第11話 自己紹介は念入りに
「えっと……、それじゃあ、まずは今いるメンバーだけでも自己紹介をしてもらおうかしら。ニノから順番にお願いできる?」
「了解っす!」
エリオからニノと呼ばれた小柄な少女が元気よくソファから立ち上がった。
髪は金髪のショートカットで、見た目からも言動からも快活な性格なのが見て取れる。
「はじめまして、キリヴァリエ魔剣士学園2年のニノ・ブライリーっす!実家がマジックアイテムの工房で、あたしも工作は得意なんでそっち系の相談があればいつでも言って欲しいっす!以上っす!」
簡潔に言い放つと、ニノは大げさに頭を下げた。
パチパチパチと、エリオ含め他の連中が小さく手を叩いていたので俺もそれを真似た。うん、素直でいい子そうじゃないか。
「ほんじゃ、次はウチの番やな」
ニノの隣に立っていた人物が口を開いた。
青っぽい色の長髪を頭頂部で結んで、切れ長の目をしたなんだか妖艶な雰囲気の女性だ。
「ウチの名前はスイレン。ニノとおんなじキリヴァリエの2年生や。……えーと、他になに言うたらええんやろ? あ、そうそう。好きな男のタイプはウチよりも強い人、やな。ふふふ、以後よろしゅう頼んます」
そういってスイレンは薄っすらと微笑んだ。
うん、すっごい関西弁。
関西出身じゃないから正確な関西弁は分からないけど、異世界で聞くことになるなんて思わなかった。なんでだろう、自動翻訳機能の故障か?
そんな俺の困惑など知る由もなく、三人目の自己紹介が始まろうとしていた。
俺の方へ一歩踏み出したのは身長が高く、白髪の長いポニーテールが特徴的な女性だ。またエリオと同じく耳の先端が尖っているのだが、彼女とは対照的に肌が浅黒い。
外見と俺の浅いファンタジー知識から推察するにダークエルフという種族だろうか?こっちの世界に来て初めて見たな。
対面してからずっと無表情なのだが、それが端整な顔立ちを一層際立たせている。やはりエルフの種族補正は羨ましい。
「……イサーナだ。よろしく」
「…………」
彼女が喋ったのはその一言のみだった。
制服を着ているから彼女もキリヴァリエの学生なんだろうが……。
うん、怖い。
多分俺より背が高いから、余計プレッシャーを感じる。
まあ、向こうも俺のことを不審に思っているんだろうけど、それにしても表情筋の一つも動かさないというのはなかなかだ。
「みんなありがとう。他のメンバーについては、それぞれ会った時に紹介することにしましょう。……じゃあノウン、よければあなたも自分のことについて話してもらえないかしら。もちろん、覚えている範囲で構わないから」
エリオは若干申し訳なさそうに俺を見た。
「……ああ、分かった」
そんな風に振られたら話さないわけにはいかないだろう。
厨二設定を受け入れてもらうには、第一印象が重要だ。
自己紹介にも気合が入る。
「……俺の名はアン・ノウン。とは言っても、これは仮の名でな。本当の名前は俺がこの魔剣と出会った時に、故郷や家族、友人、恋人と一緒に奪われてしまった。……それ以来俺は魔剣と旅を続け、それと同時に今も魔剣の呪いとも呼べるような力に蝕まれ続けている。不甲斐ない話、先日もこいつのせいで記憶の一部を失ってしまったみたいでな。エリオによると自分の旅の目的すら忘れてしまったらしい。学園からの推薦を受けて今年からキリヴァリエに入学したのだが、その前は冒険者ギルドに所属していて、いや正確には現在も所属しているのだが、とにかく討伐系のクエストを主に請け負っていた。趣味と呼べるようなものはないが強いて言うなら魔力制御の訓練に日頃から励んでいる。好きな食べものは」
こんな感じで、俺は数分間ベラベラと話し続けた。
「……ということで、俺は意図せず世界の深淵を覗いてしまったんだ。……以上だ、よろしく」
「おお~」
話し終えると、ニノが感嘆の声を上げながら手を叩いてくれた。
エリオやイサーナも、うんうんと頷いて大変関心しているようだ。
よしよし、掴みは上手くいったな。
「いや、記憶を失ったってどういうことなん?旅の目的も忘れたとかゆうてもうとるけど」
「!!!!!?!?」
平然と疑問を呈したのはスイレンだ。
しかし、その視線は俺ではなくエリオの方に向いていた。
「ええ、次はそのことについて話し合いましょうか」
エリオは静かに言った。
いや、できれば話し合わないでくれ。
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