第7話 冷徹なる受付嬢ふたたび
入学試験の合格通知が届いたのは第3次試験の一週間後だった。
それまで俺は街にある宿に滞在していたのだが、内心ビクビクして気が気じゃなかった。合否の結果よりも、訓練場を破壊した損害賠償を請求されるのではないかということが気になって仕方がなかったのだ。
しかし、そんな心配は杞憂に終わり、俺は無事キリヴァリエ魔剣士学園に合格することができた。
同封されていた書類によると、どうやら入学式の前にまた色々と手続きがあるようなので一度学園に来い、とのことだ。
そんなもの入学式と同じ日にやればいいのに……とも思ったが、ここで文句を言っても仕方がない。
俺は重い腰を上げて、再び学園へ向かうことにした。
〇
「合格おめでとうございます、アン・ノウン様。本日は入学手続きのためにお越しになられたということでよろしいでしょうか?」
「……ああ」
俺の対応をしてくれたのは、またしてもあの冷徹なる事務員だった。
……いやまあ、別にいいんだけどさ。
「承知致しました。それではまず、こちらの書類をよく読んでサインをお願いします」
そう言って一枚の紙を手渡された。
紙にはみっちりと文字が書かれていたが、どうせ大した内容ではないだろう。
ざっと目を通して、言われた通りサインをした。
「……書けたぞ」
「はい、ありがとうございます。では次に、魔剣の登録を行いますね」
「…………?」
魔剣の登録?なんだそれは?
俺が疑問を抱いているうちに、事務員はカウンターの下からなにやら灰色の薄い石板のようなものを取り出した。
よく見るとその石板には複雑な模様が刻まれている。
「お持ちの剣をこの上に載せてください」
そう言って事務員は石板を手で指示した。
「…………ああ」
よく分からないが、まあ言われた通りにしておけば間違いないだろう。
俺は鞘から剣を取り出し、そっと石板の上に置いた。
「それでは、登録を開始します」
事務員が告げたのと同時に、石板に刻まれた紋様が青く発光し始めた。
一部が不規則に点滅したりなんかもして、なんだか近未来的な印象を受ける。
「…………あれ?」
ふいに、事務員が首を傾げた。
「おかしいですね。この魔剣、一切魔力を検知できないのですが?」
「!!!!?!?」
心臓が飛び跳ねた。
なんだ、どういうことだ?
魔力を検知できないって、そりゃそうだろう。だってただの銅剣だもん。
え、もしかして魔剣というからにはちゃんと魔力がこもってないとダメなやつなのか……?
「あのー……、当学園は魔剣士学園ですので、魔剣の所有者以外の入学はできないのですが……」
「!!!!?!?」
「さらに申しますと、もし第3次試験でも魔剣でないものを使用したとなりますと、試験規則違反となり重大な罰則が課される可能性もありますが……」
「!!!!!!?!?」
や、や、やばい……!
何も知らないうちに、もう引き返せないところまで来てしまっていた。
どうしよう……。
なにか、どうにかしてなにか上手い言い訳を……っ!
「………………封印」
「はい?」
「……そ、そうだ、封印だ。言い忘れていたがこの魔剣はあまりにも力が強大過ぎるのでな……、普段は強力な封印を施してその力を封じているのだ……。一切魔力が検知できないというのも、無理からぬ話だろう……」
「はあ」
ど、どうだ……、納得した、のか……?
事務員は相変わらずのポーカーフェイスで、思考が一切読めないのだが……。
「……それでは一時的に封印を解いてもらうことはできますでしょうか?」
「そ、それは難しい話だ……!なにせこの魔剣の力は所有者である俺にも完全に制御することはできない!もし内在する莫大な魔力が暴発してしまえば貴様の命を保証することはできんぞ!実際に過去魔剣が暴走した際には数百人の人間が犠牲となり小さな町の一つが一瞬にして消し飛んだほどだ!それに施されている封印術はかなり珍しいもので東方の賢者である聖徳太子が数千年の歳月をかけて施したもので、一度解いてしまえば再び封印するのは至難の業で」
「…………」
ここぞとばかりに俺はでたらめな言い訳を畳みかけた。
もう自分でも何を言っているのか分からないが、……頼む、頼むから見逃してくれえええええええええええ!!
やがて、無表情のまま話を聞いていた事務員が口を開いた。
「……分かりました。なにやら複雑な事情があるようですね。そういうことでしたら、剣の形状や材質といった情報でも登録は可能ですので問題はありません。では、魔剣の方をお返しします」
その言葉と同時に、俺は石板の上の剣を食い気味に手に取り、かつてないほどの速度で鞘に納めた。
よ、よかった~。何とか耐えた……!
「以上で入学に必要な手続きは終了となります、お疲れさまでした。最後に制服をお渡ししますね。こちらをどうぞ」
いつの間にか用意されていた制服の一式を受け取った。
分厚く高級感のある生地だ。
「入学式の際には制服で出席してくださいね」
「…………分かった」
分かったから、早く帰らせてくれ。
これ以上長居するとまたボロを出してしまいそうだ。
「それでは今後もよろしくお願いします」
そう言って事務員が頭を下げたのと同時に俺は軽く会釈を返すと、即座に
なんとも幸先の悪いスタートダッシュを切ってしまった気がする。
果たしてこの厨二キャラを維持したまま、学園生活を送ることはできるのだろうか。
もしかすると俺は、とんでもない茨の道を歩もうとしているのかもしれない……。
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