第28話 禁じ手

 ものすごい轟音と共に魔王城が崩れていく。

 こうなっては俺にはどうしようもない。せめて瓦礫に押しつぶれないよう気を付けるぐらいだ。


 うわー、どうしようこれ。

 学校のスタジアムを破壊した時とは比べ物にならないぞ。

 損害賠償を請求されたら確実に人生終了だ。……いや、でも誰の所有物でもないって話だったし大丈夫か……?


 戦闘時の興奮はすっかり冷めやり、ひどく現実的な問題について考えながら俺は瓦礫と共に落下していった。


 〇


「……よっこらせ……。あー、死ぬかと思った……」


 身体に載っていた瓦礫をどけて俺は立ち上がった。

 崩壊前に最上階に居たためか、幸いにも大量の瓦礫に押しつぶされることはなかったようだ。


「しっかし、もうめちゃくちゃだなこれえ……」


 周囲を見回すと、360度すべてが瓦礫の山だ。

 不気味ながらも荘厳だった魔王城は、もはや見る影もなくなっていた。


 剣霊の代わりとなるゴーストを探してここまで来たわけだけど、諦めて帰った方がいいかもしれない。

 こんなところを万が一誰かに見られでもしたら、後々面倒なことになりそうだ。


「はあ、とんだ無駄足だったな……」


 落胆してため息が出てきた。

 ……でもよく考えたら自称新生魔王軍四天王を倒したわけだし、主君なき騎士団ロードレスナイツのメンバーとしてはお手柄だったか……?


「……帰ろ」


 俺が肩を落として歩き始めたその時。



「クカああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 雄たけびと共に前方の瓦礫が吹き飛んだ。

 そしてそこに現れたのは……。


「……まじか」


 一体のスケルトン。確実に消し飛んだと思っていたガラクだ。

 しかしその姿はまさに満身創痍といった様子で、肋骨とか色んな所が欠損しており、六本あった自慢の腕も今や左腕の一本のみとなっている。

 骨格標本なら完全に不良品だ。


「はあっ、はあっ……。き、貴様あああっ……。あれほど卑劣な手を使うだけでは飽き足らず、まさか魔王城そのものを破壊するとは……。なんという鬼畜の所業っ……!!」


「…………」


 それに関してはこっちも想定外だったというか、申し訳ないと思ってるというか……。いやいや、そんなことは今更考えてもどうしようもない。


「……ずいぶんと頑丈な奴だな。どうする?そちらが手を引くというのなら、とどめまでは刺さないでおいてやるが……」


 さっさとこの場を去りたいという焦りと、魔王城をぶっ壊してしまったという負い目からそう提案したのだが……、


「ふざけておるのかっ……!?ここで貴様をほふる以外の選択肢があるわけなかろうっ……!」


 案の定受け入れられなかった。


「……しかし、その体たらくでどうやって俺を殺す?もはや剣を振るうことすらままならんだろう」


 そもそもあのやたら長い刀もどこかにいってしまったみたいだ。

 多分瓦礫の下敷きになってバキバキに折れているだろう。


「図に乗りおって……。だが、確かにこのままでは貴様と渡り合うことすらかなわんじゃろう……。……仕方がない、使いたくなかったのじゃが……」


「…………?」


 なんだその意味深なセリフ?

 俺が奇妙に思っていると、ガラクはゆっくりと左手の拳を振り上げ、そしてそれをあろうことか自らの頭蓋に叩きつけた!


「!!!!!?!?」


 なにをやってんだコイツは!?

 諦めて自害するつもりか?


 ガラクの意味不明な行動に困惑していると、ヤツは割れた頭蓋骨の中からあるものを取り出した。目を凝らして見ると、それは野球ボールぐらいの大きさの、真紅の宝玉だった。


「クカッ……!これが何か分かるか、ニンゲンよ……」


 ガラクが不敵に尋ねる。

 そんなことを聞かれてもただの赤色の玉、としか思えない。


「見当もつかぬといった様子か……。クカカッ、ならば教えてやろう。これはかつて偉大なる大魔王が振るった神剣ジェネシスを構成する七つの宝玉のうちの一つ、『紅玉ヴァーミリオン』。この小さな玉一つに国を滅ぼせるほどの膨大な魔力が内包されておるのだ……!」


「……なんだと……!?」


 それって前にエリオが言ってた超重要アイテムじゃないか!

 くそう。軽い気持ちで剣霊探しに来ただけなのに、こんなに話が大きくなるなんて、つくづくツイてないな。


 しかし、こうなってしまったからには黙って帰るわけにもいかないだろう。


「さあ、紅玉ヴァーミリアンよ……。いまこそその魔力を解放し、ワシにこの不敬者を殺すための力を与えよ……!!」


 次の瞬間、宝玉が強烈な紅の光を放った。


「ク、クカああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ガラクを中心に豪炎があふれ出し、あたりが一瞬で火の海に変わる。

 確かにとんでもない魔力だ。とっさに身体を魔力で覆ったが、そうしなければ今ので火だるまになっていただろう。


 そして当のガラクを見ると、そこには先程とは明らかに雰囲気の違うモンスターがいた。眼孔や骨の隙間から絶え間なく炎が立ち上り、左手には凝縮された火の魔力が形成する剣のようなものが握られている。


 厨二風に言うなら「煉獄からの使者」、か……。


「……クカッ、クカカッ、クカあーカッカッ!!素晴らしい!!なんという魔力じゃ!!全身から圧倒的な力が漲ってきおる!!!」


 高らかに笑うガラク。

 これは……、ちょっとヤバいかもしれない。


 ガラクはこちらを見据え、興奮気味に言った。


「さあ、貴様も剣を抜け。本当のいくさはこれからじゃぞ」

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