第14話  決勝戦

『さあ!ついにこの時がやってきました!キリヴァリエ魔剣士学園新入生剣闘大会の決勝戦が今、始まろうとしています!!』


 学内で最大の闘技場が、観客の歓声で沸き立つ。

 円形の観覧席は人でぎゅうぎゅう詰めだ。


『実況はわたくし、放送部三年のマイク・ブロンズが担当させていただきます。……そしてなんと!実況席には解説役としてあの方が来て下さいました!それではみなさんにご挨拶をお願いします』


『はい。キリヴァリエ魔剣士学園生徒会会長のレオナルド・ブレイドハートです』


 きゃあああああああああああああああああああああああ!!!

 という、恐らく女生徒の発狂じみた黄色い声援が上がる。


『……ということで、生徒会長さんが来てくれました!いやあ~、それにしてもすごい人気ですねえ』


『はははっ。ありがたいことですが、今回の主役はあくまでも新入生なので、僕のことなんか気にしないでください』


『それは難しいですよお、特に女性陣にとっては!……とは言え、時間も押しているのでさっそく対戦者の紹介に移りたいと思います』


 実況がそう言ったのと同時に、二人の剣士が闘技場中央のフィールドに上がった。片方は黒髪に漆黒のマントを羽織った男、もう片方は金色の髪をした姿勢の良い女だ。


『実況席の向かって右に立っているのがアン・ノウン選手です。詳しい素性の分からない謎の多い選手ですが、入学前は冒険者として活躍されていたらしいです』


『なるほど。実戦経験は十分というわけですね』


『はい。実際これまでの試合はすべて一撃で勝利しているらしく、とてつもない実力の持ち主であることは間違いありません。さらに入学試験で勢いあまって闘技場を破壊したという話もあります』


『あれやったの彼だったんですか。生徒会も修復を手伝ったんですが、なかなか骨が折れましたよ』


 生徒会長のセリフを聞いて、観客からブーイングが巻き起こる。

 しかし黒の剣士は反応する様子はなく、ただその場で俯くだけだった。


『そ、そしてそして!そんな男と相対するのは黄金の髪をなびかせる華麗なる戦乙女、レイシアナ・ブレイドハート選手です!!多くの方がご存じの通り、ここにいらっしゃる現生徒会長レオナルド・ブレイドハートの実の妹君でございます!!』


 わあああああああああああああっ!!とノウンの時とは対照的な歓声が上がる。


『会場も大盛り上がりです!入学前から注目されていた今大会の優勝候補ですが、難なく決勝の舞台へ上がってきました。いかがですか、会長?』


『ははは。あまり身内に肩入れはしたくありませんが、彼女の努力する姿はこれまで間近で見てきましたから、自分の力を信じて頑張ってもらいたいですね』


『ほうほう。では忖度なしで予想すると、どちらが勝つと思いますか?』


『……さあ。ただ、どちらが勝ってもおかしくないと思います』


『ということです!それでは試合を始めてもらいましょう!……両者、構え!』


 実況が送った合図と同時に、対面する二人の剣士は剣を抜き、構える。



『……試合、開始!!!』


 戦いの始まりを告げる、鐘の音が鳴った。


 〇


 試合開始のゴングが鳴ったが、俺の気持ちは曇っていた。

 大衆の面前で、闘技場破壊の犯人であることをバラされたからだ。


 すっごいブーイングとかされたし、対戦相手の子と扱いが違いすぎだろ。

 なんだよ、「黄金の髪をなびかせる華麗なる戦乙女」って。

 かっこよすぎだろ。俺もそんな二つ名欲しいよ……。


「気を抜いている場合?」


「……ッ!」


 剣閃が俺の顔面をかすめる。

 あぶないあぶない。十分な間合いを確保していたつもりだったけど、油断した隙に一気に距離を詰められてしまった。


 流石はあの生徒会長の妹。かなり動けるな。

 ていうかこのレイシアナって子、入学試験で俺が気になってた人じゃないか。


 後方に跳躍し、いったん距離を取った俺に、彼女は剣を向ける。

 彼女の髪と同じ、金色に輝く剣だ。俺のとは華やかさが違う。


「ずいぶんと余裕みたいだけど、あまり油断しない方がいいわよ。これまでの試合を見て、あなたを倒す算段はついているから」


 と、彼女は自信満々に言った。


 いいなあ。こっちはあんたを倒して優勝していいものかどうかすら迷っているというのに……。

 けどまあ、久々に骨のあるやつと戦えそうだし、少しはこの戦いを楽しんでもいいのかな。

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