気づいたようじゃの……。ほれ、死ね」


 ガラクが炎の剣を振るった。

 その瞬間、巨大な火柱がまるで暴走列車のように俺のすぐ横を通り過ぎて行った。

 肺が焼き尽くされそうなほどの熱気だ。


「クカカカカッ!!すまんすまん、少し手元が狂ってしもうたわ!じゃが、次は外さぬぞ?」


 そう言ってガラクは、再び剣を振り上げる。

 どうする、一旦退却するしかないのか。でもこんなヤツを野放しにするわけには……。


 色々な考えが脳内を巡るその最中、俺はを目の当たりにした。


 俺が握っている銅剣。その刀身に水滴のようなものが付着していたのだ。


 なんだこれは?俺の汗か?

 いや、そんなものは一瞬で蒸発してしまうほどのこの高温でそれはあり得ない。


 だとすればこれは……。


「……!!!!!?!?」


 まさか、銅か!?

 あまりの高温にさらされたことで、銅剣の刀身が溶け出しているというのか!?


 その事実を悟った瞬間、俺は一瞬、……我を忘れた。



「 や め ろ !!!!! 」



 〇


 新生魔王軍四天王、六腕一刀のガラクは勝利を確信していた。

 たしかに先ほどはあのニンゲンをどこか見下しており、それゆえに不覚を取ってしまった。


 だが今度は違う。

 自ら手に入れた圧倒的な力で相手をねじ伏せる。

 そこには一片の油断も驕りも存在しなかった。


(死ねえっ!愚かなニンゲンよ!!)


 ガラクが宝玉からあふれ出す膨大な魔力を収束して作り上げた紅蓮の刀を振るおうとしたその時。


「 や め ろ !!!!! 」


 ニンゲンの男の怒号が響いた。


「グガッ……!?」


 同時に、ガラクを構成する全身の骨が粉々に砕かれる。


(……な、なんじゃ……!なにが起こった……!?)


 驚愕するガラク。

 しかし改めて確認すると、自身の身体には何の変化もない。

 ところどころが欠損してはいるものの、これは魔王城の崩壊前に相手から受けた攻撃によるものだ。


(であれば、今のは幻覚……幻術の類か……?……いや、違う……!)


 殺気。


 ノウンから放たれた強烈な殺気が、アンデッドであるガラクに幻覚という形で明確な死のビジョンを見せたのだ。


(こやつの殺気でこのワシが死を覚悟したじゃと……!?)


 そんなことがありえるのか。

 自分は本当にこのニンゲンに勝てるのか。


 そんな疑念が、急速にガラクの脳裏に浮かび上がる。

 しかし、それが最大のミスだった。


 宝玉から今なお放出される莫大な魔力のコントロールが、ほんの一瞬おろそかになってしまったのだ。


(……いかん!しまった……!)


 ガラクの制御を超えた火の魔力が、濁流のように暴れだす。

 枷から解放された豪炎がガラクを中心に渦を巻き始めた。


「ぬ、ぬおおおおおおおおおおおおっ!?そ、そんな馬鹿なあっ!このワシが、このワシがこんなところでえええええええええっ!!?」


 急いで再び魔力を抑え込もうとするガラクだったが、無駄なあがきだ。

 宝玉の周囲に絶大な魔力が滞留し、もはや誰も手が付けられない状態になっていた。


「だ、大魔王様あああああああああああっ!!クカああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」



 チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!



 ガラクを中心に、とてつもない大爆発が起こった。

 大地が揺れ、魔王城の瓦礫が吹き飛ばされる。

 爆風が吹き荒れ、黒煙が立ち上った。


 ……数分後に爆発で起こった煙が落ち着きを見せ、視界が明らかになる。


 真っ黒に炭化した爆心地にはガラクの姿はなく、ただ深紅の宝玉が月明かりに照らされているだけだった。


 〇


「……ごほっごほっごほっ。び、びっくりしたあ~……。なんだ今の爆発?」


 剣が溶け始めてヤバい!と思ったら突然ガラクが発狂した後に爆発した。

 はっきり言って意味不明なのだが、とにかくラッキーだ。

 おおかた宝玉のパワーに飲み込まれたとかそんな感じだろう。


 ついさっきまでの地獄のような火の海は、嘘みたいに鎮火していた。


「あ、そうだそうだ」


 俺はガラクがいた場所に落ちていた宝玉を拾った。

 正直あんまり触りたくないが、ちゃんと持って帰らなくては。


 剣霊を探しにここまできたわけだが、まさかこんな収穫があるとは思ってもみなかった。これは主君なき騎士団ロードレスナイツの面々に褒められること間違いなしだろう。……まあ、まだ大して仲良くもないんだけども。


 手にした「紅玉ヴァーミリアン」をアイテムボックスへ丁寧にしまった。

 そして今度こそ帰ろうと思ったのだが……、またしても足止めを食らうことになるのだった。


「全く、本当にめちゃくちゃにしてくれおったな」


「!!!!!?!?」


 背後からガラクのものとは違う声が聞こえた。

 急いで振り返ると、そこには白髪の少女が立っていた。


「……貴様、何者だ?」


 ガラクの仲間か?

 俺が尋ねると、謎の子供はゆっくりとこう答えた。



「我はデモンロード。……というかお主、我のことが見えるのか?」

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